プーチン氏と金正恩氏の共通点

ウクライナ情勢がいよいよきな臭くなってきた。ウクライナ東部で19日だけで1400回以上の爆発があった。前日は654回だったというから、ウクライナ政府軍と東部分離派武力勢力間の衝突が激化していることが分かる。バイデン米大統領は、「ここ数日以内にロシア軍がウクライナに武力侵攻する可能性がある」と預言者のように述べていたが、ウクライナ状況が危機を深めていることは確かだろう。

ルカシェンコ大統領と軍事演習を見るプーチン大統領(2022年2月19日、クレムリン公式サイトから)

ウクライナの近況はロイター通信やAP通信など通信社電からの現地ニュースで詳細に報じられているので、ここではウクライナ情勢を報じる欧州メディアをフォローして当方が感じてきた印象などを紹介する。

ドイツ民間放送は、プーチン大統領が19日、軍事演習の総指揮をとっているシーンを映し出していた。プーチン氏の横にはベラルーシのルカシェンコ大統領が座って、前方に設置されていたスクリーンを見ていた。その時、「プーチン氏は北朝鮮の独裁者金正恩総書記のようだな」という思いが出てきた。朝鮮中央通信(KCNA)がミサイルを発射する瞬間を望遠鏡で追う金正恩氏の写真をよく配信していたこともあってか、テーブルに座って軍事演習を指揮するプーチン氏の姿が一瞬、金正恩氏の姿とオーバーラップしたのだ。

北朝鮮は先月、7回にわたり短距離ミサイル10発、中距離ミサイル1発の計11発のミサイルを発射している。なぜ金正恩氏はミサイル発射を繰り返すのだろうか。韓国の知人と話していてもその点がポイントとなった。プーチン氏にもいえる。なぜウクライナ東部周辺沿いの国境線に10万人を超える兵力を結集させ、ベラルーシにまでその包囲網を拡大させているのか。ウクライナを本当に武力侵略する意図があるのか、といった疑問が欧米指導者、メディア関係者から頻繁に聞かれる。

プーチン氏は今回、ロシア軍の最高司令官として軍事演習を指揮した、同演習には、空軍に加えて、南部軍管区と黒海と北海の艦隊からの陸軍部隊も作戦に参加した。今回のハイライトは、核搭載可能な弾道ミサイルの発射だ。ロシアが米国と共に核大国であることを想起させている。全て計算している。ノルマンディー形式の独仏露ウクライナ4カ国の対話前に米露間の合意がなければ意味がない。全ては米国との交渉で少しでも有利になるための狙いがあるからだ。

その点、朝鮮半島での北朝鮮の基本的ポジションも同じだ。韓国の文在寅大統領がいくら頑張っても南北の和平は実現しない。過去5年間の政権の歩みがそれを実証した。金正恩氏は米国と直接交渉を通じて核問題を含む朝鮮半島の安全問題を解決したいのだ。強権政治を展開させるプーチン氏も朝鮮半島の独裁者金正恩氏も同じシナリオに基づいて動いているわけだ。

クレムリン宮殿内の会議用長テーブル(ロシア大統領府公式サイトから、2022年1月19日、プーチン・ライシ両大統領の首脳会談)

次は、モスクワのクレムリン宮殿内の会議用の長テーブルの話だ。プーチン氏は今年に入り、イランのライシ大統領、フランスのマクロン大統領、ハンガリーのオルバン首相、ドイツのショルツ首相らとの首脳会談には必ずその長テーブルを利用している。

プーチン氏は推定4メートルぐらいの長テーブルの一方の端に座り、ゲストは反対側のテーブルの椅子に座る。その写真を初めて見て、驚いた。ホワイトハウスでは米大統領とゲストは1メートルもない距離で談笑する。クレムリンの長テーブルが機能的で外観も美しいだけに、そこ座らされている外国ゲストの姿が少々滑稽だった。当方がクレムリン宮殿の長テーブルのことを気にしていたら、ドイツ放送記者も同じ印象を吐露していた。やはり、誰が見ても少々、可笑しい。

プーチン氏は同盟国ルカシェンコ大統領とは笑顔で抱擁し、通常の椅子に座り話していた。マクロン氏やショルツ首相とは長テーブルで4メートル先の相手の顔を観ながら話すプーチン氏の姿が映っていた。外国首脳との会談用長テーブルについては、①新型コロナウイルスの対策(西側では通常2メートルディスタンス)のため、②ロシア、プーチン氏との親密度を示す、といった解釈が聞かれる。問題点は、ロシアに傾斜するハンガリーのオルバン首相とも4メートルの距離を置きながら会談していたことだ。ただ。会談後、両者は共同記者会見をして、その親密度を見せていた。ハッキリとしている点は、情報機関出身のプーチン氏は会談用テーブルひとつでも非常に些細な点まで考えて演出する傾向があることだ。だから、どこで、誰と、いつ会うかなどを詳細に観察していると、プーチン氏の真意が読めてくることがある。

いずれにしても、ウクライナ危機が本格的な武力衝突まで発展するか、外交的解決の道が開かれるかは、バイデン米大統領の「ここ数日中」には明らかになるだろう。

不幸にも前者の場合、欧米は「これまでにない厳しい制裁を行う」と繰り返し警告してきた。ただ、具体的にどのような制裁かはまだ言及されていない。なぜならば、北大西洋条約機構(NATO=加盟国30か国)も欧州連合(EU27カ国)も重要な議題を決める時は全会一致が原則だからだ。例えば、NATO、EUの加盟国のハンガリーはプーチン氏の意向を無視できないから、反対、ないしは拒否権を行使することが予想される。すなわち、「これまでにない厳しい制裁」と繰り返す欧米側は具体的な制裁内容については依然一致していないのだ。ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、ドイツで開催された「ミュンヘン安全保障会議」(MSC)で「欧米側は対ロシアの制裁内容を公表して、モスクワに圧力を行使すべきだ」と要求したのは、当然かもしれない。

プーチン氏にとって朗報は、北京冬季五輪大会が20日、終わったことだ。中国の習近平国家主席がプーチン氏と呼吸を合わせて動き出すと、世界は深刻な事態に直面する。ウクライナ危機、台湾危機が同時期に武力衝突にまで発展すれば、戦後最大級の危機だ。「あと数日以内」に状況は明らかになるだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年2月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。