ウラジーミル・プーチンという男

プーチン大統領
ロシア大統領府サイトより

ウラジーミル・プーチン、69歳、元KGB情報部員、1999年、46歳にて大統領、その後、ロシアの実質的権力者として君臨、今日に至ります。父は軍人、母は工場勤務の家庭に育ち、裕福とは言えないものの普通のくらしでした。兄弟は兄が2人いましたが、プーチンが生まれた時は既に亡くなっており、一人っ子のような育ち方をしています。

幼少時代の性格は頑固、勤勉、記憶力はよいが、悪ガキであったようです。映画をみてスパイに憧れ14歳の時にはKGBの支部を訪問しています。その後、柔道に打ち込み、レニングラード大学法学部を卒業後、KGBに入っています。

彼はクマのように体が大きなロシア人の中では身長170センチに満たない小柄な体格です。幼少時代から体力では勝れないので頭脳で勝ち抜くことをずっと思ってきたのでしょう。そしてそれ以上に諜報という部門に長くいたことで自分の考えや目標を公開しないという癖もついたはずです。人格形成は様々なエレメントが混ざり合った中で作られるのですが、69歳のプーチン氏の最大の不思議は「何を考えているのか誰もわからない」点ではないでしょうか?

なら、お前は分かるのか、といえばそんなわけはないのですが、なんとなくは感じるものがあります。「あまのじゃく」という表現も当てはまるのですが、非常に明確な野望を持ち、そこに向かうためにいかに欺くかということに極めて長けている人物です。

北方領土問題について安倍元首相とあれだけ会談を重ねたのに成果はゼロです。なぜ、ゼロなのか、といえば初めからそんなつもりは毛頭ないからです。それこそ、日本に於いて歴史の前提条件が変わるほどの激変がない限り、平和条約や経済交流と引き換えにあの島を返すほどお人よしではありません。ただ、話を聞くだけで日本の首相達は極めて丁寧に、そしてプーチン氏がどれだけ遅刻しようとも顔色一つ変えず、「ようこそお越しくださいました」と歓待してくれるのです。

ロシア外交部は日本とは平行線を維持しておけば100年でも同じことを繰り返せると考えています。なぜなら軍隊を持たない日本は実力行使という選択肢が皆無だからです。どれだけ経済関係を深めたとしてもアメリカが背後にいる日本とディールすることはないし、仮に日本がロシアに好条件を示すようならばアメリカが黙ってはいないのです。つまり、柔道で言う組み合う前から勝負は決まっています。

領土という発想に日本は比較的十分な意識を持ってこなかったと考えています。それは多くの離島が他国にとってかつてはほとんどメリットのない小島だったからです。戦前、誰もそれを占拠しようとしなかったし、日本もそれを守るという意識はなかったのです。

ところが大陸ではギリシャ、ローマ時代から領地の奪い合いの歴史であったといってよいでしょう。国が変わり、国境が変わります。地図が何度も書き換えられ、興亡の連続でした。第二次大戦が終わってからも領土をめぐる地域紛争は数多く起きています。今回のウクライナもそもそもソ連の領域だったのでそれを取り返す、それに尽きるのです。

ではなぜ、今なのでしょうか?私はプーチン氏が「いくつもの偶然が重なった絶好機」と考えているとみています。まず、コロナで世界が十分にリンクしておらず、各国が国内政策に目が向いていること、中国が香港を取り込み、南沙諸島での紛争を仕掛けており、更に台湾を刺激していることで紛争ムードがあること、北朝鮮が独自の行動をとる中でロシアとは関係構築できることがあります。

次に各国首脳を見るとバイデン氏がとにかく弱いこと、欧州首脳も選挙や新政権樹立直後という十分安定な状態にないこと、ベラルーシのルカシェンコ大統領とプーチン氏が蜜月であること、そして最後にウクライナのゼレンスキー大統領がNATO寄りでけんかを吹っ掛けてきたのはお前だ、という理由付けをしやすいことがあります。

そして一番大事なのはウラジーミル・プーチンの功績を築き、偉大なるロシアを復活させるための自己アピールであります。

私はかなり前から戦争が起こるかもしれない、と申し上げてきました。多くの方は西側諸国の制裁を考えればそんなこと起きるはずがない、とご意見いただきました。プーチン氏はそもそも普通の考え方とは尺度が違います。敢えて言うなら金正恩氏と同じぐらい読めないのです。共通する野望は非常に似ており、チャンスがあれば絶対に取りに行くのです。

ソ連時代を知っている人はお分かりだと思いますが、あの国はモノも食べるものもろくになかったのです。私がモスクワやレニングラード(当時)に行った時も外国人や富裕層のためのダラーショップに行けばモノはありましたが、一般社会は配給でそれも少量、芋もパンも本当に手に入らない時代をずっと経験しています。その点では打たれ強さ、我慢強さはロシア人の民族特性として社会学でも出てくる特徴の一つです。

西側諸国が具体的にどのような経済制裁を企てているかわかりませんが、彼らは生き抜く力はあります。そしてオイルとガスという二つの資源は核弾頭以上の強い武器であるともいえるのです。プーチン氏が戦争のボタンを押すのかどうか、瀬戸際とされます。ウクライナと西側諸国がよほどロシアに有利な条件を出さない限りプーチン氏は攻めの手を緩めないとみています。しかし、戦争になってもこの勝負はそう簡単につかないかもしれません。それは戦場の実際の戦いより場外戦の規模がはるかに大きくなるからです。寝技ありのかなり複雑で予想がつかない展開になる気がしています。

私は最後は中国がキーになると思っています。習近平氏が暗躍するのか、ヒーロー役を演じるかそのシナリオは誰もまだ考えていないはずです。そして習氏もまだ悩んでいるように見えます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年2月21日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。