Democracy fights in anger:プーチンに対峙するにあたって

Democracy fights in anger (民主主義国は怒りに駆られて戦う)byジョージ・ケナン

ゼウクライナの戦いに呼応して、日本含め「自由民主主義陣営」の国々が日々結束を強める変化にここ数日ずっと、あの米ソ冷戦の封じ込め作戦の立案者であるジョージ・ケナンの有名なフレーズが頭の中をぐるぐる回っている。

プーチン大統領は、「死に体」のNATOが、「ヘタレ」の西側民主主義国が、欧州から遠く離れた日本や豪州などアジアの国々がここまで結束するとは予想しなかっただろう。それは、プーチン大統領の思考が、マキャベリズムとクラウゼヴィッツ的戦争観に支配されていて、自由や民主主義の本質を分かっていないからだ。

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ゼレンスキー大統領の意外なまでの(スミマセン)英雄的なリーダー振りと、その下で祖国を守るために団結して戦う勇敢なウクライナの人々の姿には泣きたくなるような感動とそのような状況をもたらしたロシアの軍事侵略に対す強い憤りを覚える。子供たちを含む民間人含め2000人もの人が亡くなったとの報道に胸が張り裂けそうだ。毎日のニュース、SNSは、世界中にその姿を伝え、世界の多くの国、特に西側民主主義諸国の厳しい反ロ連帯となっている。国家は対ロ制裁を強化し、ウクライナからの避難民を受け入れ、一般の人々はデモや支援やSNSなどでウクライナへの支持を表明し、プーチン大統領を孤立化させている。

もともとこの「民主主義国は怒りに駆られて戦う(Democracy fights in anger)」というのは、ケナンが米ソ対立の中、米国がどういう場合に戦争をするかについて述べた部分である。なので、全ての民主主義国について該当するわけでもないのだが(民主主義といってもいろいろある)、私はかならずしも地政学的利害計算に基づかない(つまり、クラウゼヴィッツから見れば馬鹿げて子供じみて見える)衝動こそ自由や民主主義を信奉する国々に共通する点であり、今回、プーチン大統領に対する勝利をもたらす要素となり、同時に、追い詰めすぎて適切な均衡を失う解決とならない要素ともなると考える。

長いのでざっくり要約すると、

「民主主義国は平和を愛し、挑発されてもなかなか戦争に訴えようとはしない。しかし、一旦、武力に訴えなければならぬほど追い詰められ戦うことになるなら、そのような事態をもたらしたことについて相手を許さない。民主主義国は怒りに駆られて戦う。そして、敵が二度と同じことができないよう徹底的に罰を与える。」

”A democracy is peace-loving. It does not like to go to war. It is slow to rise to provocation. When it has once been provoked to the point where it must grasp the sword, it does not easily forgive its adversary for having produced this situation. The fact of the provocation then becomes itself the issue. Democracy fights in anger — it fights for the very reason that it was forced to go to war. It fights to punish the power that was rash enough and hostile enough to provoke it — to teach that power a lesson it will not forget, to prevent the thing from happening again. Such a war must be carried to the bitter end.”

プーチンという特異な独裁者

プーチン大統領は、ウクライナの中立化、非武装化によるNATO加盟の永遠阻止を企図し、計画に従って軍事作戦を推進している。しかも、リスク許容度や人間に対する残忍さが著しく高い。サイコパスなのか少し精神状態が不安定になっているのかはわからないが、まさかここまでしないだろうと我々が思った予想の全てを超えてきているのが事実だ。

まさかウクライナ侵攻はしないだろう。という予想は外れた。

ウクライナのNATO加盟を当面阻止するために軍事侵略は必要なかったが24日あっさり国境を越えて侵攻した。(すでに国境を取り囲んだ時点でNATO加盟の見込みはなかった。加入させた途端にロシアと紛争になる国をほいほい入れるほどNATOはお人よしではない)

まさかキエフまで侵略しないだろう。

東部州の「独立維持」のためなら、キエフや他都市まで侵攻する必要はなかったが、実際にいまウクライナの首都を地上軍で包囲し無差別攻撃を行っている。

これまでのプーチンの行動を見れば、核の使用を匂わせるような発言をしたが、「まさかさすがに核は使わないだろう」という我々の予想が外れる可能性がないとはいえない。核だけは絶対に使わせてはいけない。甚大な被害の上、核抑止体制が壊れかねない。どうやってプーチンを止めたらいいのだろうか。

プーチンの異常さが際立つだけに、最近、「中国の習近平国家主席の方がまだましではないか。」(Financial times)という論調が出てきたことには警戒を要する。あくまでも主たる戦略的競争相手は中国のはずだ。それに毛沢東を目指している習近平国家主席の方がプーチンよりましかどうか誰がわかるだろう。とはいえ、この際、プーチンを止めるためなら中国でもなんでも一肌脱いでもらいたい。

我々がすべきことと気を付けること

(1)国連の特別総会は急な開催であったにも関わらず193加盟国のうち141か国が対ロ非難決議に賛成した。ウクライナ大使のスピーチは、ウクライナは国連であり、国際秩序だ、ロシア国民さえ揺さぶっただろう。ロシアという国家が変わるときは常に内側からである。プーチン大統領は2024年に大統領選挙を控えている。国内で反戦気分が高まり、国内での支持を失うことは戦争を早く引き上げるインセンティブとしては最も有効かもしれない。そのためには、国際社会が一致団結して最大限の経済制裁や政治的圧力をかけること、ロシア国内の反戦の声を大きくすることが必要だ。情勢の推移を目を凝らしてみている習近平国家主席に対し、「台湾に手を出せば非常に痛い目を見るだろう」と想像させるぐらい厳しくなければならない。

(2)他方において、プーチン大統領を追い詰めすぎれば、核使用まで至ってしまうおそれもある。もっとも、そのような挙にでるのが明らかであれば側近が暗殺したりするかもしれないが。

“Democracy fights in anger”式で行くと、ロシアに全てを失わせるまで、つまり、ドネツク、ルガンスク、クリミアからもロシア軍を追い出すまでベトナム戦争のように長期化する戦争をウクライナが遂行し、それを西側が助ける、その過程で問題の現況であるプーチン氏自身を排除するまで戦うという思考になりがちだ。しかし、その場合は、ロシアの核使用がありうるし、ウクライナにもロシアにも甚大な被害がでるだろう。ウクライナ自身がそれを望むかどうかという問題もあるが、

前回、前々回のブログでも示唆したが、大国は自国の隣接する場所に敵対勢力をおきたくないというのは地政学的な要請で不変だと思う。したがって、このロシアの懸念を解消できない限り常に紛争の種を残すことになる。地政学的な問題には配慮が必要だと考える。なので、私は、早急にプーチン大統領のメンツを一定立てつつ外交的解決を実現すべきだと考える。その際、”Democracy fights in anger”は、相手(ロシア)を徹底的に罰そうという衝動から、「合意」を拒みたくなるかもしれないがそこは自制が必要だと思う。NATOが軍事介入しない以上、軍事的な意味でロシアを徹底的に敗戦させて無条件降伏させるというのは非現実的である上、そうしようとすれば多大なウクライナ人の犠牲者が出ると懸念するからだ。つまり、ゼロイチの解決は余り現実的でない。

ウクライナをロシアにとっての何らかの形でNATOとの緩衝地帯とすることができなければプーチンはいかなる合意も多分できない。ロシア兵も多数亡くなっている中で軍事的に敗北していないのに何も得ないで合意することはあり得ない。実際問題NATO加盟は現実的ではなくなっているのだから、当面のNATO非加盟とか、中立国化をNATOとロシアが保障するとか(非武装はありえない)、東部地域とクリミアへのロシア駐留維持(現状維持プラスアルファ)とか様々なことが考え得る。プーチン大統領に脅されている状況は非常に不快だ。でも、これ以上ウクライナの人々の人命が失われ、ましてや核を使われる可能性を排除できないままで良いのか、と自分は思う。ゼレンスキー大統領はウクライナだけでなく世界の英雄となった。その力を使って、ウクライナの長期的な平和のために外交をしてもらいたいと思うし、米国、NATOが外交的解決を模索するべきだ。何より、プーチン氏自身が早く外交的解決で手じまいするべきだ。もはや戦略的勝利はなくなったことはプーチン氏自身がわかっているだろうから。

プーチンの戦略的失敗

今後も動く中で早すぎるかもしれないが、ロシアは軍事的には勝利する可能性があるが(戦術的勝利)、戦略的には既に大失敗を犯したことは明白だ。

  1. ウクライナは、半永久的にロシアを敵国とみなす。つまり、ロシア国境に最大の反ロ国を出現させた。
  2. ウクライナは決定的に西側志向になった。
  3. 死に体だったNATOを結束させ軍事的にもより強化した(cfドイツが2%の軍事費増を決定、ニュークリアシェアリングを強化の方向)
  4. ロシアは国際的に孤立し、経済制裁が長引けば長引くほど、中国を除く世界の主要サプライチェーンから排除され、経済的にさらに弱体化する。
  5. 4より中国依存となり、(意思に反して)中国のジュニアパートナー化する
  6. プーチン氏自身の2024年大統領選挙の勝利は怪しくなる可能性大