1952年10月7日午前9時半に誕生したとされているプーチン氏。その政権崩壊の最初の兆しは、今年10月に見られるであろう。
大ロシアの建国に執念を燃やして来たプーチン氏
これまで大ロシアの建国に執念を燃やして来たプーチン大統領が求めているのはウクライナに先ずは傀儡政権を誕生させることだ。それが容易でないことを承知しているプーチン氏はまずウクライナがNATOに加盟しなことを同国が誓うことを求めた。そして、ウクライナがフィンランド化して中立国になることだ。ウクライナはそれを拒否した。だからプーチン大統領はウクライナに侵攻することを決定。ウクライナに侵攻して現在の政権を失脚させて当初から望んでいた傀儡政権を樹立させることだ。そして最終的にはロシア連邦に加えることだった。
米国もNATOも軍事的にウクライナに介入することはないと判断して侵攻すれば比較的容易に征服できると考えたようだ。しかし、現実はそれとは反対に侵攻に抵抗を見せるウクライナ国民を前にしてプーチン氏は同国を完全に失ったことになる。
これまでのロシアではプーチン大統領の方針に反旗を翻す者は誰もいない。Yes Manで囲まれているのがプーチン氏だ。今回のウクライナ侵攻についても官僚の間では外交での模索をもう少し継続すべきだという助言があったという。しかし、プーチン氏はそれを無視した。プーチン氏を囲む側近の間では彼が聞きたいことをいつも発言してそれで終わりだという。
3月2日付「インフォバエ」が気になることをひとつ言及している。英国秘密情報部M16の元長官ロバート・ジョン・サワーズ氏が同日オックスフォード・ユニオンにて講演を行い、最近のプーチン大統領がいつもと違っているのを観察したと指摘。コロンパンデミックによるこの2年間で彼に何が起きたか不明であるが、彼のアドバイザーや官僚との接触から離れ、信じられないほどに孤立していたことに言及し、知りたい情報しか手に入らないようになっていたようだ、と述べたのである。
同様に、同日付「ABC」でも米国上院の情報委員会のマーク・ワーナー委員長がプーチン氏が入手する情報量が減っていることを指摘し、しかも入って来る情報は中立性に欠けて出世欲に駆られたような人物からの情報であることに言及している。
ウクライナの親ロシア派ドンバス地方の独立をプーチン氏が容認したことについてもロシア市民にとって納得いかないものであったが、弾圧を恐れて黙るしかなかったという。
2月24日に非政府世論調査レバダセンターが公表した調査によると、独立容認してウクライナに侵攻を開始したことについて過半数に満たない45%がそれを支持したという。プーチン氏に関係した出来事では支持率は常に70%を超えるのが慣例となっていた。
世界からファンを失ったプーチン氏
ウクライナへの侵攻が起因となってプーチン氏は世界から悪者に変身した。それが本来の彼の姿であろう。これまで彼は魅力ある人物として仮面を被っていた。彼はもともと多芸の持ち主で、イデオロギーの違いを超えて世界から彼のファンが多く作ることに長けていた。が、今回の侵攻でその偶像は壊れ、彼は孤立してしまった。これまではロシアを再興させたとして決して豊かでない多くのロシア市民からも支持を多く集めていたが、それもこれから徐々に失って行くであろう。
ロシアがデフォルトに陥る可能性も生まれている
またEUからのこれまでにない厳しい制裁の影響でロシアはデフォルトに陥る可能性も出ている。これから複数の銀行の倒産も出て来るであろう。そうなれば預金封鎖も実施される。更に、経済は2桁の後退を余儀なくされる可能性も出ている。
大手企業もロシアからの撤退を決めている。例えば、BPは所有するロスネフチの全株売却を決定した。同様にシェルもロシアからの全事業の撤退を決めた。ダイムラートラックもロシアでの全事業を一時的に停止することを決めた。これらはほんの一部の例であって国際企業がロシアからの事業を撤退するケースが増えている。
スポーツ関係でもロシアのチームや選手の国際選手権への参加が出来なくなり、更にロシアでの国際競技も開催されなくなっている。サッカーチームのロコモティフ・モスクワのドイツ人監督ギズドル氏もロシアのウクライナへの侵攻に抗議して監督を辞任した。
また一般の市民も銀行からお金を引き出すのに長蛇の列に並んでも容易に引き出せなくなっている。市民のひとりは「政府が預金の全額を差し押さえ、同様に銀行のカードも凍結させるのではないかと恐れている」と取材に答えたという。(3月1日付「インフォバエ」から引用)。
プーチン氏への崇拝が崩壊
これらの出来事から、これまでロシアを再興させたプーチン氏への崇拝が崩れることになるのは必至だ。そして、市民の抗議デモはより活発になるであろう。これまで口を封じられていた市民の間では「散歩するのに出かけよう」とネットで言及するのが抗議デモに参加するサインになっているそうだ。
ロシアのメディアOVD-Infoによると、2月24日の戦争反対の抗議デモに参加した人たちの中で数千人が拘束されたそうだ。ウクライナへの侵攻が短期戦で終わる可能性がないことからロシア兵の死者もこれから多く出るであろう。そこで反戦抗議デモは次第に規模が膨らんでいくはずである。(2月24日付「エル・ディアリオ・エス」から引用)。
このような事態になったのもプーチン大統領の独断で兄弟国であるウクライナに侵攻したのが起因であるというのは市民の誰もが理解している。この侵攻が正当性のないものであるというのは市民は承知している。しかし、兄弟国となったのは18世紀以降で、それまでウクライナは独自の歴史を歩んでいた。
「自分の国に恥ずかしさ感じている。正直言って、言葉が見つからない」と語ったのは30歳の学校の教師ニキタ・ゴルベフ氏だ。
ロシアで最も愛されている歌手ヴァレリー・メァジェ氏は製作したビデオで「お願いです。ロシアよ、戦争を中断させよう。起こるべきでなかったことが今日起きた。歴史がそれを裁くであろう。しかし今日、戦争は中断すべきだ」と述べた。(2月24日付ガーディアン紙と提携している「エル・ディアリオ・エス」から引用)。彼は崩壊したソ連の時代を知らず、またそこから再興させたプーチン氏の活躍を知らない。
昨年ノーベル平和賞を受賞したノーバヤ・ガゼータ紙の編集長でディミトリー・ムラトフ氏は「プーチン大統領は我が国にウクライナとの戦争を命じた。この戦争を止める者は誰もいない。だから心は痛み、恥ずかしさを感じる」と失望感に包まれたメッセージを送った。(2月27日付の前述紙から引用)。
プーチン大統領への国民からの支持は下降し、抗議デモもこれから次第に膨らんで行くはず。プーチン大統領に異を唱える野党議員も登場して来るはずだ。何しろ、ウクライナへの侵攻の終了はプーチン氏が予測していた以上に長引く可能性が高いからだ。長引けば長引くほどロシア市民の生活は更に厳しさを増すことになる。その一つの頂点が今年10月に入ってプーチン大統領の政権継続に強い疑問が投じられるようになるはずだ。それ以後もロシア経済は後退し、その責任がプーチン氏に向けられるようになる。それが彼が政権から降りる第一歩となるはずだ。