核戦争は起こるの?

池田 信夫

よい子のみなさんは核戦争といっても何のことかわからないと思いますが、30年ぐらい前まで、人類は核兵器で滅亡すると思っている人が多かったのです。いまウクライナで起こっているのがどんなに大変なことか理解するには、これを知る必要があります。

BBCより

Q1. 核戦争って何ですか?

核兵器(原子爆弾や水素爆弾)を使った戦争のことです。普通の爆弾とは桁違いに威力が大きく、1発で数十万人殺せるので、広島・長崎から77年間、使われたことがありません。

でもロシアのプーチン大統領は2月28日、核抑止部隊に「特別警戒」させる命令を出しました。これは核兵器を今すぐ使うという意味ではありませんが、いつでも核ミサイルを発射できる態勢にしたということでしょう。

Q2. いま世界に核兵器はどれぐらいあるんですか?

核弾頭は世界全体で約1万3865発あります。今の核弾頭1発の威力は広島型の13発分といわれますから、世界で18万発分です。広島では1発で14万人が亡くなったので、18万発×14万人=252億人分。世界の人口が約80億人なので、人類を3回ぐらい全滅させることができる計算です。

Q3. すごいですね。そのうちロシアはどれぐらいもってるんですか?

次の図のようにそのうちロシアが6500発、アメリカが6185発もっています。この2ヶ国で、世界の核兵器の90%以上を占めます。ロシアのもっている核兵器だけで、人類を全滅させることができるわけです。

Q4. プーチン大統領は本当に核兵器を使うんでしょうか?

それは彼以外にはわかりませんが、何かきっかけがあったら使おうとしているようにみえます。通常兵器では、ロシアよりNATO(北大西洋条約機構)諸国のほうがはるかに優勢なので、核兵器で短期決戦したいのだと思います。戦争には意味のないザポロジエ原子力発電所を砲撃して世界を驚かせたのも、NATOの介入を誘うためかもしれません。

Q5. NATOって何ですか?

これはアメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど30ヶ国からなる軍事同盟です。日米安保条約みたいなものですが、NATO条約の第5条で「欧州または北米における一つの締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなす」と定めており、その加盟国に対する攻撃に対してすべての同盟国が反撃できます。

Q6. ロシアがウクライナを攻撃したら、NATOは反撃するんですか?

ウクライナはNATOの加盟国ではないので、ロシアの侵略をNATOに対する攻撃とみなすことはできません。でもウクライナはNATOに加盟したいと申し込んでおり、今回の攻撃についてもNATOの支援を求めています。

Q7. NATOはウクライナを支援してるんですか?

今のところ戦車やミサイルなどの武器をウクライナに渡しているだけで、NATOの部隊がウクライナ領内に入っているわけではありません。ウクライナは今まで、NATOとロシアの間にあって核兵器を配備しない緩衝地帯だったのです。

Q8. なぜNATOの部隊がウクライナ領内に入って助けないんですか?

これはむずかしい問題です。ウクライナは助けに来てほしいといってるんですが、そうするとウクライナ領内でNATO軍とロシア軍が衝突することになります。このときロシア軍が「NATOからの攻撃に反撃する」という口実で、核兵器を使うかもしれません。

そうするとNATOも核兵器で応戦せざるをえないので、あっというまに何百万人も死ぬ可能性があります。ワイドショーのコメンテーターが「ウクライナは降伏すればいい」というのは逆です。ウクライナが降伏したらNATOとロシアが直接衝突し、核戦争の危険が強まります。

Q9. せめてロシアの爆撃ぐらい止められないんでしょうか?

ウクライナはNATOがウクライナ上空に飛行禁止空域を設定して守ってほしいと頼んでいますが、NATOは応じていません。戦闘空域を設定すると、NATOの戦闘機がウクライナ上空に入り、ロシアの爆撃機が入ってきたら撃墜します。プーチン大統領はそれをロシアへの攻撃とみなして、核兵器で攻撃するおそれがあるからです。

NATOの事務総長もいっているように、核兵器の応酬が始まると、ウクライナ領内ではすまず、ヨーロッパ全体を巻き込む第3次世界大戦になる可能性があるので、飛行禁止空域も設定していないのです。

Q10. なんか冷たいですね。ウクライナを助ける方法はないんですか?

銀行の国際送金システム(SWIFT)からロシアの銀行を排除するとか、各国の中央銀行がもっているロシアの外貨を差し押さえるとか、経済制裁はやっていますが、これはすぐきくわけではありません。

ただ長期戦をやるには補給が必要ですから、外貨の半分が差し押さえられて海外から物資が入ってこなくなり、はらうお金もなくなります。そうなるとかえって一発逆転をねらって、核兵器を使う危険もあります。

ただウクライナ領内で核兵器が使われるとすれば、対戦車ミサイルのような小型の戦術核兵器なので、この映画みたいに核兵器の応酬で世界が全滅するわけではありません。日本のよい子のみなさんはそれほど心配しなくてもいいと思います。