なぜアメリカはウクライナに軍隊を派遣しないのか?

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民主党のジンクス

20世紀からの民主党の大統領の多くは大戦争への対応を余儀なくされてきた。ウィルソン大統領は第一次世界大戦、ルーズベルト大統領は第二次世界大戦、トルーマン大統領は朝鮮戦争、そして、ジョンソン大統領はベトナム戦争である。先述した大統領たちは全て民主党に属している大統領であり、時代背景などは違えど、大戦争に自国民を送り出す決断を全員がしている。

しかし、民主党の大統領が大戦争に参加するパターンはバイデン大統領を機に終止符が打たれてしまうかもしれない。ロシアのウクライナ侵攻はヨーロッパにおいては二次大戦以来最大の危機だと言われ、ロシアの核による恫喝により第三次大戦のハッシュタグがツイッターで急増する現象まで起きている。

バイデン大統領は以前からアメリカが軍事支援していたウクライナへの軍事介入を頑なに拒んできた。そして、それは実際のロシアとウクライナ間の戦争が勃発する前から言明しており、先日行った一般教書演説でも繰り返し協調した。

アメリカが「好戦的な」戦争をしたがる国であるというイメージを持たれる人々は今の状況が不可思議に思えるであろう。しかし、以下に示す3つの要因が明らかにするように、バイデン大統領の軍隊を派遣しないという決断は合理的であり、自国の限界をわきまえた決断である。

ウクライナを守る義務は無い

まず、アメリカがウクライナに軍隊を派遣しない理由はそもそも派遣する義務が無いからである。アメリカはウクライナ危機の前後においてヨーロッパ方面に軍を派遣しているが、それはウクライナのためではない。ロシアの行動を懸念視している東ヨーロッパのNATO加盟国への安心供与の主旨がある。

どのような安心供与かといえば、ロシアが一ミリでもNATO加盟国に介入すれば、それ相応の制裁が待っていることを示すためである。そして、そのロシアへの脅しとも取れるアメリカの姿勢の信憑性を増長させるのが、以下のNATO憲章第5条である。

欧州又は北米における一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に 対する攻撃とみなす。締約国は,武力攻撃が行われたときは,国連憲章の認め る個別的又は集団的自衛権を行使して,北大西洋地域の安全を回復し及び維 持するために必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び共同して 直ちにとることにより,攻撃を受けた締約国を援助する。

 5条の条文が表すように、NATO加盟国は集団防衛の義務が課されており、それゆえ一加盟国への攻撃はNATO全体への攻撃と認識される。しかし、ウクライナはNATOに加盟しておらず、正式な相互防衛条約を結んでいないため、アメリカは助けない。

しかし、バルカン紛争やイラク戦争などで法的拘束力の有無を度外視して国益を守るために軍事的手段を行使してきたアメリカを知っている者からすれば、義務が無いから助けにいかないというのは、どうしても方便に聞こえてしまう。

核をちらつかせるプーチン

そして、そう聞こえてしまうのはウクライナ危機の当事者がロシアという核保有国だからであることが関係している。ロシアはアメリカと並ぶ核大国であり、米ロが保持する核兵器の数は全世界の90%近い。さらに、ロシアは核兵器を実際の戦闘に投じることもいとわない姿勢を示しており、今回の危機の最中でも、核兵器、又はその行使をちらつかせながら、西側諸国をけん制している。

アメリカが欧州の同盟国とともに本格的に今回の戦争に介入すれば、核攻撃の対象となりかねない。そして一旦核がロシア側から使用されれば、報復措置として西側も核で対抗せざるをえず、そこから一気に核戦争に至るという破滅的な展開に到達してしまう。そのような危険性が内在している状況だからこそ、バイデン大統領は迂闊に軍隊をウクライナに派遣するとは言えず、アメリカの参戦により人類の滅亡を招いてしまう危険があるからである。

要するにバイデン大統領が軍隊を派遣しない二つ目の要因は、彼に核戦争のリスクを侵す覚悟がないからである。

右も左もアメリカ・ファースト

最後に、三つ目の理由はアメリカ国内で根強い国内回帰の声である。別の言い方をすれば、孤立主義とも表現できるが、それはアメリカが世界の警察として国際秩序を維持する役目があるという視点を有している同盟国側からでてくる言葉である。一方、一般的なアメリカ人からすれば、世界の警察であるアメリカというのは異常な存在であり、国民のために尽くしてくれる政府が理想である。

また、実際アメリカの国内状況を鑑みれば、そのようなアメリカ人の気持ちが分からくもない。現在、コロナやウクライナ危機などといった複合的な要因が重なって歴史的な推移でインフレが進行しており、ガソリンの高騰が止まらない。そのせいで日々の生活が苦しくなれば、海外で何が起こっているかは気にせずに、自国民のために政府に働いてもらいたいはずである。そして、それは保守であっても、リベラルであっても同じである。

また、その国民の内向きな傾向を象徴的に表したのが、先日のバイデン大統領の一般教書演説である。演説の冒頭の大部分を使い、バイデン大統領はウクライナとの連帯、ロシアへの非難を強調したが、全体の大部分をしめたのは国内政策についての言及である。また、演説で最も歓声が上がった箇所の一つが、民主党版のアメリカファーストであるバイ・アメリカン(アメリカ製品を買え)への言及だったことを考えるとアメリカの内向き化が同盟国にとって深刻であるか読み取れる。

アメリカは世界の警察に戻るのか?

以上、バイデン大統領のウクライナ危機への手腕を拘束している要因について考察を試みた。

アメリカが内向きなことは新しいことではない。大がかりな対外戦争をした後は大概孤立主義に走るが、外部からのショックを受けて対外関与を再び強める傾向を取ってきた。

しかし、自国の経済、文化、人種に依拠した構造的な問題が噴出しているアメリカに再度リーダーシップをふるう気力はあるのだろうか? アメリカが従来のパターンを繰り返すか否かを同盟国は注視している。