雇う側と雇われる側の相互コミットメント

人に何かを要求するときには、要求に応じることの相手の利益を提示しなければならない。故に、企業でも、官庁でも、人を雇って使うためには、人に報酬を与えるのである。しかし、役務の提供に対して合理的な報酬を支払うことは等価交換にすぎず、雇われる側に特別な利益はない。

実際、商人が商品を買えと顧客に要求するためには、商品の効用を顧客に示さなければならないが、顧客からすれば、商品の効用の対価を代金として支払っているのだから、そこに特別な利益はないのである。

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人は、報酬のためだけに働くのではない。故に、人を上手に使うためには、報酬以上のもの、即ち、何らかの特別な利益を与えなくてはならない。それは、通常は、仕事の楽しさ、働きがい、自己の研鑽と成長の機会などというものだが、近時、働き方改革の名のもとで、自分の都合に応じた働きやすさなど、多様化が進んでいる。

いうまでもなく、雇う側は、特別な利益の提供によって、雇われる側における精励、勤勉、高い就労意識、生産性の改善、創意工夫を引き出そうとするのである。

国家公務員の場合、特別な利益として、特権意識のあったことは否定できない。しかし、時代が変わり、国家公務員の特権意識など、とうに希薄化している。そこで、金融庁は、異色の官庁として、大胆な自己改革を推進するなかで、職員に対して、仕事のやりがいと自身の成長の実感を提供し、職員の自発的な創意工夫を得ようとしているのだ。

さて、金融庁にしろ、普通の企業にしろ、特別な利益として、職員自身の成長機会を提供しようとしても、成長意欲のない職員にとっては、特別な利益にならない。つまり、論点は、雇う側からすれば、人材の選別であり、雇われる側からすれば、自発的な成長への挑戦なのであって、人事の要諦は、成長しようとするものだけに、成長の機会を与えることに帰着するのである。

ここで重要なのは確約である。片仮名を使えば、確約はコミットメントである。雇われる側は、成長の努力を確約し、雇う側は、成長の努力への支援を確約し、成長の結果に対する報酬を確約する。この相互の確約、相互コミットメントこそ、人事の本質なのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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