安倍元首相の「核共有」議論の提起
自民党の安倍晋三元首相は、2月27日のフジテレビ日曜報道番組で、核保有国ロシアによる非核保有国ウクライナに対する軍事侵攻を受けて、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運営する「核共有」(ニュークリア・シェアリング)の議論の必要性につき問題提起した。
上記安倍元首相の発言を受けて、日本維新の会は3月3日政府に対し、現在の情勢下でも核保有国による侵略のリスクが存在すると指摘し、「核共有」の議論の開始を提言した。腰が引けた政府自民党に比べ、「日本防衛」のための勇気ある提言であり高く評価したい。
共産・立憲の「核共有」絶対反対
こうしたロシアのウクライナ侵攻を受けた「核共有」議論の高まりに対して、共産党や立憲民主党は「核共有」絶対反対を主張している。その理由は、「核のない世界」を目指す国際的な流れに逆行する、日本の国是である非核三原則の「核持ち込み」に違反し、自衛隊が核攻撃に参加することになる、核配備基地が攻撃目標となり危険である、周辺国の「核軍拡」に拍車をかける、などである(3月5日付「しんぶん赤旗」参照)。
これらの反対理由のうち「核のない世界」を目指すことには筆者も賛成である。しかし、現実に核保有国によって非核保有国が大規模に軍事侵略された今回の事態は、国の主権独立と国民の生命財産に係わる極めて重大深刻な事態である。したがって、日本としても、あらかじめこのような事態の発生を防止し、抑止することは極めて重要であり、「核共有」を含め、そのためのあらゆる選択肢の議論を排除すべきではない。日本の存亡が「非核三原則」に優先することは明らかである。
現に、3月6日フジテレビ日曜報道番組での9万人を超える視聴者の世論調査によれば、「核共有」の議論をすべきが76%、すべきでないが19%、わからないが5%であり、この調査結果に筆者も意を強くした。国民の多くは今回のロシアによるウクライナ侵攻を受け、「核抑止」を含め日本の安全保障に非常な不安や危機感を持っていることが分かる。この国民の不安や危機感を共産党や立憲民主党は真摯に受け止めるべきである。
ドイツなど5か国における「核共有」の機能
「核共有」は、NATO(「北大西洋条約機構」)において、旧ソ連に対する「核抑止力」として1950年代に導入され、現在はドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコに米軍の核爆弾「B61」が合計150発配備されていると言われている。
核爆弾「B61」は、平時には米軍の管理下に置かれ、戦時での使用も米軍が決定権を持ち、上記各国の核攻撃能力を持つF16戦闘機やF35Aステルス戦闘機などに搭載され、相手国の上空から投下する運用が想定されている。
ドイツなど5か国における「核共有」は、ロシアに対する「核抑止力」としての機能を十分に果たしており、共産党が言うような「核共有」がかえって危険であるとの懸念を全く持っていない。もし本当に危険であるならば、ドイツなど5か国は直ちに「核共有」をやめているはずである。
中国による日本の「核共有」断固反対
中国外務省の副報道局長は、2月28日の記者会見で、「安倍発言は非核三原則や核拡散防止条約に違反する軍国主義勢力の危険な動向だ」と述べ、日本の「核共有」に断固反対した。奇しくも、中国の主張は日本共産党の主張と軌を一にしている。
近年、核戦力を含めた軍拡に邁進し、「尖閣危機」や「台湾危機」などを惹起する核保有国の中国には、日本の「非核三原則」などを持ち出して「核共有」を批判する資格は全くない。中国の批判は、日本に対する「核」の絶対的優位性を未来永劫にわたり維持確保するためであり、逆に「核共有」の「核抑止力」としての有効性を証明していると言えよう。
核の傘を格段に強化する「核共有」
日本の米国との「核共有」の有効性は次の三点である(2019年9月13日掲載「韓国の核保有も睨み、日本は米国との「核共有」を急げ」参照)。
第一は、「核共有」によって、米国の「核の傘」(「拡大核抑止」)が格段に強化されることである。「核の傘」の信頼性については日本及び米国でも様々な議論がある。しかし、核兵器を日本国内に配備し、これを米軍と共同運営し、米軍と共同訓練を行うことは、「核抑止力」に対する日米同盟の信頼関係を格段に向上させ、「核の傘」を格段に強化することになる。
第二は、「核共有」によって、核保有国である中国の核の脅威に対して、日米が共同して対応できるようになる。一方的に米国に依存する「核の傘」とはこの点で格段の違いがある。これは中国に対して強力な「核抑止力」となる。
第三は、「核共有」によって、核保有国である北朝鮮が日本に対して核攻撃をすれば、日米共同で対処し、北朝鮮の崩壊を招くことを分からせることができる。
自民・維新はドイツなど「核共有」の実情を早急に視察せよ
以上の通り、日本の安全保障上、「核共有」には大きな有効性がある。
したがって、自民党及び日本維新の会は、「核共有」の議論だけではなく、前記ドイツなど「核共有」の5か国に早急に議員共同視察団を送り、「核共有」の実情を視察すべきことを緊急提言する。そして、視察の結果を踏まえた具体的な議論を期待したい。