プーチンを倒したらどうなるか。西側はその後の出口戦略を考えているの?

ウクライナ報道ではとりあえずロシアを追い出せとか、プーチンを追い詰めろという論調が多いわけです。

ですが、やけになったプーチンの核攻撃を煽ることにもなります。西側は経済制裁でジリジリと真綿で首を締めています。これでロシア軍が全面的に敗北を認めて撤退すれば、プーチンの求心力は低下して、クーデターが起こる可能性だってないとは言えないでしょう。

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経済制裁は軍事行動ではない、といえばそれまでですが、かつて我が国が真珠湾攻撃の大博打と対米戦争に打ってでたのは御存知の通りです。やられる方にしてみれば経済制裁は戦争と同じです。それを制裁する側が感じているかいないかは大きな問題でしょう。

やけになったプーチンがウクライナで戦術核を使う可能性は排除できないでしょう。その場合、クルマの幅寄せみたいにオラオラとやってきた西側はどう対処するのか。

ウクライナで核が使われたら、次に使うハードルは一気に下がります。そしてプーチンもバカではないから、権力を失った独裁者がどうなるかは知っているでしょう。カダフィやサダム・フセインがどうなったか子供でも分かる話です。

であれば、次は、NATOは手を引け、経済制裁を解除しろ、じゃないと今度はポーランドやドイツに核を打ち込むぞ、と脅したらNATOはどう対処するでしょうか。

NATOのメンバーでもないウクライナのために、それを無視して軍事援助を続けるのか。大人しく脅しに屈するのか。ロシアに対して核攻撃の報復をすると言い返すのでしょうか。

率直に申し上げて「身内」でもないウクライナにそこまで義理を尽くす必要なないと世論は判断するのではないでしょうか。

そうなると所詮NATOは案山子にしか過ぎないと、認識されることになり、今後の抑止力としての機能は相当毀損されるのではないでしょうか。

西側は自分たちが安全なところから犬を棒で叩いているイメージがあります。所詮ロシアは自分たちに反撃しないだろうと。ですがロシアからみれば既に西側は「敵」であるわけです。叩いていた犬から噛まれる可能性はあります。

問題は西側の指導者やメディアにその認識が低いことです。

更に申せばウクライナで核兵器が使用されれば、その核のゴミは西ヨーロッパに流れてきます。戦術核で大したことないとしても、国民はパニックに陥るでしょう。当然経済も大打撃を受けます。

そしてプーチンが失脚する場合、プーチン後をどうするのか。下手をすれば内戦が起こるでしょう。少数民族の蜂起もありうるでしょう。

リビア、エジプト、イラクで独裁者が倒れたらばどうなったか。独裁国家-独裁者=民主国家、にはならないわけです。我が国のように敗戦でリセットして民主国家となるには相応の条件があります。例えば天皇のような国民統合の象徴、宗教や民族的な対立がない、一定の教育水準等です。

独裁国家が独裁国家であるのは、民主主義にすると単に社会が混乱、分裂する可能性があるわけです。それは歴史が証明するところです。シンガポール、韓国、台湾にしても独裁政権の時代があったからこそ、人権の問題はあっても経済が発展して教育が普及して民主国家として基礎が築けたわけです。その土台なしに、民主化をすればどうなるか。下手をするとマフィアが支配するような分断国家になる可能性あります。

プーチン失脚で内戦が起きた場合、国連やNATOは平和維持軍を出すのか。その費用は膨大になるでしょう。そしてイラク同様に、武器がゴロゴロ転がっているでしょうから、平和維持軍の人的被害も相当でるでしょう。

更にロシア軍の核兵器を誰が管理するのか。これがドサクサで消える可能性もあります。

また数百万単位で「白い難民」が欧州に流入してくるでしょう。トルコや中国などにも来るでしょう。我が国にも来るかもしれません。その難民の受け入れコストを国民が是とするのでしょうか。

その経済的、人的コストに国際社会が耐えられるのか。更に申せば、そうなった場合に、中国がどう動くでしょうか。どさくさに紛れて、シベリアに拠点を作って、移民を増やして実効支配を画策する可能性もあります。そうなれば中国の一人勝ち、ということになりかねません。

果たして西側の指導者やメディアはそこまで考えているのか、大変疑問に思います。

【本日の市ヶ谷の噂】
防衛医大の医学研究科(博士課程)は医官の早期退職多数に上り、医官だけでは定員割れ、このため医師以外の医療従事者に開放されて久しい状況、との噂。

European Security & Defence誌 2月号に寄稿しました。(Japan’s Defence Budget –an Issue of TransparencyP68~69)


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年3月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。