今回のウクライナ危機。現地民間人が多数死んでいる。ロシアが、一応独立しているが弱小国に侵攻、米国は反対しつつも、無差別空爆するロシア空軍に対抗するため、兵士1-2人でも簡単に使える「地対空ステインガー・ミサイル」を現地で戦う勢力に多数供与。かなりの効果を出している。
筆者は40数年前の1979年に同じことがあったことを、思い出した。
ロシア(当時のソ連)が牙を向いた先は、ウクライナではなくアフガニスタン。アメリカがステインガー・ミサイルを供与した相手はイスラム組織「ムジャヒデイン」。ロシア(当時のソ連)の暴挙に対抗するため、世界から義勇兵が参集して命を賭けて戦った。
今回のように核戦争勃発の可能性こそあまり出なかったが、深入りを避けるため、アメリカはあまり介入に積極的ではなかった。そんなことで良いのか? と立ち上がったのが、チャーリー・ウイルソン議員。議会全体を1人で歩き回りながら説得、反ロシア勢力への資金とステインガー供与を正式に認めさせた。
筆者はチャーリーに自宅で長時間インタビューした。いまは写真が見つからないが、本物のステインガー・ミサイルが壁に飾ってあった(この史実は後日、トム・ハンクスとジュリア・ロバーツ主演のヒット映画になった)。
「どうやってアフガニスタン現地に届けるか?」は、それ以前から何年もロシアの動きを監視していた専門のCIAが手を挙げた。筆者の20年来の友人、ミルト・ビアデン CIA・ソ連東欧部長(上級工作員)が、実際に数百万ドルもの現金と、ステインガー・ミサイル多数を現地に提供した。
ステインガー・ミサイルは基本的に、肩に担いで照準を合わせ、スイッチを押すだけ、ほぼ確実にロシアの攻撃ヘリや戦闘機などを簡単に撃墜できた。
話を今のウクライナに戻す。侵略を進めるロシア軍は、予定より侵攻速度が遅い。無差別殺人の言い訳に使える誤魔化しの「人道回廊」設置、核戦争を恐れたためNATOによる飛行禁止が実現しなかった直後、2日ほど前に、予想された「大規模空爆」を巡りウクライナとロシアで制空権の奪い合いになっている。ロシア空軍の訓練不足、ウクライナ側が持つ高性能の長射程地対空ミサイルS-300と、圧倒的な士気の高さもあるが、ロシア空軍が自由に攻撃できない理由の1つは、この兵士1人が担いで発射する神出鬼没の地対空ミサイルと、やはり今も昔も世界中で暗躍している米諜報だ。
昨年末からアメリカは今回の侵攻をかなりの程度まで予想できていた。米軍・諜報は、衛星、哨戒機、盗聴、工作員、各種情報収集技術の利用しリアルタイムに近い形でウクライナ対空・防空部隊に今も情報を提供しているという。ウクライナ軍の反撃によるいままでのロシア側の戦死者総数は、米国防情報局(DIA)によると、2千~4千人だ。
平和な日本にいて安全保障問題にあまり慣れていない識者は、昨年末から開戦数日前くらいまで「アメリカが戦争を煽っている」と批判していた。アメリカはウクライナなど欧州現地にいる自らの貴重なassetsを犠牲(死者が出たという情報もあり)にしてまで、暴挙阻止と経済制裁などの準備・対策のために諜報情報を世界中に流した。開戦と同時に、ロシア軍との戦いに備えて諜報体制をより現実的で強固なものにした。
一部は西のリヴィウにも移動したが、大統領を警護するなどの任務を帯びた米英特殊部隊と共にキエフにおり、ウクライナ周辺・上空だけでなく、世界各地から入る諜報をウクライナに提供、効率よい防空作戦ができるように努力していると聞いた。
武器と情報、ハードとソフトは当然、アメリカは提供している。そしてウクライナ国内、政権内のロシア諜報員の炙り出しにはイデオロギーは殆ど意味がない。現金がモノを言うので、巨額の現金も持ち込まれたらしい。日本人には想像もできないことであろう(1953年イラン・モサデク政権を倒した時、西ヴァージニア州の山奥に住んでいた当時のCIA上級工作員も、選挙結果を変えるために現ナマが必要なことを認めていた)。
開戦当初はロシア軍に対して圧倒的な不利が予想されたが、ウクライナは比較的善戦している。他にも理由はあるだろうが、いまだにロシア空軍によるキエフなどへの戦略爆撃が可能になっていないのは、上記の理由などがあると聞く。
「10年戦争」とも言われた1979年のアフガン侵攻の失敗は、後のソ連の弱体化、崩壊につながった。
そしてもう1つの興味深い史実。米CIAによる武器や資金援助を受けた反ロ勢力「イスラム組織”ムジャヒデイン”」の一員は、サウジから駆け付けたウサマ・ビンラディン。当初はソ連共産主義が敵だったが、ソ連を駆逐したあと、米国の中東政策などが理由で牙を剥き、9.11を起こした。そして、それが米国のアフガン侵攻につながった。
どんな理由、過程、切っ掛けでも構わないが、今回のプーチンの暴挙がロシア・プーチン体制の崩壊につながることを祈る。
だが一体いつまで人類は同じようなことを、やり続けるのだろうか。