ロシアのウクライナ侵攻:見えてきた国連の在り方と異様なプーチン(屋山 太郎)

会長・政治評論家 屋山 太郎

昨今のプーチン大統領の言動は、常人の発想とは思えない。交渉では、まともな政治家、軍人なら絶対に取り合わない条件ばかりを並べ立てている。これではウクライナ側は「国を捨てる」という以外に答えはないだろう。

第2次大戦後、世界は「民族自決」を原則にした秩序造りを進めてきた。その後、東西に分裂したが、冷戦が終結すると東側の国々は、また「民族」を単位にそれぞれ自立した。今、問題になっているウクライナは、ソ連邦時代はロシアと同盟を結ぶ国家だった。冷戦終了後はウクライナの人々が独立を選び、今度は安全保障のためにNATO(北大西洋条約機構)に加盟したいという。

NATOは、ソ連に対抗するために設立された軍事同盟で、プーチン氏は隣国にNATO加盟国が存在すること自体“脅威”だと言う。ウクライナをどうするつもりか。プーチン氏の頭では、ウクライナを併合するのがベストだが、それが無理ならば、NATOが「加盟させない」と約束せよ、と言う。例え関係国の間で何らかの合意が得られたとしても、ロシアは約束を守れるのか。現状の態度では、誰もロシアを信用できない。

2014年にプーチン氏は暴力集団を使ってクリミアを恐怖に陥れ、地元の議会を掌握。その後、ロシアに併合する住民投票を可決させ、ロシア側がそれを承認した。ロシアはこれでクリミア併合は完結したと思っているようだが、この方式によってウクライナを丸ごとロシア化しようというのがプーチンの目標だ。そのためにウクライナとの交渉で、非武装化、中立化を迫っている。

ウクライナは婦女子を国外脱出させて、断固ロシア軍と戦う決意を示している。難民は150万人を超えているが、避難先はポーランドが最も多い。ロシアがポーランドを攻めれば、NATO加盟国だから大戦争になる。

そもそも冷戦時、NATOに加盟していたのは米英仏独など16ヵ国だった。それが冷戦終了と共に30ヵ国に増えた。増えたのは中・東欧、バルカン諸国で、かつてソ連の中で沈黙させられていた国々である。自由化を要求するとハンガリー(56年)、チェコ(68年)のように弾圧された。これらの国が冷戦終結とともに逃げ出したのは、ソ連時代の不徳というもので、今のロシアは反対のしようがない。ウクライナはとりあえずEUに加入申請したが、NATO加盟も諦めていない。

軍隊が平穏な都市内に入って乱暴狼藉を働く、原子力発電所を占拠するなどという所業は世界中が許さない。勿論、明白な国際法違反だ。ロシアは中国とともに安保理理事国を占めているから、中露が反対すれば、国際機関は手が出せないと思っているようだが、皆が国連を信用しなくなれば、国連は終わりだ。2月7日にモスクワで、マクロン仏大統領とプーチン氏の会談が行われたが、マクロン氏はプーチン氏の表情が異様なことに驚いていたという。精神状態に異常はないか。

(令和4年3月9日付静岡新聞『論壇』より転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年3月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。