ロシア軍と日本に必要な共通点は「撤退する勇気」

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

ロシア軍によるウクライナ侵攻が続いている。ロシアは通貨やETFの暴落や、海外企業からの撤退が相次ぎ「自国の傷を広げないためにも、もう辞めるべきでは?」など、周辺国からは白けた雰囲気が漂っていると感じる。

CIAバーンズ長官の分析によると、「首都キエフを2日で制圧する想定が外れ、プーチン氏はイラだっている」とメディアで述べた。同氏は電撃的制圧できる目論見が外れてしまい、経済制裁を受けて自国民からの反感を買っている。今は即時撤退こそがさらなる傷を広げることを食い止めてくれるだろう。だが、それができないのは「想定外の苦戦を強いられ、撤退戦略がなかったからでは?」と、門外漢の素人ながら考察する(プーチン氏はもはや合理的な意思決定ができない心理状況にあるため、撤退の必要性を感じていないという指摘はありそうだが)。

この件に限らず、ビジネスや政策においては撤退戦略がなければ、泥沼にハマり敗北が決定的になってしまう。これはロシア軍だけの話ではない。変化の速い時代に遅れを取りがちな、我が国の意思決定にも必要だと感じる。

JosuOzkaritz/iStock

「撤退=敗北」ではない

そもそも、何かに挑戦をしてうまくいかず、それ以上チャレンジを諦める撤退は「=敗北」ではないという点に留意するべきだ。周囲からは「うまくいかなかったダメな人」と笑われるかもしれないが、挑戦者自身はそう思うべきではない。

勇気ある撤退により、傷口を最小限に抑えることができるだけでなく、挑戦経験から得られた知見は計り知れない価値がある。一度目はうまくいかなくても、体制を立て直して二度目、三度目の挑戦で勝ち取ればいいのだ。

筆者は数え切れないほど、挑戦に失敗して撤退を余儀なくされた経験がある。過去において会計の勉強を始め、米国大学で会計を専攻し、その後会計キャリアを複数の企業で積んできた。トータルで10年ほど会計学に人生をかけたが、その結果は「自分にこの分野は向いていないし、溢れるような才能はない」という厳しい現実だった。その後、人生の方向転換、別分野で起業した。家族や知人からは「あんなに頑張っていたのに捨てるのはもったいない」と言われたが、今振り返っても、あのまま会計に執着せずに良かったと思っている。

また、今は経営者としてビジネスをしているが、日々撤退を余儀なくされる局面はいくつもある。一時的にはGoogle検索の重要キーワードでいくつもSEO対策が成功して、売上を大きく伸ばしていた時期もあった。だが、ある時、検索順位変動で売上が激減した。その後、それまで手を出したことがなかったSNS広告のスキルを得て、今では過去にSEO検索であげていた以上の売上を広告から生み出している。あの時にSEO対策にこだわってしがみついていたらと思うと恐ろしくなる。

最近はオールイングリッシュで海外YouTube動画の発信をしているが、この施策も過去3回も失敗している。ある程度やってみて、この延長線上に成功はないと見えた瞬間に撤退した。今は4度目の挑戦でなんとか生き残ることが出来ている。

挑戦してうまくいかず、敗退する時や突然のルールや環境変化でそれまで通じていた手法が通じなくなってしまうことがある。そうなったら、意地になって続けるより、冷徹に損切りして撤退するべきなのだ。

挑戦において「完膚なき敗北」は命取り

なぜ戦略的な撤退が重要なのか?それは再起不能な完膚なき敗北をしないためだ。

我が国には、「意思決定に携わる人数を多く設定しすぎることで、ルールを策定するまでは時間がかかる。ルール決定後は、同調圧力で相互監視によって遵守することが第一義的になり、環境変化に応じてルール内容の変更や撤退をする柔軟性がなくなる」という”傾向”があるように思う。これは政府の政策でも、企業の会議などの場面でもよく見られる。

時代の変化は激しく、刻一刻と状況は変わっている。朝言ったことを夕方見直す「朝令暮改」を恐れず、いかなる挑戦においても撤退する戦略を持つことが生き残りに重要なのではないだろうか。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。