時代の岐路に立つテレビ局

1955年に始まった家電ブームで白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫は「三種の神器」とも言われ、テレビはエレクトロニクス ジャパンの期待の星として時代と共に成長してきました。個人的に大きく変わったな、と思ったのが4Kテレビブームとそれを買った人たちの「画質が以前とそんなに変わらない」という不満足感あたりから消費者がテレビの技術に十分満足感を覚え、それ以上のものを求める人が少なくなったことはあると思います。

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ここ北米においても10年ぐらい前は画面がどんどん巨大化し、いつの間にか60型70型といったサイズが当たり前になりました。そんな大きな画面で何を見るのか、といえば北米は有線放送ですので自分の好きな映画をみるといった使い方でした。地上波が主流の日本において大画面高画質高音質テレビでお笑い番組ではシャレになりません。多くのテレビはインターネットと連動できるのでネットフリックスのような有料ネット放送を大画面にシアターシステムを接続して映画館並みの音響を楽しむこともごく安価に行えるようになりました。

私が家のテレビ受信契約を止めたのはもう4-5年前だと思いますが、それ以降一度も後悔したことはありません。その代わりネットフリックスとユーチューブなどで見たい番組はかなりカバーできるのです。それこそ、あるウェブサイトに行けば日本のドラマも最新のものがほとんど時間差なく視聴できます。そのためテレビの使い方は明らかに変わってきており、普段はパソコン画面をテレビ替わりに使い、映画のように腰を据えて見る時だけ、テレビ画面に切り替えて見ています。

テレビの視聴時間調査はNHK放送文化研究所が5年に一度、まるで国勢調査のようなテレビ視聴調査を行っています。最新が2020年度版ですが、なかなか興味深いものがあります。テレビ視聴時間は50代から上の男性は1995年からさほど変わっていないのに対して40代から下は25年間で半分に激減中なのです。女性は50代から下で同様の減少幅になっています。また、昨年はインターネット視聴時間がテレビを上回ったとしてニュースの話題になりました。

時代の背景もあり、NHKの視聴料徴収に反対する動きは長年続き、そんな政党も生まれたと思えばNHKが映らないテレビをめぐる裁判も話題になりました。結果としてNHKが視聴できない合法的なテレビが作られ、恐る恐る売り出したドンキでバカ売れし、他社追随の動きになっています。かつては新築の家にはNHKに契約しろとしつこい勧誘、更に放置すれば「お宅にはアンテナがあるからテレビを視聴している。だからNHKに視聴料を払うのは義務だ」とまで言われ、悪質な取り立てのような経験をした人もいるでしょう。今のアンテナは昔と違い、小さくてよく見えないからそう簡単に見つからなくなったかもしれませんが。

産経に興味深い記事がありました。「ついに動き出した『地方テレビ局再編案』…地域色衰退に懸念も」とあります。現行では都市圏を除き、一県一地方放送局が原則だが、それを見直す動きが出ているというものです。私は正直、一県一地方放送局自体を知りませんでした。どうやら田中角栄氏の時代に大量に放送局を生み出したようです。が、それも今は昔。なぜ、各県に放送局が必要なのか、という当然の議論が出てきているわけです。

記事の内容では各県からエリア単位にしたいという発想のようです。ドラスティックさには欠けますが、再編という意味では悪くはないのでしょう。考えてみれば田舎のおじいちゃんやおばあちゃんにインターネットで検索すればなんでもわかるよ、と孫がいくら言ってもテレビのようにリモコンのスイッチを押すだけ、という手軽さはありません。

一方、地方版番組制作と言っても各県ベースでネタがそうあるわけではなく取材費も限られます。とすればエリアごとに集約するのは理にかなっています。

ところでNHKですが、個人的にはなぜ、エンタテイメント番組を大金をかけて制作するのか、という疑問はずっと持っています。私は確かにネットフリックスをよく見ますが、何が違うかといえばかける制作費のレベルが違うのです。金がかかっている映画や独自番組が多いので見ごたえは確かに違います。

NHKが国民から広く薄く集めたお金を放送事業でどう還元するのか、という原点に立ち返った時、1950年代60年代のように娯楽が限られた時とは雲泥の差なのですから国営放送といえどもその立ち位置は大きく見直すべきだと思うのです。つまり必要な時に必要な情報がそこにあること、国として発信すべき情報を内外に広く公平な見地から届ければよいのだろうと思います。

大河ドラマのように一つの番組を一年弱かけて話を引き伸ばして放送するのは時代にマッチしていません。私が子供の頃、星飛雄馬はいつ、ボールを投げるのか、と思ったのですが、大河ドラマの話の進展のイライラ度も同じようなものです。現代ではドラマは6話から8話程度がいっぱい一杯の時代です。今の人は暇ではないし、そもそも長編は小説もドラマも忍耐的に無理なのです。

紅白もしかり。老若男女に広く受けるようにと4時間もの放送時間を取って頑張っていますが、見たいところはピンポイント、あとは「この人、だーれ?」。とすればどう見ても制作側のNHKの目線だけであって視聴者の意向はほとんど反映されていないともいえるのです。

テレビ放送は時代の岐路に立っているとみています。かつては花形で就職活動でも一番人気がテレビ局勤務でした。今ではすっかり地味なイメージとなり、女子アナを別にして業界の化粧が剥げたような気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年3月13日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。