底値圏に入ったバンコクコンドミニアム市場

藤澤 愼二

昨年から底値買いが始まったタイのホテル

「国内外の投資家がタイのホテルマーケットに食指を動かし始めたのは昨年後半からであり、この流れは今も続いている。そして、彼らはタイの観光市場の将来を楽観視している。政府による(外国人観光客への)入国規制緩和は観光産業復活の始まりであり、今年はさらに多くの投資家がホテル市場に戻ってくるであろう」(JLL談)

JLLのレポートによれば、2021年に買収されたタイのホテルの数は23あり、金額にして132億バーツ(約475億円)ということだ。さすが投資のプロたちだけあって、昨年はわずか20万人しか外国人観光客がタイに来ておらず、まさにホテル産業はどん底であったにもかわわらず、タイのホテルを買収し始めたのがわかる。

しかし、よく考えてみれば、タイには2019年に4,000万人もの外国人観光客が来ていて、世界4位、610億ドルもの観光収入を稼ぎ出していた観光大国である。ホテルビジネスにとってこれほどおいしいポテンシャルを持つ市場は、東南アジアどころかアジア全体でもない。

従って、コロナ禍が終わればやがてまた観光客が戻ってくることはほぼ間違いなく、国内外の資金力ある投資家なら、今がチャンスとばかりに苦境にあえぐタイのホテル買収に目をつけるのは当然のことなのかもしれない。

コンドミニアムもそろそろ買い場到来か

タイの場合、外国人観光客が増えると彼らはコンドミニアムを購入し始める。すると、それに続いて資金力のあるタイ人富裕層や個人投資家も値上りを期待して買い始める。そして、やがて住宅市場全体が動意づくというパターンが多い。従って、外国人観光客が多いバンコクやパタヤの築浅コンドミニアムがまずリバウンドを始めることになる。

さらに、タイミングよくタイ政府は25万ドル以上の不動産を購入したリタイアリーに対し、10年のビザを出す方針を打ち出したところだ。今後、このビザの詳細な内容がはっきりしてくると思うが、これも不動産市場のリバウンドを牽引する一因になるかもしれない。

何しろ、わずか3,000万円ほどの投資(住宅購入だけでなくタイの国債購入でも可)で家族同伴でタイに移住でき、しかも就労もできるという魅力的なビザであり、マレーシアの長期滞在ビザであるMM2Hの発行が停止してしまった今、これは魅力的である。

従って、タイ政府の思惑通り50代、60代のまだ元気でタイ経済にも大いに貢献してくれるような外国人リタイアリーが興味を示すのではないかと思う。

一方、中国や韓国のコンドミニアム市場が既に崩壊を始めたことや、株式市場では日経平均がまだ3万円の回復もできてない中、東京のマンション価格だけはバブル期の水準を超えてきたということから、日本も天井圏が近い可能性もあると筆者は思っている。

Zelon/iStock

タイ開国で不動産市場も底を打つ

ところで、2018年後半に始まったコンドミニアム市場の失速により、筆者は著書や当時連載していた経済雑誌、そして自身のブログでも、今は「休むも相場」であり、不動産投資はしばらくお休みにした方がいいと書いてきた。

そして、筆者自身も自宅以外の当時保有していた4つの投資物件を2019年末までに全部売却したのであるが、その後、思いもよらなかったコロナ禍が始まり、不動産マーケットはさらにどん底に落ちてしまったのである。デベロッパーは新規開発をほとんど中止し、キャンセルで積み上がった販売在庫の圧縮に注力してきたのだが、それでもまだ在庫一掃は終わってない。

しかし、あれから4年近く経った今、やっとコロナ禍も落ち着きを見せ、東南アジア諸国は我先にと開国に向けて規制緩和を始めている。そして、タイも遅ればせながら早ければ6月、遅くても7月には政府がエンデミック宣言を出し、外国人の入国に対して一切の規制を撤廃し全面開国とする計画である。

5年後にふり返れば、今年が底だったと思えるのでは?

こうなると、ガリバーともいえるアジア最大の観光大国であるタイにとって、その恩恵は大きく、これに伴って不動産市場もいよいよ最悪期を脱するのではないかと思うようになってきた。もっとも、中国人投資家がすぐに戻ってくるとは考えにくいし、パタヤもロシア人投資家に期待できないことから、いきなり大きなリバウンドが始まるなどとは考えていないが…。

従って、マーケットは年内に底を打ち、その後は緩やかな上昇が始まるのではないかと考えていて、これから投資物件を仕込むとすれば、竣工までに2、3年かかり時間稼ぎができるプレビルド投資(開発物件の先物買い)がいいと考えている。

また、プレビルドの場合、ゲンガムライと呼ばれる建設中の転売や竣工前後の価格急上昇を狙った短期売却、そして賃貸運用し特定事業税が非課税となる5年後の売却と大きくチャンスが3回あることから、「出口」リスクを最も軽減できる投資方法でもあるからだ。

在庫処分物件はそろそろ買い時

ただし、現在建設中、もしくは築浅プロジェクトでデベロッパーが在庫一掃のために処分価格で売ろうとしている物件も積極的に検討すべき時だと思う。

例えば、バンコク中心部に建つ築浅物件のNoble BE19などは、本来33㎡の物件価格で46㎡のユニットが買えるという実質的な大幅値引きを行っている。このプロジェクトは筆者が自身の著書、バンコク不動産投資「基礎編」の中で、この辺りではスクムビット通りの偶数側にはたくさんの古いコンドミニアムがあるが、奇数側での新築物件は希少価値があるし、近くで建設中のショッピングモールができればさらに賑やかになるというアップサイドもあると書いたものである。

それが、デベロッパーはまだ販売在庫を抱えていて在庫処分を急いでいるわけであるが、別にここだけに限らず、ほとんどのデベロッパーは今もこのように在庫一掃にあの手この手で四苦八苦している状況だ。

これからの新規開発はコスト上昇で値上り必至

ところで、これは数日前の現地経済紙ターンセータギットに載っていた記事であるが、今のようなインフレ状態が続けば、2022年にはほとんどの建設資材が値上りする。特に現場作業員(タイの建設労働者は主にミャンマー人だが、最近はクーデターでタイへの入国が難しくなった)の人件費に至っては、300バーツ/日から500バーツ/日へと6割以上のアップと、とにかく建設コストが急上昇すると見込んでいる。

その結果、今年売り出される住宅の販売価格は最大で15%も値上げされるという。つまり、たとえ不動産市場が回復しなくとも、新規開発物件はおのずと値上りせざるを得ないということだ。

従って、今の販売在庫は十分値段もこなれているし、今後投資需要が増えて同じものを建てようとしてもとてもこの値段ではもう建たないことから、いよいよバンコクのコンドミニアム市場は底値圏に届いたのではないかと筆者は感じているのである。