コロナ第7波は来るのか:山火事理論で予測

Ca-ssis/iStock

(モンテカルロシミュレーションで検証 連載49)

オミクロンの感染拡大は世界的に収束に向かっており、ヨーロッパの諸国は次の波の拡大の兆候が既に見えてきています。日本もオミクロンは収束に向かっていますが、次の第7波はどうなるでしょうか。

1.ヨーロッパの現状

図1は、ヨーロッパ5カ国、ドイツ、フランス、ベルギー、スペイン、スウェーデンの昨年11月からの陽性者数推移です。対数表示で、各国のデータを定数倍(図中に表示)して並べています。

左右の図とも、データと実線の山火事理論の予測線(実線)は同じで、破線が、左図では1月1日時点での予測、右図では3月20日時点での最新のピークの予測です。濃いグレーゾーンがそれぞれの予測の初期状態に使ったデータ範囲です。

1月の左図破線の予測性能はデータとの比較によって検証できます。まずまずの予測精度を示していると思います。ここに含まれる不確定さが、右図の今後の予測線にも含まれることになります。5カ国ともオミクロンのピークアウトの後、新しい成分が立上っています。これを右図の破線のように予測しています。

図2は、スウェーデンを除く4カ国を通常の線形表示したものです。紫の破線が1月1日時点の予測、赤線が3月20日時点での最新のピークの予測です。このように、陽性者の推移をピーク分解し、それぞれに山火事理論を適用しています。

2.山火事理論

山火事理論のアイデアは、「感染爆発が起きると、燃えやすいところが燃え尽きることで収束する」という仮説です。SIRモデルの集団免疫効果は、国民全体を同じ感受性を持つ者としますが、山火事理論では、個人の感受性は、通常の意味でのウイルスに対する感受性だけではなく、接触確率(3密や移動量に依存)、曝露量(マスクや閉空間の環境依存)の積として全体の「感受性」を考えます。この「感受性」は個人差が非常に大きく、ある閾値より高い「感受性」を持つ者だけが感染し、それが燃え尽きると収束すると仮定します。

この考え方を数学的に定式化し、初期状態として感染拡大初期の陽性者データの情報を使うと、その後のピークアウトの時期、大きさ、ピークの幅が自動的に決定される数学的な山火事理論が導出されます。つまり、ピークアウトのメカニズムを内蔵している理論になります。

図3は、2020年2月から現在までの日本と世界全体の100万人当たりの陽性者推移です。日本の第1波から第6波までが、ほぼ世界平均と同期しています。世界中の国々で、様々な異なるコロナ対策を行ったにもかかわらず、平均として共通の推移を示しています。そこには普遍的なメカニズムがあるはずです。そのひとつの候補が山火事理論です。

3.日本の第7波

図3の世界のオミクロンのピークの最後には、ヨーロッパに現れたような次の新たな波(赤線)が見えています。第7波と呼ぶことにします。ところが日本の推移を見ると、このまま収束するような様子です。第7波は来ないのでしょうか。

図4は、日本の昨年8月からの陽性者(赤)と死亡者(青)データの推移です。オミクロンのピークを山火事理論で予測したのが水色破線です。山火事理論ではピーク位置、幅が決まってしまいますから、現状の横這いのような推移は出てきません。その部分を記述するには、新たな波を設定する必要があります。それが紫破線です。図3で分かるように日本のオミクロンの波は、世界の平均より遅れてきています。次の紫破線の波は、世界とほぼ同じに時期に来ているので、日本では、ふたつのピークが重なって現在のような振舞になっています。従って、日本の場合、7波(と呼ぶとして)は来ていて、既にピークアウトしています。これからは下降する収束フェーズだと思います。

では、この次の波はどうなるか。山火事理論は新しい波が立上ってくれば、ピークアウトの時期、高さが予測できますが、残念ながら、新しい波がいつ、どういう性格を持って現れるかについては、メカニズムを持っていません。

図5は、図4の線形表示です。死亡者(青)は100倍しています。この図で見ると現在の波(紫破線)はオミクロンのピークに比べると総陽性者数で10分の1以下なので、第7波とは呼べないかもしれませんが、世界の趨勢と比較すると同時期のピークです。(図にはオミ1、オミ2と表記しています)

4.オミクロンの特徴

図4には、陽性者に加えて、60歳以上の陽性者と重症者がプロットされています。オミクロンまでは、60歳以上の陽性者(黄色)と重症者(水色)は、ほぼ重なっていましたが、オミクロンになり大きく乖離しました。オミクロンになって60歳以上の陽性者でも重症にならない人が大幅に増えたことを示しています。

また、死亡者の段には、重症者×0.04(桃色)、人口呼吸装着数×0.05(緑色)がプロットされています。これらも、オミクロン前は死亡者に沿っていましたが、オミクロンになって乖離しました。人工呼吸器の装着に代表される、コロナ特有の肺に関連する疾患を伴わない死亡者が大幅に増えたことを示しています。これらが、図の数字から見えるオミクロンの特徴です。より普通の風邪に近づいている兆候のように見えます。

5.世界15カ国の現状

図1の5カ国に加えて、日本を含む10カ国の陽性者の推移を、図1と同じ様式で以下に示します。

図6は、日本、ブラジル、イスラエル、モンゴル、インドです。これらの国々に共通するのはオミクロンの立ち上がりが非常に急だったことです。そのため、山火事理論の初期設定に大きな誤差が入り込み、1月の予測が大幅にずれているものがありました(左図)。現在のピークは、日本が不分離のツインピーク、ブラジル、イスラエル、モンゴルが小さな分離したピーク、インドでは次の波の兆しがまだありません。

図7は、イギリス、トルコ、アメリカ、南アフリカ、オーストラリアです。アメリカ以外は、1月のピークと現在のピークの間に、中間的なピークを設定しています。

全体として、オミクロン後の第7波は、あまり感染拡大せずに収束するというのが山火事理論の予測です。その後の波は予測できませんが、収束のメカニズムとそれに対応する数値モデルが確立されており、更にデータとの検証が進んでいるのが、この山火事理論の特徴で、現在までのところ更なるこの理論の発展の可能性があると考えています。