トランプ前大統領は24日、16年の大統領選挙で対立候補だった民主党のヒラリー・クリントンや現バイデン政権の国家安全保障顧問ジェイク・サリバンらを含む28の個人と団体に対する民事訴訟をフロリダ州南部地区連邦地方裁判所に起した。同日、108頁の訴状が公開されたので、本稿ではその概要を紹介したい。
訴状によると、原告はトランプ1人、被告は、個人ではヒラリーとサリバンの他、既にダーラム特別顧問に起訴されているクリンスミス(FBIの弁護士)、サスマン(民主党全国委員会とヒラリー陣営の弁護士)とダンチェンコ(「ブルッキングス研究所」に勤務していたロシア人アナリスト)、そして前FBI長官ジェームズ・コミー、元FBI捜査官のリサ・ページとピーター・ストゾックなど。
団体は、HFACC(Hillary for America CC)、民主党全国委員会(DNC)、パーキンス・コーイ法律事務所(サスマン所属)、Fusion GPS(共同設立者のグレン・シンプソンとピーター・フリッチも)とオービス社と経営者クリストファー・スティール(何れも「スティール文書」作成に関与)、情報技術企業Neustar社と経営者のロドニー・ジョフェらだ。(参考拙稿「米国の主流メディアが報じない法廷提出書類とは」)
ダーラムがダンチェンコを起訴した昨年11月の拙稿「露見した民主党によるロシアゲート事件捏造の旧悪」で、「起訴されたこの3人の関係者には、民主党とクリントン家の両方と縁浅からぬ2人の重要人物もいる。1人は元英国諜報員のクリストファー・スティールであり、もう1人は長年のクリントン家の信奉者チャールズ・ドーランJrだ」と指摘したスティールとドーランも今回の提訴対象だ。
訴状の体裁は、「Introduction」に続いて「Jurisdiction and Venue(管轄権及び裁判地)」、「Parties(当事者)」、そして「Statement of Facts(事実に関する声明)」が次の7項目の見出しに続いて述べられている。
- The DNC and the Clinton Camp Become One(DNCとクリントン陣営は一体化)
- The Clinton Campaign and DNC Conspire with Their Attorneys, Perkins Coie, to Frame Republican Candidate Donald J. Trump(クリントン陣営とDNCは、その弁護事務所パーキンス・コーイと共謀し、共和党候補のドナルド・J・トランプを罠に嵌める)
- Elias Recruits Fusion GPS and Others to Manufacture a Falsified Set of Reports Known as the Steele Dossier(エリアスはFusion GPSその他を雇い、スティール文書として知られる一連の偽造報告書を作成)
- As the Presidential Race Takes Form, The Steele Dossier Is Used to Mislead Federal Law Enforcement(大統領選が具体化するに連れ、スティール文書が連邦法執行機関を欺くために利用される)
- The Defendants Spread Their False Narrative Through the Media While Sussmann Makes False Statements to Law Enforcement(被告らはメディアを通じて虚偽の説明を広め、サスマンは法執行機関に虚偽の供述をする)
- A String of Federal Investigations Clear Donald J. Trump and Uncover the Defendants’ Illicit Conspiracy(一連の連邦捜査がドナルド・トランプを潔白にし、被告らの不正な共謀を暴く)
- The Defendants’ Malicious Conspiracy Remains Active to This Day(被告らの悪質な共謀は現在も続いている)
その後に訴因1から訴因16までが記され、最後に「Jury Demand(陪審員の請求)」として「The Plaintiff hereby demands a trial by jury of all issues so triable(原告は、ここに、審理可能なすべての問題について陪審員による裁判を請求する)」と述べられている。
損害賠償額については、「事実に関する声明」の最後の「被告らの悪質な共謀は現在も続いている」の中で次のように書かれている。
トランプは、被告の不法行為、冤罪、および彼の信用を失墜させるための全体的な詐欺的計画から防衛する取り組みに関連して発生した防護費、弁護士および関連費用の形での費用を含むがこれに限定されない重大な損害および損失を被った。現在までに2400万ドル(約24億円)を下らず、引き続き発生し、また将来のビジネス機会の損失にもなっている。
事件の概要は、ほぼ昨年11月と本年2月の拙稿に書いた通りであり、「事実に関する声明」に要点が述べられているので、米議会メディア『The Hill』と『Reuter』の報道の要点を紹介する。
『The Hill』(22年3月24日EDT)
今回の訴訟は、トランプ政権時代に任命された、FBIによる16年選挙戦の捜査の原点を探る特別顧問ジョン・ダーラムの進展に不満を表明していることを受けて行われた。ダーラムの調査は19年の開始以来、3件の起訴に至っているが、トランプを貶める巨大な陰謀の証拠はほとんど得られていない。
『Reuter』(22年3月25日)
「ゆすり(racketeering)」の民事訴訟には4年の時効が適用されるが、その4年の期間がいつから始まるかは通常大きな争いになる、とグレル弁護士は述べ、被告側は、この訴訟が政府職員に認められている免責を無視していること、訴訟するに必要な「ゆすり」のパターンを示していないこと、訴訟が言論の自由の行使を抑制しようとしていることなど、さまざまな抗弁を主張する可能性があるとしている。
『Reuter』は、この訴訟が時効の問題もあって、少々「無理筋」との見方をしている様であり、また『The Hill』は、トランプがダーラムの尻を叩く目的で起こしたと見ている。
筆者は、28の個人と団体のうちまだ3人しかダーラムが手を付けていないので、11月の中間選挙を有利に進めたいトランプとしては無理を承知の上で、残り25の個人と団体の名前(一部は非公表)を明らかにし、「ロシアゲート事件」がヒラリーと民主党の陰謀だったことを米国社会に訴える目的があるのではなかろうか、と考えている。