米国の主流メディアが報じない「法廷提出書類」とは

2016年の米大統領選に絡む、所謂「ロシアゲート事件」に関する昨年11月の拙稿で、ジョン・ダーラム司法省特別顧問が11月4日、ヒラリー・クリントン候補に近いブルッキングス研究所の所員だったロシア人アナリストのイゴール・ダンチェンコを当該事件の3人目として起訴したことを書いた。

1人目は8月に起訴されたFBIの顧問弁護士ケビン・クリンスミス、2人目がヒラリー陣営の弁護士マイケル・サスマンで、トランプとロシアの関係に関し、FBIの弁護士に虚偽陳述をしたとしてダーラムに起訴されていたが2月11日、サスマンに関する法廷提出書類(以下、「書類」)が公開された。

この「書類」について目下の米国における話題は、主流メディアは言うに及ばず、2月18日の時点でも、中道のやや左といったポリティコやアクシオスなどの政治メディアすら、この「書類」についての報道をスルーしていることだ。

詳報するメディアはFoxnewsWashington Free BeaconDaily SignalEpoch Timesといった保守系のそれと、中道のThe Hill辺りに限られる。が、書類」の全文はネットで読める。以下にその中の「事実関係」の記述の要点を紹介する。

全文は邦訳で約8千字、表題は「マイケル. A. サスマン被告 利益相反の可能性を調査するための政府の申し立て」で、「前書き1」「事実関係2~7」「適用される法律8~10」「考察11~18」「結論」の5章19項目。具体名称の記載がない個人や団体は、筆者がメディア報道から補足した。

前書きには、合衆国がダーラム特別顧問を通じて、Latham & Watkins LLPによるサスマン被告の弁護から生じる潜在的利益相反について調査するよう裁判所に要請している、とある。

「事実関係」。被告はFBIに重大な虚偽陳述をしたとして起訴されている。選挙2ヵ月前の16年9月19日、クリントン陣営の顧問の「法律事務所-1」(パーキンス・コーイとされる。以下、コーイ社)の弁護士だった被告は、FBI本部でFBI弁護士と会談した。

その際、被告はトランプ組織と「ロシア銀行-1」(アルファ銀行とされる)の間の秘密通信経路を実証するとされるデータと白書をFBI弁護士に提供したが、被告は当該弁護士に対し、顧客の代理人としてFBIに申し立てを行ったのではない、と説明した。

だが実際は、(i)インターネット会社-1(Neustar社とされる) のTech Executive-1(ロドニー・ジョフェとされる)及び (ii) クリントン・キャンペーン(「C.C.」)を含む2つ以上の特定顧客のために「申し立て」をまとめていた。よって被告の説明は虚偽であった。

被告はアルファ銀行疑惑に関する彼の業務につき「C.C.」に繰り返し請求した。疑惑をまとめて広めるに当たり、被告とジョフェは、コーイ社の別のCampaign Lawyer-1(16年選挙のヒラリー陣営の顧問弁護士マーク・エリアスと推測される)とも会い、連絡を取り合った。

起訴状は、16年7月頃からジョフェが、被告とコーイ社が「C.C.」のために依頼した調査会社、多数のサイバー研究者、複数のインターネット企業と協力し、目的とするデータと白書を組み立てていたとする。

これらの取り組みに、ジョフェは種々のインターネットデータへのアクセスを利用し、また連邦政府のサイバーセキュリティ研究契約に関連して大量のインターネットデータを受信・分析していた米国に拠点を置く大学の研究者の協力を仰いだ。

ジョフェはこれら研究者に、トランプ候補とロシアを結びつける「推論」と「物語」を確立するためにインターネットデータをマイニングするよう命じ、その際、コーイ社と「C.C.」の個人を指す特定の「VIP(ヒラリーと推定される)」を喜ばせることを求めていることを示唆した。

ジョフェらが利用したインターネットデータ中には、(i) 特定のプロバイダー、(ii) トランプタワー、(iii)トランプのニューヨークのアパート、 (iv) 大統領府(EOP)に関するドメインネームシステム(DNS)のインターネットトラフィックがあったことも立証される証拠がある。

Neustar社のEOPにDNS解決サービスを提供する取り決めは、EOPサーバーにアクセスして維持するようになっていた。ジョフェらはトランプに関する軽蔑的な情報を収集する目的で、EOPのDNSトラフィックやその他のデータをマイニングし、この取り決めを悪用した。

17年2月9日、被告は政府の「Agency-2」(CIAとされる)に対し、アルファ銀行のデータとトランプに関する追加疑惑を含む、最新の疑惑のセットを提供したことを詳述した。

これらの追加疑惑が、ジョフェらがトランプタワー、ニューヨークのアパート、EOP、及びヘルスケアプロバイダーに関連して組み立てたDNSトラフィックとされるものに一部依拠していることを立証する証拠がある。

被告はCIAとの会合で「Russian Phone Provider-1」(RPP-1)のIPアドレスによる疑わしいDNS検索を反映しているとされるデータを提供した。被告はこれらの検索が、トランプや関係者がホワイトハウス周辺では稀なロシア製無線電話を使用していることを示していると主張した。

ダーラム特別顧問はこれら主張の裏付けを確認していない。実際、ジョフェがこれらの疑惑を組み立てるのを支援した会社から入手したより完全なDNSデータは、そのようなDNS検索が米国ではごく普通に行われていたことを反映している。

ジョフェらが集めた(が、CIAに提供しなかった)データは、2014年から17年までの間に、米国に拠点を置くIPアドレスに由来するRPP-1のIPアドレスの検索が合計300万件以上あり、このうちトランプタワーに関連するIPアドレス由来は1千件未満だったことを反映している。

ジョフェらが集めたより完全なデータは、EOPとRPP-1に関わるDNS検索が14年初頭(トランプが就任する数年前のオバマ政権当時)から始まっていたことを反映しており、これも被告の申し立てが述べていなかった事実だ。被告はCIAにもFBI弁護士に対するものと同様の虚偽陳述をした。

以上が「書類」の事実関係の要点だ。「適用される法律8~10」と「考察11~18」は省略するが、「結論」は「上記の理由により、裁判所は上記の潜在的な利益相反について問い合わせるべきである」とする。

司法省特別顧問による裁判所への調査要請の報道を、主流メディアが挙って無視するのを見るにつけ、これまでトランプのものと報じられ、無罪にはなったがペロシ下院議長に弾劾裁判にまでかけられた「事件」が、実はヒラリー陣営「VIP」の「事件」だった疑いを濃くなりつつあるのではなかろうか。

トランプは12日、自分とロシア政府を結びつけるために、自分の選挙運動と事務所が民主党にスパイされていた「議論の余地のない証拠だ」と主張し、次のように述べた。

これはウォーターゲート事件をはるかに上回る範囲と規模のスキャンダルであり、このスパイ作戦に関与し、知っていた者は刑事訴追の対象となるべきだ。

一方のヒラリーは16日、自身のツイッターに以下の様につぶやいた。

トランプとフォックスは、彼の本物のから目を逸らすため必死で偽スキャンダルを長々と話す(spinning up a fake scandal)。そう、毎日だ(So it’s a day that ends in Y.)。彼の悪事が露見すればするほど彼らは嘘をつく。現実に興味がある人々のための彼らの新しい馬鹿話の格好の暴露がこれだ。

秋の中間選挙に向け、ダーラム調査の今後に注目だが、筆者には米国の主流メディアのスルー振りと、未だモリカケに未練たらたらの日本の左派メディアの対照が何とも興味深い。