ロシアの同盟国ベネズエラが米国への接近を再開した理由

米国はロシアの同盟国ベネズエラとの関係改善に動いた

プーチン大統領のウクライナ侵攻による情勢変化がラテンアメリカでも見られるようになっている。これまでロシアからの支援を受けて来たベネズエラに米国が接近を再開。ロシアへの制裁の強化で同盟国への支援がこれから困難になると米国は判断したようだ。そこで米国はベネズエラからの原油の輸入の再開を検討している。

ところが、それに待ったを掛けるかのようにコロンビアが登場。米国を牽制してコロンビアが自国の原油の米国向けを増大させる意向のあることを提示している。

以上の概要を以下に説明することにしたい。

米国はマドゥロ大統領への接近に暫定大統領だったグアイドー氏を無視

ラテンアメリカにおいてロシアのプーチン大統領が地政学的に最も重要視しているのがマドゥロ大統領が独裁政権で君臨しているベネズエラだ。米国はこれまで同国の人道を無視した政治に対し制裁を課して来た。また彼の政権の崩壊を狙ったクーデターを遂行したことも数度ある。

しかし何れの場合も成功裡に終わっていない。トランプ前大統領はベネズエラに暫定大統領としてファン・グアイドー氏を擁立してマドゥロ大統領を牽制するという2つの政府を併存させる形を取った。しかし、これも同国の野党間での統一を欠き、現在までマドゥロ大統領を打倒できないままになっている。

プーチン大統領がウクライナに侵攻を開始したことによって米国そしてEUからの制裁を受けたロシアはこれから同盟国への支援が容易ではない状況に追い込まれている。

そこで米国はマドゥロ大統領に接近を開始した。米国の政府高官が3月5日カラカスを訪問しマドゥロ大統領と会談を持ったことが明らかにされたのである。双方の接近は2019年以来のこととなる。しかも、この会談がファン・グアイドー氏に事前に知らされていなかったということで米国バイデン大統領の対ベネズエラへの取り組みに方向転換がされていることが明らかとなった。

しかし、マドゥロ大統領はその4日後にモスクワにデルシー・ロドリゲス外相を派遣してラブロフ外相と会談を持った。これは米国との接触にロシアが苛立たないようにするためであったのは明白だ。

寝耳に水だったコロンビア

ベネズエラは2019年まで米国におよそ50万バレルを輸出していた。ベネズエラの原油は比重が重く、米国がロシアへの制裁の一環として同国から重い原油の輸入を禁止したことを受けて、その代替えとベネズエラからの輸入の検討を開始したことに繋がる。

米国のこの方向転換は既に数か月前からベネズエラに対し民主化に取り組むようになれば制裁を緩和をする意向があることを同国に伝えていたという。

また米国は数日前にロシアからの比重の重い原油の輸入を禁止したことからそれに代わる同質の原油をベネズエラのそれで代替えさせたいようだ。

そうすることによって、米国はプーチン大統領をますます孤立させる意向だ。また、ロシアからの支援がこれから困難になることを推察しているマドゥロ大統領にとっても米国との関係再開は望むところである。

制裁下にあるベネズエラでは同国の原油の販売にはこれまでロシアの石油会社の協力を得ていた。米国との関係が改善されれば規制も緩和されて原油の輸出も容易になる可能性をマドゥロ大統領は期待している。

米国とベネズエラの接近で平手打ちを食わされたかのように受け止めているのが隣国のコロンビアだ。コロンビアはラテンアメリカにおいて長年米国から最も信頼されている国だ。コカインの大量生産国であるコロンビアは麻薬組織による米国への密売に両国が協力してその取り締まりを行って来た。

ところがこの密売に協力して来たのがマドゥロ政権である。ベネズエラでは軍人がコロンビアのコカインの密売に協力しているほどで、しかもコカインの密売に関係しているコロンビアのゲリラ組織はベネズエラに潜伏してそこから国境を越えてコロンビアに侵入してテロ活動も行っている。

コロンビアにとって米国とベネズエラとの間で関係が改善するのは都合が良くないのである。そこでコロンビアのドゥケ大統領は3月10日ワシントンを訪問してバイデン大統領と会談した。その席でドゥケ氏はコロンビアが米国に原油の輸出を増大する意向があることを伝えたのである。(3月10日付「エル・パイス」から引用)

バイデン大統領とドゥケ大統領

ドゥケ大統領はあと5か月で任期満了となり、その後任の大統領として一番有力なのは左派のグスタボ・ペトロ氏で、彼は元ゲリラ戦闘員だ。これまでコロンビアでは長年右派政権が続いたが、今回初めて左派が政権に就く可能性がある。

米国がこれまでのようにコロンビアと親密な関係を維持できるか疑問の余地もある。その意味でも米国政権にとってベネズエラとの関係改善は是非とも必要なのである。

そうしないと、左派政権が続々と誕生しているラテンアメリカ諸国から米国離れが顕著になる可能性もある。

一方のベネズエラも米国との関係改善が望むところである。その理由の一つにベネズエラ石油公社の国際為替を現在モスクワは基盤に実施しているのを変更できるようにさせたい意向があることだ。というのもロシアの銀行が国際為替口座の封鎖の影響でベネズエラ石油公社のモスクワでの口座も封鎖を余儀なくさせられているからである。(2月28日付「ABC」から引用)。

マドゥロ大統領が米国との関係改善で望んでいるのはベネズエラに対しての制裁の緩和そして解消である。