食うために働くのは必要悪だから生産性が高くなる

人は、生きている限り必ず消費し、消費する以上は、必ず原資となる所得を得ている。故に、職業を所得の源泉と定義すると、年金受給者は年金受給という職業に従事し、家族のなかで家計の主体になっていない人は被扶養という職業に従事していることになる。

しかし、普通は、職業は単なる所得の源泉ではなく、働いて得る所得の源泉を意味していて、働くことは仕事をすることであり、仕事には多種多様の種別があるので、職業を問われるときは、仕事の種類、即ち、職種をもって答える、これが職業についての普通の理解である。故に、会社員も職業なのである。

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他方で、職業は、何らかの専門性も意味する。スポーツ、芸術等の領域においては、それを職業とするためには、他に秀でた技能が要求されるのだし、医師、弁護士、会計士等の資格制度に裏付けられた職業の場合にも、その資格を取得するためには高度な専門的知見が求められている。

職業を専門性からとらえる限り、会社員という職業はないというほかなく、経理、営業、研究開発などの会社員としての職務の分担が職業だということになる。実際、働き方改革の一つの重要な側面は、会社員という抽象的な立場を消滅させて、個別具体的な専門性のある職務の担い手に転換させることなのである。

ところで、働くことに金銭の対価は必要ではない。会社員でも、趣味で登山をする人は、熟練により高度な技術を身に付けていけば、余暇において、山岳ガイドとして、無償の仕事をなし得る。そして、その山岳ガイドとしての能力が評価されれば、会社員を辞めて、プロの山岳ガイドになることもできる。ここにも、働き方改革の重要な一面があって、会社員は、会社の外へと自己を展開させていくことも考えなくてはならないのである。

会社員という職業はあるにしても、より重要なことは、専門家としての技能であって、会社員という職業は、いわば、食うための必要悪である。必要悪だからこそ、最も短い時間で、最も多くの報酬が得られるように働くので、生産性が高くなる、これが働き方改革の本質である。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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