メディアと政策づくりのパートナーになる方法

メディアとともに政策を変える

メディアとは世論を映し出す鏡です。メディアがなければ届かないであろう多くの 人たちの声を集め、政治にぶつけることで政策は変わるものです 。かつては見えにくかった組織化されていない人たちの世論を可視化する機能を持つSNSの盛り上がりもあり、世論を意識した政策変更は最近ますます増えてきています。

首相官邸記者会見室 首相官邸HPより(編集部)

正確には政府の政策ではなく、自民党の提案した政策ではありましたが、2022年3月、突如降ってわいた年金受給者への5000円給付という政策も、世論の反対で方向性が変わった一例です。

経緯はこうです。

3月15日:自民党茂木幹事長らが首相に年金受給者に5000円給付するよう要請。首相は検討を表明
3月17日:参院予算委で野党がばらまき政策であると批判
3月17日/18日:毎日・朝日が5000円給付に批判的な社説を掲載
3月28日:岸田首相が参院決算委で5000円給付についてやや後ろ向きな姿勢を表明
3月29日:高市政調会長が5000円給付について、白紙撤回を表明

これがもし野党やメディアから批判的な声があがっていなかったら、与党の申し入れのとおり、年金受給者に5000円配布する政策が行われていた可能性は高いでしょう。外部からの批判を受け、そのまま進めると政権の支持率に影響する可能性があると政権が考えると、このように政策の方向性が変化することがあります。

このように外部からのプレッシャーで政府や与党が政策を取り下げる場合だけではなく、政策を前に進める場合もあります。

2016年2月、野党だった民主党(当時)の山尾志桜里議員が、「保育園落ちた、日本死ね」と投稿された匿名のブログを取り上げて質疑を行ったところ、Twitter上で「#保育園落ちたの私だ」というタグ付きの投稿が大量に行われ、メディアも大きく取り上げました。その結果、新しい政策パッケージである「子育て安心プラン」が取りまとめられ、子育てに大きく予算がさかれるようになりました。メディアの後押しもあって政策が前に進んだケースです。

今回の記事のために、官庁取材の経験があるメディア記者に取材を行い、メディアと一緒に政策を変えていく方法を聞いてみました。その結果も踏まえつつ、メディアと共に政策を動かしていくためにはどうすればよいかをお伝えします。

記者とはどういう人たちか

いわゆる政策に関係する取材をしているのは、官庁の記者クラブに所属する省庁担当記者です。彼らは官庁内にある記者クラブ(官庁内にそれぞれの会社ごとにスペースが割り当てられた一室)を拠点として、官僚、政治家、そして関係団体や審議会の委員など政策に関わる様々なステイクホルダーの取材をしています。

彼らは記者のキャリアの初期を日本全国の支局で過ごし、警察、行政等の取材を進める中で記者としての経験値を積みます。その中で選ばれた記者が東京本社に呼ばれ、中央官庁の取材を担当します。支局での経験期間は各社によって違うようですが、政策関係の取材をしているのは10~20年目の経験豊かな記者であることが多いようです。

省庁担当記者は日々担当する省庁に関わる政策に関わる取材を行っていますが、あなたの進めたい政策の取材をしてくれるのはその政策を所管している省庁の担当記者だけなのか、と考えるのは少し早計です。

例えば、氷河期世代支援の政策についても、厚労省の政策の解説は官庁担当の記者が行うかもしれませんが、彼らの就職が経済に与える影響を主眼に置くのならば経済担当の記者の領域かもしれません。取材で話を聞いた記者も「社会部マターとか、経済部マターとか担当ごとの取材テーマは確かに存在するが、だからと言って担当していない記者がそのネタを記事にできないわけではない」と話しています。

身近に相談できる記者がいて、取材してほしいネタがあるのであれば、まずは相談してみるのがよいでしょう。その記者が取材できなくても面白いテーマなら他の記者を紹介してくれるはずです。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2022年4月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。