冷戦の再来:自由・民主主義国と共産主義・専制主義国との対決(屋山 太郎)

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会長・政治評論家 屋山 太郎

ロシアがなぜ隣国のウクライナに侵攻したのかといえば、「領土を広げたい」というのが本音だろう。何故広げたいのかといえば、自由と民主主義を求める国が増え続け、ウクライナもNATO加盟を国是として求め出したからだ。

プーチン大統領は当初「ウクライナに親露派の政権が出来ればよい」などと言っていたが、ウクライナの政治は、ウクライナ国民が決めるものだ。ウクライナはその独立が怪しくなったからNATOに加盟したいと言い出した。ソ連崩壊を悔やむプーチン氏は、力によってかつての領土を取り戻したいと願い、無法な隣国侵略に乗り出した。

NATO誕生は1947年で、当初はドイツを外して12ヵ国でスタートした。その後、トルコや西独、スペイン等が加わり16ヵ国となった。91年にソ連が崩壊した後、東欧諸国やバルト三国が加盟した。今や、NATO加盟国は欧州、北米の30ヵ国に及ぶ。ウクライナ情勢が厳しくなったため、新たにフィンランド、スウェーデンが加盟申請を検討するに至った。

現在のロシア国家はプーチン独裁政権であって、政治的には以前の共産主義体制とほとんど変わらない。東欧諸国は、ソ連の崩壊を喜びつつ独立を宣言し、勝ち得た自由主義体制を守るためにNATO加盟を願望した。ウクライナ戦争に際して、軍備に消極的だったドイツが軍備増強に転じたのは、ロシアの動きを抑えねば、第2のソ連が誕生すると判断したからだろう。NATO発足時、西独のアデナウアー首相は、戦勝国のリーダー達に対して周辺に軍事的脅威を与えないことを約束していた。各国とも軍事予算はGDPの2%を目標としたが、ドイツだけは1%台に留まっていた。ショルツ現首相は「2%以上にもする」と述べ、軍備増強には積極的だ。

世界は今、冷戦再来の様相を呈している。ロシアは旧共産主義体制に限りなく近い専制主義、中国は共産党による独裁体制である。中露のシンパ国は50ヵ国程度あるようだが、多くの国が財政的援助を受けているようだ。いずれにしろ今や、世界は自由・民主主義国と共産主義・専制主義の国々との対決の図式になっている。この図式は、かつての冷戦期と全く変わらない。ここに至る西側の失敗は、敵国にもなり得る中国・ロシアを友好国扱いしたことだろう。一つの製品を作るのに、部品調達先が全世界に跨っている結果、中露の意向によっては製品が完成できないこともあり得る。西側はグローバル化のやり直しの過程にある。西側の機密事項は中露には渡らない体制を整備する必要がある。

さらに自由と民主主義を守ろうとする勢力を全力で助けるNATOのような仕組みも必要だろう。日米豪印のクアッドも米英豪のAUKUSも自由と民主主義を守る盾である。「一国二制度」だからといって台湾を共産主義体制側に渡す理由は全くない。

(令和4年4月20日付静岡新聞『論壇』より転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。