中国はいったいどうなってしまったのか?

増田 悦佐

こんにちは。

今日はまた、おもしろいご質問をいただきましたので、私なりにこれが正解ではないかという答えを書かせていただきます。

ご質問:中国の前年同期比1月から3月のGDP4.8%増ということですが、「ホントかよ」という感想しか出てきません。恒大集団があわやデフォルトかというところからの、上海ロックダウンという迷走政策によって中国はどうなっていくのかの見立てをお伺いできればと思います。

お答え:たしかに不動産開発業界で次々に債務不履行が起き、中国最大の都市経済圏、上海がロックダウンされた状態で、前年同期比4.8%増というのは、うさん臭い感じがします。

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平常どおり営業でこの数字が出る中国経済の怖さ

ですが、私はこれはたぶんすなおな数字、つまりたとえ下駄を履かせていたとしても、その下駄をとくに高くすることはなく、従来どおりの下駄で出した数字だと思っております。

むしろ、中国経済の怖さは共産党指導部が「こういう数字を出せ」と号令をかければ、ごく自然にそのとおりの数字を出せるところにあるのではないでしょうか。

まず、お尋ねのGDP成長率のグラフから確認しましょう。

去年の第1四半期はおととしの第1四半期のコヴィッド-19勃発によるマイナスを取り戻すために、前年同期比で20%近い伸びとなりました。

「その背伸びした水準からさらに4.8%増とは、あまりにも順調すぎるのではないか」と、誰しもが考えるでしょう。

ところが、中国のように一応市場経済を装いながらも、本質的には統制経済の国では短期的には国が命令したとおりの経済成長はできてしまうのです。

どうすればそれが可能なのかを探ってみましょう。

国民経済の基盤をなす消費の根幹、小売売上高はマイナス3.5%と顕著に落ちこんでいます。また、中国経済に占める位置が非常に高い不動産投資もわずか0.7%増とほぼ横ばいです。

それなのに、どうして固定資産投資が9.3%増と激増しているのでしょうか?

むしろ、消費も不動産投資もふるわないからこそ、政府は「GDP全体が5%前後の成長になるように固定資産投資を加速させろ」と指令を出したのでしょう。

そして、企業、中でもどんなに不採算なプロジェクトを連発してもたいていは救ってもらえるとわかっている国有大企業が、稼動率が50%にも満たないような工場設備、誰も通らない道路、対岸まで渡れない橋などを乱造して、帳尻を合わせたのです。

もちろん、短期的にはこんな乱暴な投資を積み上げることができたとしても、たとえ現物を取り壊しはしなくてもいつか帳簿の上では減損会計を立てて、GDPから差し引かなければならないはずです。

ところが、中国政府はそこもうまく万年高成長に見せかける手段を持っています。

まず、ほとぼりが冷めた頃にほとんど原価どおりの価格で国有の不良資産回収企業に買い取らせます

その「債権買い取り」企業が不良資産の山でにっちもさっちもいかなくかったら、大幅に値下げしなければ買い手の付かない資産を簿価で評価して、株と不良資産の交換をさせるのです。

こういう手を使って積み上げてきた経済成長ですから、採算の合わない設備を全部減損会計で消却したら、正味の成長分ははるかに低かったことがわかるでしょう。

不動産部門はとくに過大に評価されている

とくに諸外国と比べて異常に国民経済に占める比重の高い不動産部門で累積している不良資産は、正直に洗い替えしたらどこまで減価するか、想像もつきません

これまで、不動産業界がGDPの25%超となったのは、ユーロ圏に入って低利で金が借りられるようになって不動産バブルが起きたときのスペインだけでした。

日本の株価・地価バブルの頂点だった1980年代末でも、不動産業界の比重はそこまで上がっていません。

ところが、中国では不動産業界がGDPの25%以上を占めるようになってから、もう10年以上経っています

しかも、この高さは住宅があまりにも割高に評価されていることと密接に関連しています。

中国は、アメリカの5倍近い人口を擁しながら、名目GDP総額ではやっとアメリカの7割程度に追いついたところです。

しかし、現存する住宅ストックの評価額を比べると、中国にはすでにアメリカの3倍近い評価額の住宅ストックが存在することになっているのです。

アメリカの住宅ストック評価額はGDPの約1.7倍です。中国の評価額は約7倍です。どちらがおかしいかといえば、どう考えても中国のほうでしょう。

ふつうの市場経済の国で、住宅ストックの評価額がこれほど舞い上がってしまったら、いつか評価が下がることは間違いないにしても、国民経済に大きな影響が出ないように、腫れものに触るように慎重に扱うでしょう。

中国政府は大手不動産企業を潰そうとしている

ところが、中国政府は去年の半ばぐらいから、どうも意図的に大手不動産開発企業を潰しにかかっているようです。

かつて「世界最大の債務をしょった不動産会社」と呼ばれていた中国恒大集団の場合など、必死に金策をして債務不履行を逃れようとしている最中に、過去の建築許可申請に虚偽があったとして、施工中の物件の解体処理を命じられたりしています。

恒大だけではなく、中国政府に睨まれてドル建て社債の元利支払いに支障を来たす不動産会社が続出しています。

その結果、最大の被害を受けるのは、こうした不動産開発業者から物件を買ってしまった消費者です。

日本でも、一時「スケルトン渡し」といって、開発業者は躯体工事までを受け持ち、台所、浴室などの設備は買い手が自分で選んだものを取り付ける分譲物件が話題になりました。

中国の場合、設備まで全部開発業者に任せるととんでもない手抜き工事、欠陥工事の物件をつかまされることが多いので、消費者側の自衛手段としてスケルトン渡しが普及しています。

しかし、窓枠はあっても窓自体が入っていない、床も壁も天井もコンクリート打ちっ放しというのは、工事続行資金がどう頑張ってもひねり出せない開発業者の居直りとしか言いようがないでしょう。

しかも、こうした物件がどうやら中国全土で、1省当たり100件単位で数えるほど出てきているのです。


河南省はひときわ丸が大きいので、おそらく400~500件こうした物件をつかまされて往生している消費者がいるのでしょう。

政府は本気で金融緩和をしているのか?

中国政府もやっと重い腰を上げて、法定準備率を引き下げて銀行が融資をしやすくするといった手を打ち始めました。

ただ、どこまで本気で金融緩和によって景気拡大を図っているかとなると、怪しいものです。

つい最近も、「米中の10年国債の金利を比べると、中国よりアメリカのほうが高くなった」と言って、政府が積極的な金融緩和策に踏み切った証拠だとする見解を見かけました。

でも、実際には中国の10年債金利が横ばいだったのに、アメリカの10年債金利が急騰したので、結果として中国のほうが低くなっていただけのことです。


どうやら中国政府首脳には、不動産業界全体が奈落の底に引きずりこまれそうな局面なのに、もっと優先すべき課題があるらしく、あまり真剣に経済・金融政策に取り組んでいないフシが見受けられます。経済・金融より大事なことって、いったいなんでしょうか。

今ごろになって上海全市をロックダウン?

私は、世界中でコロナ騒動も賞味期限切れになりつつあるこの時期に、上海で感染が蔓延して人口約2500万人の大都市を全市ロックダウンするという大騒ぎになったことにそのヒントがあると思います。

なるほど、もしこれまでのデータが正直なものだったとすれば、今年3月末からの感染者数は激増です。

でも、現在感染者数の圧倒的多数を占めているオミクロン株は、伝染性が高いけれども致死率は低いことが多くの国で確認されました

そして、「オミクロンは軽症の感染者を増やして自然免疫を高めることによってコヴィッド-19騒動を終結に向かわせてくれるのではないか」と言われているのです。

そのオミクロン株中心の感染蔓延、しかも上海市が中国全体でいちばん感染者数が多く出たと言っても1日当たり約2600人で、人口の1万分の1程度でした。

これが、全市民を自宅内で軟禁状態にするほど大げさな対策を必要とする事態でしょうか?

しかも、コロナ騒動勃発当時には「果断な措置で大規模感染を防ぎ止めた」と賞賛する向きもあった中国政府の防疫対策が、上海では不手際が目立ちます。

たとえば、「上海市内の高齢者介護病院から明らかに遺体を搬出する霊柩車が出た」という噂が出てから、2~3日のあいだ上海市当局は何もしませんでした

噂に尾ひれが付いて広まるのを待っていたかのように、あとから「上海市で初のコロナ犠牲者が3名出たが、3人とも他に病気を持っていて、その症状が悪化したために亡くなった」という公式発表をしています

あるいは、次の写真をご覧ください。

上海市では、病院への酸素ボンベの搬送さえトラックを使ってはいけないことになっているのでしょうか。そうだったとしても、白昼目立つところでわざわざ「酸素吸入をしなければならない患者が増えていますよ」とでも宣伝するような運び方をする必要はないでしょう。

上海市の市政なり、そこに大きな影響力を持っている勢力を失脚させようとする意図が働いているのではないでしょうか。

決定打は富裕層海外移住願望が高まっているとの噂

私にとって決定打となったのは、「自宅での軟禁状態に嫌気がさした上海の富裕層が、真剣に海外の移住先を探している」とのニュース見出しです。

真偽のほどは明らかではありません。おそらくは風聞程度のネタをおもしろおかしく膨らまして書き上げただけでしょう。

ですが、海外に移住してしまう人の多さは、中国政府首脳陣にとって非常に頭の痛い問題です。

次のグラフがその深刻さを示しています。

私も中国共産党の幹部や大手国有企業の経営者の大部分は、少なくともひとり海外に永住権を持った近い親戚がいて、いつでもそこに逃げこめる用意をしているという話は聞いていました。

しかし、たった10年で1050万人もの中国人が、観光客や留学生としてではなく、移民として海外に出て行ってしまうとは驚きです。

約240万人が香港へ、約220万人がアメリカへ、約80万人が韓国へ、そして約77万人が日本へと移住しています。しかも、他の発展途上国からの移民に比べて高学歴・高所得の人が多く、人材流出による被害は人数よりずっと大きなものでしょう。

もっと下世話な話では、習近平の最初の奥さんは中国の駐イギリス大使か、それに近い高位の外交官の令嬢だったそうです。

習近平がまだ中国共産党の若手幹部候補生だった頃、突然「私はイギリスに永住することにしたわ。あなたも一緒に来ない?」と言われて離婚せざるを得ず、その後党内の信頼回復に苦労したといいます。

それにしても、経済が額面どおりの発展をし、人々の暮らし向きも年々良くなっているとすれば、移民収支が年間平均で95万人もの赤字ということがあるでしょうか?

海外移住者の多さは、それぐらい中国にとってセンシティブな問題です。こんな問題は、噂話の段階でもなるべく海外報道陣には知られないように手を打つでしょう

中国政府首脳が敢えてそうした噂を放置しているとすれば、やはり上海財界人の大物や、彼らの後ろ盾になってきたいわゆる上海幇(シャンハイパン)の政治家たちを失脚させようという意図があるのではないでしょうか

じつは、恒大集団の創業CEOがあれほどいじめられているのも、彼が上海幇系の政治家と親密だからだという話もあります。

そこで気になるのが、中国共産党政治局常務委員会の勢力配置です。

このうち、下の3人は上海幇と見られています。問題は、永世国家主席となりたがっている習近平には忠実な秘書役の栗戦書以外、腹心の部下と呼べる人がいないことです。

李克強は、習政権初期には、党幹部の中でもっとも経済に明るい実務家として習近平を支えてきました。しかし、習が自分自身への個人崇拝をあおり立てる姿勢を露骨に出し始めたことに嫌気がさして、今年いっぱいで国務院総理(首相)の座を降りると宣言しています。

習近平としては、上海幇の3人が李克強を取りこめば常務委員会の中で多数派を形成されてしまうことが怖いでしょう。

そこで、機先を制して上海幇叩きに出たというのが、不可解なところの多い上海ロックダウン騒動の真相ではないでしょうか


編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年4月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。