悪いのは日銀ではない、リフレ派とそのほか大勢の有識者と経済人だ

小幡 績

gyro/iStock

この2カ月、日銀は突然袋叩きにあっている。しかも、私達のように「もともと金融緩和をやりすぎている」「リフレはヤバい」などと批判している方面からの批判だけではない。むしろ、これまで「物価を上げろ」「インフレ率2%を達成できていない」「次の金融緩和の一手はないのか」などと金融緩和拡大、物価上昇を求めていたグループから「物価高騰に対処せよ、そのためには円安を抑えろ」「いつまで緩和しているんだ、欧米に追随せよ」と、これまでと正反対の非難、攻撃を浴びている。

可哀そうだ。

そこで、私は、四面楚歌の日銀に窮地脱出のためのアクションプラン(行動計画)として、先日、「日銀 金融政策正常化 アクションプラン」を提案した。その詳細はそちらを参考にしていただくことにするが、しかし、このアクションプランはもう間に合わないかもしれない。

なぜなら、日銀への攻撃は熾烈を極めており、何をやっても日銀は批判される状況になっているからだ。

現在の攻撃されている理由は、急激な円安で、これは日銀の金融政策のせいで、欧米とまったく正反対の方向だからだ、というものだ。

円安はもっとも日本を貧しくするもので、これは私も昔から主張してきたが(「円高・デフレが日本を救う」という本を2015年に出版した)、わざわざ言わなくても、どの経済学の教科書にも通貨が弱くなると交易条件が悪化して、一国の経済厚生が低下すると書いてある。

それにもかかわらず、この40年、ほとんどの経済人、エコノミストは円高を攻撃してきたわけで、40年来の誤りを認め、日本の経済政策を歪曲してきたことを謝罪してから、日銀を批判するべきだ。

しかし、もっとひどいのは、欧米と金融政策が逆だから良くない、という批判だ。

むしろ、急にインフレになって、政策を急転換しなければならなくなった、さらに、もう利上げしても間に合わない米国中央銀行FEDは最悪の金融政策であり、欧米との比較でいえば、日銀だけがインフレを起こさなかったと褒められるべきことであり、まだ利上げが間に合うという世界一良い状況にある。

こうなると、日銀はどうしていいかわからない。なぜなら、批判がまったく間違っているだけでなく、論理的に破綻しており、さらに、批判者も批判者自身が何を求めているのか自分たちでまったくわかっておらず、彼らを満足させようにも、説得しようにも手段が存在しないからだ。唯一の方法は、彼らの言説をすべてメディアから抹殺することだが、それこそが最も難しい。なぜなら、まともな有識者たちは、まったく発言しようとせず、間違った言説を放置してきたからだ。

もちろん、日本の金融政策を誤らせたのは、リフレ派で、素直で経済学を知らない安倍氏に催眠術をかけたことが21世紀の日本最大の経済犯罪と言っても過言ではないが、彼らは、金融を食い潰したら、今度は財政を食いものにしようとしている。MMT理論はその手段の一つだが、残念なことに(幸運なことに?)すでに財政は死んでいる、ではないが今後の実質破綻が決まっているようなものなので、あまり余地がないからリフレ金融政策ほどのインパクトは現実経済にもたらさない。彼らがいなくても、政治家たちが十分財政を使い果たすので、追加的な被害はリフレほどではないだろう。

しかし、一番の問題は、リフレ派、MMT派を、放置してきた、まともだがサイレントな人々である。彼らは、間違っているリフレ派、自己実現にしか興味のないリフレ派と異なり、常識もあり、ある程度日本経済を憂いているはずなのに、何もしなかったからだ。

陰で「彼らはおかしい」「間違っていて話にならない」と言っていても始まらない。ともかく、戦って潰す必要があったのだ。それにもかかわらず、経済人の多くは「とりあえず円安の方が目先楽だからいいか」「財政破綻、金融破綻はまあ先のことだから、心配だけどまあいいか」という態度だった。もっとひどい人たちは、円安、株高で、単に喜んでいただけだった。

もちろん、なぜか米国のノーベル経済学賞受賞者を含む著名経済学者がリフレ的なことを支持し、まっとうな金融政策をしてきた過去の日銀を批判したことも罪深いが、武力に対する防衛と同じで、自分の国は自分たちで守らなければならないのだ。日本の経済学者、有識者、そして自分がインテリだと思っている経済人たちは、自分たちで考え、行動しなければならない。

これが日本の病巣だ。戦わない。ロシアが攻めてきたら、理屈を超えて戦わなければならないウクライナを見習う必要がある。どんなに相手が理屈が通じなくても、常識外であっても、結果的に社会を破壊しようとしている、実際に破壊している人々とは戦う必要がある。

そして、日本経済もウクライナと同様に破壊されつつあり、その最大の被害者は日本銀行であり、日本銀行の政策に対する信頼感である。一国の中央銀行が国内の信頼を失えば、世界からの信頼は地に落ちる。トレーダー、投機家にとって絶好の狩猟場となる。

そうならないように、現在、日本銀行は瀬戸際で戦っている。21日から26日まで連続オペをするのは、現在コミットしている金融政策を守るためだ。そして、27日28日の政策決定会合で、何かアクションが出てくる可能性がある。

これまでの日銀の政策に反対でも、現在の自分の国の中央銀行への信頼を、私は何が何でも守りたいと思うし、する必要がある。