不思議な蜜蜂の生態と日本での養蜂のお話:吉村昭『蜜蜂乱舞』

野北 和宏

今回の書評は、吉村昭(よしむら あきら)(著)「蜜蜂乱舞」です。

僕は、蜂蜜が大好きで、朝食にこんがり焼いたトーストにたっぷりのバターと蜂蜜、そしてその上に輪切りにしたバナナを乗せて食べていました。ある日突然、蜂蜜とバナナのアレルギーとなり、この10年間ぐらいはその大好物の蜂蜜トーストは食べられないのが辛いところです。

蜜蜂の生態が不思議なものであることは、上橋菜穂子(著)「獣の奏者 – 闘蛇編」で、主人公のエリンが養蜂家の夫婦に拾われて育つ間のエピソードとして描かれています。

蜜蜂は、蜂蜜やミツロウを生産するだけではなく、作物などの受粉を手助けしてくれる存在(ポリネーター・花粉媒介者)。日本ではその経済価値は4,700億円だそうです。

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そして、花粉交配用蜜蜂の日本での使用割合は、イチゴ:46%、メロン:30%、スイカ:16%だそうです。

それほど身近な蜜蜂なのに、意外にその生態や日本での養蜂家のお仕事など全く知りませんでした。そこで、今回、吉村昭さんの、日本の養蜂にまつわるお話を読んでみました。

主人公は鹿児島の人なのですが、一年のうち半年以上は日本全国に蜜蜂を移動させながら養蜂するのに驚きました。移動中は蜜蜂が熱を持ちすぎないように常に冷やしておかなければなりません。同業者の養蜂家が蜜蜂を移送するときにトラックが熱くなりすぎて蜜蜂が全滅してしまったエピソードには心を痛めました。夏の間は北海道で過ごすのも蜜蜂のためだということで、まさに蜜蜂の生態に合わせたお仕事。一匹の女王蜂と多数の蜂蜜を集める雌、少数の蜂の子を産むための雄。その雄は役目を終えると、越冬のために雌の蜂に皆殺しされるという生態も、この小説を読んで初めて知りました。

日本の養蜂家の人間ドラマと蜜蜂の不思議な生態に関する知識を同時に楽しめる本書。冒頭で紹介した上橋菜穂子(著)「獣の奏者 – 闘蛇編」と合わせて、お勧めな本です。