日本維新の会、旧皇族の養子縁組案の実現を求める意見書を提出

皇室制度の議論を加速させていかなければならない。

日本維新の会が旧皇族の養子縁組の意見書提出

2022年4月15日(金)【天皇の退位等に 関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果に対する 意見書】提出のお知らせ|ニュース|活動情報|日本維新の会
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「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果」に対する意見書

2022年4月15日、日本維新の会から、旧皇族が養子縁組によって皇族に列せられる途の実現を求める意見書を参議院議長・副議長に提出しました。

これは昨年12月の皇室制度に関する政府有識者会議の報告書に対するものです。

皇室制度に関する過去の政府有識者会議の検討結果

令和3年に開催された本有識者会議は、【天皇の退位等に関する皇室典範特例法 附帯決議】において、「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について…本法施行後速やかに…検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること」と書かれていたことが設置の根拠となっています。

「退位特例法の附帯決議」が設置根拠ということは、上皇陛下が譲位の意向を示さなければこの運びにならなかったということです。その原因と課題についてはnote記事「宮務を政治マターにしている現行皇室典範の位置づけ」にて書いています。

同様の意見集約の枠組みは過去に平成17年の【皇室典範に関する有識者会議】や、平成24年の【皇室典範に関する有識者ヒアリング】がありました。

平成17年の有識者会議においても旧皇族の皇籍復帰の途について指摘がありましたが、なぜか「前例が無い」として無視されました。女系天皇の方が前例がないのにもかかわらず。他にも合計特殊出生率についての恣意的な利用など不可解な点がありました。最終的に「女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠」とまで言い切った報告書が出ましたが、結局、文仁親王妃紀子殿下の御懐妊、悠仁親王殿下の御誕生により、報告内容が実行に移されることはありませんでした。

その後、民主党政権下の平成24年に今度は「皇族の減少」への課題が「皇位継承問題」とは別建てとなり、女性皇族の婚姻後の身分の問題に絞って議論が行われました。

そこで出てきたのが「女性宮家論」です。先述の皇室典範特例法の附帯決議の文言も、この二つは別建てである書きぶりになっています。

そのため、旧皇族の皇籍復帰や養子縁組の議論が置き去りにされていました。そのため、それらをきちんと議論する必要があるという声が上がっていました。

今回の令和3年有識者会議の議論は、そういう流れの中に位置づけられます。

皇室制度の議論における元々の問題意識の再確認

旧皇族の養子縁組と皇籍復帰の理由

皇室制度の議論における元々の問題意識を再確認します。

不穏な表現がありますが、上掲図のように、現在の皇室の構成のまま時間経過すると、皇族方の人数が少なくなります。現行皇室典範では、民間人と結婚した女性皇族は、皇族ではなくなるからです。

皇位継承資格のある皇族方も現在は三方居られますが、悠仁親王殿下の次代については不確定であり、男子が生まれない可能性すらある。

こうした「皇位継承権者と皇族全体の先細り」が切実な課題として存在します。

実務的な意味においても深刻で、このままでは皇族としての公務を行う人が居なくなり、皇室の存在感が薄れていくということになりかねません。皇族としてやらなければならない公務が決まっているということは無く、皇族が何らかの活動をすればそれが公務になっているというだけの話ですが、天皇の代理は必須の公務で皇太子や皇嗣が行うこととなっているところ、この代理すら困難になるおそれがあります。

そのため、江戸時代に幕府と新井白石が閑院宮家を創設したように、皇族の系統の安定性を確保するために旧皇族の皇籍復帰や養子縁組という手段が提唱されました。

それは単にシステムとして考えているのではなく、皇族本人らにとっての生育過程での交流や教育の機会・公務遂行等に関する相談役・婚姻に際する負担の分散などの役割も期待されてのことです。

今回、日本維新の会からは「旧皇族の皇籍復帰」については特に意見が為されていませんが、旧皇族の養子縁組による皇族の身分の取得との違いは、新たな法律によって直接皇族の身分を付与するのか、それとも養子縁組という当事者らの意思を反映した上で皇族の身分が設定できるよう既存の法律(皇室典範)を調整するか、という違いです。

養子縁組案は、具体的には、皇室典範9条の縛りを外して皇族が養子をとることを可能にし、15条の縛りを受けないようにして、皇族の養子となることによる皇族の身分の設定を可能にする改正が求められます。皇室典範の改正なのか、特例法で対応するかという手段の違いはありますが、維新の意見書では前者の見解のようです。

皇室典範

第九条 天皇及び皇族は、養子をすることができない。

第十五条 皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族となることがない。

維新の政府有識者会議報告書に対する評価と養子縁組の先例

日本維新の会の意見書では「皇位継承の問題と切り離した皇族数確保のための方策」として有識者会議報告書が提唱した論じ方に賛同しています。

その上で、有識者会議の報告書にある皇族数確保のための方策

  1. 内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持すること
  2. 皇族の養子縁組を可能にし、皇統に属する男系男子(旧皇族のこと)を皇族とすること
  3. 皇統に属する男系男子を法律によって直接的に皇籍復帰させること

これらのうち、日本維新の会は、2番を「特に高く評価」するとしている点で有識者会議報告書より踏み込みました。3番に関しては、報告書で1番と2番では十分な皇族数が確保できない場合に検討すべきとされたことと同調しているようです。他方で、1番については女系拡大の懸念に十分留意すべきとし、この点も報告書から踏み込みました。

皇室における養子縁組の前例について維新が今回の意見書で取り上げた例は、皇位継承の目的で養子をする例の以下二例。

  • 霊元天皇:後水尾天皇の皇子である識仁親王。兄の後光明天皇の養子となった後に1663年に即位
  • 光格天皇:東山天皇の皇曽孫である兼仁天皇。後桃園天皇の養子として1779年に即位

他の例については【もう一つの9条】旧宮家男子の皇室への養子縁組と歴史上の前例 で簡略的にまとめているので興味があればどうぞ。

戦後の旧皇族の皇籍離脱の理由と復帰に関する旧皇族の意思

日本維新の会は旧十一宮家の皇族男子の子孫である男系男子=旧皇族について、「現在の皇室との間で親戚関係があり、また、現在も菊栄親睦会等を通じた交流関係があること」から、「現在の皇室と極めて近しい立場」としています。

このことの意味ですが、「旧皇族を男系の祖先で遡ると約600年前の伏見宮貞成親王が現皇室との共通の祖先である」ことから「こんなに離れている者を皇室に入れて良いのか?」という言説、要するに女系天皇積極容認派からの反対論に対応しています。

文藝春秋2005年3月号:保阪正康氏作成のものを勤務先を伏字に加工

維新の作成した家系図はこちら

たとえば東久邇家は昭和天皇第一皇女成子の子孫ですし、朝香家や竹田家も明治天皇皇女の子孫です。また、久爾宮家からは香淳皇后が昭和天皇と婚姻されています。旧皇族の場合、女系派が言うような「隔たり」は彼らの理屈上は問題にならないだろうということです。

女系天皇積極推進者が旧皇族について「600年離れた」「世俗に塗れた」「どこの馬の骨ともわからない者が」と言う例がSNSで見つかりますが、「女系天皇」の場合には数千年遡っても皇室に繋がらないかもしれない完全なる外部から一般男性が皇室に入るのであり、完全に自分らの論の不整合を鏡写しにした主張です。

他方で、状況により消極的に女系継承を容認する立場の者は、そういう主張はしていません。その見極めは大事だと思います。

さて、「旧皇族が復帰に応じなければ意味が無い」という主張をする者が居ますが、まず国家が受け入れ準備をしなければ旧皇族が『皇族の身分欲しさか』というような非難を受けかねないため、養子縁組や皇籍復帰案を採用するなら受け入れ準備が先です。

過去には「旧皇族に取材をしても復帰の意思は無いと回答された」と言われたことがありましたが、旧皇族間で無回答の示し合わせが為されていたという事情があり、その理由はそういうことでしょう。

皇籍離脱の経緯としても、GHQによる皇室財産制限を背景に離脱せざるを得なかったという事情があるため、国家の側からアプローチするのが筋です。

他方で、皇籍復帰や臣民として生まれた者が天皇となることは歴史上先例があるものの、確固とした伝統とはなっているとは言えないことから、男系優先と理解する者でも反対の見解の者が居ます。

その中で「現憲法下では前例が無い」という点を言う者が居ますが、一般に訴訟でも日本国憲法施行以前の事情を勘案して種々の法的判断をすることはあります。

たとえば⇒同性婚訴訟札幌地裁判決の簡潔な解説・まとめ

歴史的伝統的な話について、現憲法の施行前後で勘案する事情を分ける理解は「今の天皇は3代目だ」というような革新左派による歴史観と通底していると言え、かなり先鋭化しているんじゃないでしょうか。

令和3年有識者会議で報告された憲法上の疑義に日本維新の会の意見書は沈黙

日本維新の会の意見書では令和3年の有識者報告書で示された憲法上の疑義についての応答が無い点が気がかりです。特に憲法学の宍戸常寿教授からの違憲の懸念が多くなされたので、それについては以下で反論になり得る論述を試みています。

【旧皇族の皇籍復帰の憲法問題まとめ】宍戸常寿の養子縁組に関する「違憲の懸念」への反応と反論 – 事実を整える

個人的には、将来的に「門地による差別」「養子となる子の自己決定権に関する憲法上の位置づけ」がどうかが厚く語られる気がします。

皇室にかかわる憲法上の疑義を合理的なレベルまで無くすことは、政治家の義務でしょう。法解釈論を戦わせることがあっても良いはずです。

もちろん、無限に論点設定しようと思えばできる上に、現段階では憲法上の疑義を明らかにせずに隠しながら旧皇族の養子縁組・皇籍復帰を行わせて、期間が経過した後にその疑義を騒ぎ立てる、という手法も反対論者からはあり得るため、あまり拘泥するのも良くないとは思いますが。

皇室制度の議論は政治マターとなっているために議論が遅々として進まず先送りにされてきた経緯があること、このまま時間経過に任せてはならないことを書いてきました。

そのため、結論を拙速に出すことは求めませんが、議論を加速させていかなければならないと思います。その意味で、日本維新の会の意見書は、とても時宜にかなった有益なものと言えるのではないでしょうか。


編集部より:この記事は、Nathan氏のブログ「事実を整える」 2022年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。