ワクチンの効果は、感染予防、発症予防、重症化予防に大別される。感染予防の効果判定には無症状者も含まれ、重症化予防効果の検討は、人工呼吸管理などの集中治療が必要な患者に限定される。感染予防効果が強調されていた新型コロナワクチンも、最近では、感染予防効果は見られないが、重症化予防に接種する意義があると言われている。また、オミクロン株による感染が軽症化したのもワクチン接種が普及したことを理由とする向きもある。
しかし、オミクロン株が登場して4ヶ月が経過したに過ぎないことから、オミクロン株に対する重症化予防効果に関する報告は海外からも少数であり、日本からの報告は見あたらない。
最近、米国から診断陰性例コントロール試験の手法を用いて、オミクロン株に対するコロナワクチンの入院予防効果が報告された。18歳以上の成人では、2回目の接種後2ヶ月未満では71%、5ヶ月以降でも54%と期待できる入院予防効果が得られた。3回目の追加接種をすることで入院予防効果は88%に上昇した。12歳から18歳においては、2回目の接種後22週以内で43%、23週以降では38%と成人と比較して低値を示した。5歳から11歳では、68%と比較的高い入院予防効果が得られたが、2回目接種からの中央値は34日に過ぎない。
浜松市のホームページには、新型コロナ感染者の年齢や重症度のほか、ワクチンの接種回数が公開されている。そこで、浜松市の公開情報をもとに、ワクチンの重症化予防効果の検討を試みた。表1に浜松市のデータに基づくオミクロン株に対する新型コロナワクチンの中等症・重症化予防効果を示す。
浜松市の総人口は79万5千人で、2022年1月1日から4月14日までのコロナ患者の総数は23,665人である。しかし、重症者数は7人に過ぎないので、代わりに、中等症の143人を加えて、中等症・重症化予防効果を検討した。わが国では中等症以上が入院対象となるので、先に紹介した米国における入院予防効果と意味するところは同じと考えられる。
その結果、未接種、2回接種、3回接種者の感染率は、0.0538%、0.0331%、0.00559%、2回、3回接種者の中等症・重症化予防効果は、38%、90%であった。
2回接種者の多くは2回目接種から半年以上経過していると思われる。一方、3回目接種が本格化したのは1月以降なので、ほとんどの3回接種者は、3回目ワクチンの接種後3ヶ月以内と考えられた。浜松市における2回接種による中等症・重症化予防効果は、米国における入院予防効果と似通った数値であり、以前に報告した無症状や軽症患者が主体の2回接種者で得られた感染予防効果が23%であったのと比較して、やや優れていた。
上記の米国における研究では、人工呼吸管理やECMOによる治療を必要とした重篤患者の発症予防効果についても触れられているが、その値は79%と、非重篤患者の20%と比較して高値であった。
オミクロン株による重症患者は、発症頻度が低いので全国規模のリアルワールドデータを用いなければ、重症化予防効果の算出は困難である。国立感染症研究所(感染研)の公開情報には、重症患者のワクチン接種状況が記載されているので、感染研の公開情報から、わが国における重症化予防効果を検討した。感染研のデータには、(未)接種者数が記載されていないので、日本の年齢別人口統計と首相官邸ホームページに公表されている接種率を用いて、ワクチン(未)接種者の人数を推定した。
2022年3月28日から4月3日までににおける重症患者数は、65歳未満では、未接種、2回接種、3回接種が8人、16人、2人、65歳以上では、9人、13人、9人であった。なお、接種歴不明者が、65歳未満、65歳以上でともに9人見られた。表2には、感染研のデータにもとづいたオミクロン株に対する重症化予防効果を示す。2回接種のみでは、65歳未満で42%、65歳以上では-46%であったが、3回目の追加接種をすることで、重症化予防効果は89%、92%に上昇した。
感染研では、未入力のデータがある場合には接種歴不明にカウントしている。感染研データの元となる新型コロナウイルス感染症等情報把握・管理システム(HER-SYS)のアンケート項目には、接種日の日付も含まれており、接種日の日付を正確に記憶していないために、接種歴が不明とされる場合も多々あると想像される。それゆえ、接種歴不明者の多くはワクチン接種済みである可能性が高いと考えられる。
上記の理由から、接種歴不明者を、2回接種者、3回接種者の割合に応じて振り分けて、2回接種者、3回接種者の人数に加えて計算した重症化予防効果を表3に示す。2回接種では65歳未満で20%、65歳以上で-103%、33接種では71%、88%と、接種歴不明者を除外して計算した表2と比較して重症化予防効果は低下した。
現在、新型コロナワクチンは、感染を防ぐことはできないが重症化予防に意味があるという理由で、3回目の追加接種が推奨されているが、わが国において、同じ集団で同時期の感染予防と重症化予防効果を比較した研究は見られない。
先に発表した論考には、オミクロン株の流行期である3月28日から4月3日までの期間に感染予防効果を検討した結果を掲載している。今回、同じ期間における重症化予防効果を検討することで感染予防効果との比較が可能となった。
2回接種後の感染予防効果と重症化予防効果は65歳未満では62%、42%、65歳以上では-140%、-103%と似通った数値であった。一般接種よりも早くワクチン接種が始まった高齢者では、2回目接種からの経過が65歳未満と比較して長いことが予防効果の減弱をもたらした一因と考えられる。
オミクロン株に対する感染予防効果がないわけでなく、最終接種から時間が経過すると効果が薄れることから、ワクチンを2回接種したのにもかかわらず、感染を防ぐことができなかったと考えられる。
重症化予防効果も感染予防効果と同じように、時間の経過とともに、その効果は薄れており、効果が持続するわけでもない。それゆえ、感染予防効果はないが、重症化を予防できるという表現は適切でないと思われる。
思いがけないことに、65歳以上では、2回接種者は未接種者と比較してかえって高い感染率を示し、重症化予防効果はマイナスの数値を示した。ワクチンを接種していない高齢者は外出を避けるなど、種々の要因も考えられ、この結果の解釈には慎重さを要する。なお、3回目ワクチンの接種は、感染予防と重症化予防にともに高い効果を示した。
わが国で3回目接種が始まってからまだ日も浅く、ほとんどの接種者は3ヶ月以内である。英国からの報告では、3回目接種の発症予防効果はワクチン接種後1ヶ月がピークで、その後、減少している。わが国でも、至急に3回目接種の効果の持続期間を検討して公表することが、3回目接種を受けようかどうか迷っている国民にとって最も重要な情報であろう。
また、ワクチン接種証明の有効性は、接種回数ではなく、最終接種日からの経過期間に基づき、検討する必要があると思われる。
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小島 勢二
名古屋大学名誉教授・名古屋小児がん基金理事長。1976年に名古屋大学医学部を卒業、1999年に名古屋大学小児科教授に就任、小児がんや血液難病患者の診療とともに、新規治療法の開発に従事。2016年に名古屋大学を退官し、名古屋小児がん基金を設立。