「資源インフレ」を止めるには原発再稼動が必要だ

池田 信夫

岸田政権の「物価高対策」が発表された。「インフレ対策」とか「円安対策」といわないところがポイントである。3月のコアCPIでも0.8%と、日銀のインフレ目標2%に達していないのに、なぜ物価高対策なのか。

参議院選挙の前にバラマキをやるため、当初は使い残している予備費でやろうとしたが、公明党が「補正」という形を求めたので、6.2兆円の事業規模になった。経済政策としては無意味な補正予算である。

まず「資源インフレ」を止めよ

3月の企業物価上昇率は前年比9.5%。電気代は次の図のようにすでに20%上がっており、この資源インフレが今回の物価高の本質である。その最大の原因は、2021年にエネルギー価格が暴騰したことでもわかるように、脱炭素化で化石燃料への投資が削減され、供給不足に陥ったことである。

日本経済新聞より

そしてウクライナ戦争と経済制裁による原油・天然ガスの欠乏で、ヨーロッパでは40%も電気代が上昇した。日本も後を追うだろう。資源インフレを防ぐには、エネルギー供給を増やし、消費を抑制する必要がある。

ところが今回の補正予算の最大の項目は、石油元売りへの1.5兆円の補助金である。インフレの時代に、財政赤字を増やす政策はありえない。特に化石燃料の価格が上がっているとき、ガソリンの消費を促進する政策は、脱炭素化とも矛盾する。

円安と「輸入インフレ」の悪循環

物価高のもう一つの原因は、円安による輸入インフレである。アメリカの長期金利(10年物国債)2.8%に対して、日本は0.25%未満。日銀が指し値オペをやっているため、日米金利差は縮まらない。アメリカの予想インフレ率は2.8%と高いので、実質金利の差はそれほどないが、日銀が量的緩和をやめないかぎり、円安は止まらない。

財務省(時事通信より)

さらに化石燃料の値上がりで、図のように貿易赤字が拡大し、これが円安要因になっている。

資源インフレ→貿易赤字→円安→輸入インフレ

という悪循環が起こっているのだ。普通は円安になると輸出が増えて貿易赤字が減るが、今回は輸入インフレによる交易損失が大きいので、貿易赤字は今後も増えるだろう。

まず必要なのは、日銀の量的緩和をやめることだ。今月、携帯電話のマイナス1.5%がなくなったら、インフレ2%になることは明らかで、物価を抑制する局面である。指し値オペをやめるとともに、日銀当座預金のマイナス金利をやめ、金利を市場にまかせるべきだ。そうすれば為替レートは、120円台で安定するだろう。

資源インフレは脱炭素化や経済制裁による政治的現象なので、マクロ経済政策では止まらない。もっとも重要なのは供給のボトルネックの解消である。特に「特重」で止まったままの原発再稼動が緊急に必要だ。石炭火力を廃止する行政指導もやめ、火力を温存すべきだ。

重要なのは、安倍政権から続いてきたマクロ経済偏重をやめ、供給重視の経済政策に転換することだ。それはエネルギー政策や規制改革など政治的に困難なものが多いので、選挙前には無理だろうが、衰えた供給力を強化しないかぎり、インフレも円安も止まらない。