憲法審査会で「国家からの自由」と「国家による自由」について考えた

本日、今国会11回目となる憲法審査会が開かれました。国民投票法がテーマです。私からはインターネットにおける国民投票運動における「表現の自由」について問題提起しました。

これまで「表現の自由」は、個々の表現主体に対する国家の介入を排除すること(=国家からの自由)に主眼が置かれてきました。

しかし、巨大なプラットフォーマーと膨大なデータによって、偏った情報が集中的に流れることが当たり前になった今日において、「表現空間」に多様な情報が流通することを国家が確保する必要(=国家による自由)が出てきたと言えます。

国民民主党は今後もAI時代にふさわしい憲法議論を先導していきます。

憲法審査会発言メモ(2022年4月28日)

昨日、提出された国民投票法改正案の内容については、公選法を踏まえた技術的な改正であり、国民民主党としても賛成する。ただ、提出後、自民党の参院幹部は「残りの会期で改正案を仕上げることは参院ではあり得ない」と異論を唱えている。提出するのはいいが、よく党内ですり合わせをしていただきたいし、せっかく円満に進んできた憲法改正に向けた当審査会の運営にマイナスにならないよう注意してもらいたい。

さて、国民投票法改正については、憲法本体の議論と並行して行うべきとの立場であるが、一方で、令和3年改正法の検討条項にあるもう一つの課題として掲げられている「国民投票運動等のための広告放送及びインターネット等を利用する方法による有料広告の制限」「資金に係る規制」「インターネット等の適正な利用の確保を図る方策」についても議論を行い、早期に結論を得るべきである。

特に私たちは、旧国民民主党時代に改正法案を提出しており、そのうち、特に重要な3点について、早期に改正する必要性について述べておきたい。改正案を策定する際に考慮に入れたのが、2016年の米国大統領選挙であり、改めて紹介したい。

2016年の大統領選挙では、二つの疑惑が問題となった。一つは、この審査会で何度も紹介した「ケンブリッジ・アナリティカ事件」である。ビッグデータを活用したマイクロ・ターゲティングによる投票を操作した疑惑である。もう一つは、ロシアが大統領選挙に介入したという疑惑である。Facebook上でロシアが背後にいるとみられる偽アカウントが政治広告を掲載し、世論を誘導しようとした疑惑である。これらの疑惑は、民主主義の根幹を揺るがす事態であり、私たちは、国の最高法規である憲法の国民投票においても、同様のマイクロ・ターゲット広告を活用した投票の操作や、外国勢力からの介入に対抗する適切な対応を取らなくてはならないと考えた。その結果、インターネット広告規制や、国民投票運動に対する外国からの寄付規制を盛り込んだ。

現在の国民投票法にはインターネット広告に対する規制が何ら存在していない。制定当時の議事録を読むと、「誹謗中傷があってもインターネットを使っての逆の情報発信というのも自由にできる」から問題ないといった趣旨の発言もあり、随分のどかな議論が行われている。しかし、現状はフェイクニュースの問題や心理学を利用したマイクロ・ターゲティング広告の発達など、プリミティブなインターネット空間では想像し得なかった課題も出てきている。しかし、我が国においては、インターネット事業者の業界団体の自主規制があるわけでもない。

また、外国人からの寄付についてもなんら法律では規定されておらず、また、先日の民放連のヒアリングを聞いても、「基本、各社が考えることになります」と述べており、各社の判断に委ねられているのが現状である。外国人広告主を排除する明確なルールは法律上もガイドラインにもない。

ケンブリッジ・アナリティカによる投票操作や、ロシアの大統領選挙への介入疑惑を踏まえれば、当時と比べてもより高度化したデジタル社会において、外国勢力がSNS等を活用して、我が国における選挙や、憲法の国民投票の結果に影響を与えることは可能になっていると考える。これは民主主義に対する脅威であり、民主主義はハックされ得る前提で対策を講じるべき時代になってきていると考える。健全な民主主義を守るためには、何らかの法規制が必要だと考える。

なお、EU離脱を決める英国の国民投票においては、EU離脱を支持する組織からフェイクニュースが発信・拡散されたことが投票結果に影響を与えたと指摘されている。特に、離脱派から「EUへの拠出金が週3億5000万ポンドに達する」とのフェイクニュースが拡散され離脱派の勝利につながったとされる。

そこで、当時、国民民主党は以下のようなインターネット規制を盛り込んだ改正案を提案した。

  • まず、TVのスポットCM同様に、政党による有料インターネット広告は禁止し、「国民投票広報協議会」が行うもののみとすること。
  • 1000万円を超える支出を行い、インターネット広告による国民投票運動を行う団体に、届出義務と収支報告の義務を課して透明化を図ることとし、支出の上限を5億円とする資金規制を導入すること。これらの規制金額は、イギリスの国民投票における「認定運動者」に対する規制を参考に、人口(2倍)や運動期間(3倍)の差を勘案して約6倍としている。
  • インターネットを利用して文書図画を頒布する者は、電子メールアドレス等を文書図画に表示しなければならないこと。
  • インターネットを利用して国民投票運動を行う者は、いわゆるフェイクニュースを流すことのないよう適正な利用に努めなくてはならないこと。
  • 国民投票広報協議会は、インターネットの適正利用のためのガイドラインを作成すること。

などを定めることとしている。また、外国人寄付規制に関しては、

  • 特定国民投票運動団体は、外国人、外国法人又はその主たる構成員が外国人若しくは外国法人である団体その他の組織から、寄付を受けてはならないと規定している。

もう一つの論点として提起したいのが、選挙運動期間と国民投票運動の期間が重なることを回避するための措置の導入である。

憲法改正の是非といった政策的な事項を争点とする国民投票と、政権の在り方を争う国政選挙との性質の違いに鑑み、両者の混同が生じないよう、つまり、国民投票が政権に対する信任投票にならないよう、選挙運動期間と国民投票運動の一定の期間が重なることを回避することとしている。

インターネット規制については、国民投票法だけの問題ではなく、より広範な議論が必要であるが、その際、表現の自由に最大限の配慮を行うことは当然のことである。特に、表現の自由は日本国憲法が保障する人権カタログの中でも「優越的地位」を占めており、その制限には慎重でなくてはならない。他方、インターネットを取り巻く環境が大きく変化する中で、インターネット、とりわけSNS上の表現を放置した場合、民主主義が機能不全に陥る可能性があるとすれば、国家がその自由を確保する義務もあると考える。

表現の自由とは、国家の介入を排除するという個々の表現主体の権利だけでなく、「表現空間」に多様な情報が流通することを国家が確保する義務も含まれると考える。「国家からの自由」とともに、巨大なプラットフォーマーと膨大なデータの前に、「国家による自由」の確保も必要になってきているのではないかということを改めて問題提起しておきたい。

最後に、現場を踏まえた適切な規制を議論するためにも、ケンブリッジ・アナリティカ事件に関与したブリタニー・カイザー氏をオンラインでもいいので当審査会に参考人として招致することを求めたい。森会長の取り計らいをよろしくお願いしたい。

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編集部より:この記事は、国民民主党代表、衆議院議員・玉木雄一郎氏(香川2区)の公式ブログ 2022年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。