円安が進行している。それに伴い、日銀に対する批判の声が上がっている。円安がこのまま進めば大変なことになる、日銀はバカなのか!等々の声が高まっている。
しかし、円安はこのまま進んでいくのだろうか?
仮に為替相場が一定だとした場合、インフレ率の高い国の通貨が(少なくとも中長期的には)安くなるはずだ。
米国のインフレ率が10%で日本がゼロだとしよう。トヨタの1000万円の高級車の値段は米国では1年後に1100万円になる。それに比べ、日本では1000万円のままだ。
トヨタは米国にどんどん輸入すれば大儲けができる。永遠に大儲けができれば結構なことだが、それは為替相場が一定であるという仮定の下だ。実際にはドル安になって大儲けはできなくなる。
また、金利の高い国の通貨も(少なくとも中長期的には)安くなる。ドル預金に10%の利息が付くのに円預金がゼロ預金なら、誰もが円を売ってドル預金にするはずだ。
ここで忘れてはならないのは、取引が成立するためには「買い手」が必要だということだ。円を売る人がいればそれと同じ数だけ円を買う人が必要だ。金利の高いドルを買う人がいれば金利ゼロの円を買う人がいる。
では、金利ゼロの円を買う人はバカなのだろうか?
経済学の大前提は「市場参加者は合理的に行動する」ということなので、バカは除外される。金利ゼロの円を買う人は為替市場で円高になることを期待して円を買っているのだ。その期待が合理的であれば、いずれ為替市場は円高に振れる。
以上のように、インフレ率が高く金利の高い米国のドルは(少なくとも中長期的には)安くなるというのが合理的な結論だ。
もちろん、理屈通りに行かないのが為替の世界だし、為替相場に影響を与える他の要因は他にもたくさんある。経済力や国力という数値化できていない漠然とした概念が用いられることもある。
そのあたりを斟酌しても、円安を放置している日銀を完全におバカさん扱いをするのはいかがなものだろう。
日銀は日銀なりに上記基本原則に則って行動しているだろうし、その他の要因も斟酌しているはずだ。素人筋にバカ呼ばわりされるほど、日銀はバカではないと信じている。
編集部より:この記事は弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2022年5月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。