ビジネスがわかっていない首相の「Invest in Kishida(岸田に投資を)」

ゴールデンウィーク中のニュースのヘッドラインは知床、道志村の骨、ウクライナ問題の3つで見事に引っ張りました。これしかニュースが出てこない日本はやはり平和なのかもしれません。特に道志村の骨の一件は傍から見れば数多い行方不明事件の一つなのにこれだけ異様にフォーカスされるのはSNS効果をベースにメディアが着目度として捉えるからでしょう。報道のバランスということがもう一度問われるのではないでしょうか?

では今週のつぶやきをお送りします。

思った以上に軟弱地盤のアメリカ株式市場

アメリカ株に投資している人たちの心理状態はセンチメンタル、だけどファンダメンタルズは実はもっと悪い、これが今の実態だと思います。ナスダック好みの個人投資家の過半は損失を抱え、身動きが取れない状態になっていると思います。また、海外からの参戦者は惨敗、撤退の展開かもしれません。カナダ最大のIT企業であるショッピィファイの株価は昨年秋、2000㌦を超えていましたが、私が当時査定した妥当株価は200㌦ぐらいと考えていました。今、同社の株価は500㌦を割ったところです。アマゾンとグーグルは2000㌦割れをずっと以前から予想しています。アマゾンの本業をファンダメンタルズで考えると今の株価は成立しないはずです。

なぜそう考えるか、と言えば雇用状態が悪すぎるのです。本日の雇用統計は数の上では42万人増と事前予想の38万人を上回り、好調に見えます。ところがアメリカ労働省が木曜日に発表した22年第1四半期労働生産性では一人当たりの生産性が75年ぶりとなる7.5%低下となりました。つまり企業は賃金を上げ続けているのに採用する労働者の出来が悪い、という構図です。これは私が以前から警鐘していた労働の質の悪化でアメリカは失業率をこれ以上改善してはいけないのです。企業業績は売上増、利益減の悪化の一途を辿ることになります。これが一番影響が出やすいのがハイテク株ということになります。

私が投資する民間刑務所運営会社は1-3月決算の発表を受けて株価が1日で2割下げました。理由は民間刑務官になる人材がおらず、採用に苦戦したから、とあります。このような状態の会社が沢山あり、企業業績がもう少し悪化し、株価があと2-3割下がらないと企業は慌てないかもしれません。それは次の決算である4-6月の数字が出る7月末頃かもしれません。その間、金利はたぶん更に1%程度上昇しているでしょうからその時になってFEDも企業もハタと気がつくことになるでしょう。今しばらく軟弱地盤の展開を見込まなくてはいません。

Invest in Kishida(岸田に投資を)

一言、いやです。そもそもポリシーがないし、この首相はビジネスがわかっていません。首相就任当初、所得倍増計画を出したのは給与所得者などへのフロー対策。つまりフローの経済です。ところが今回、ロンドンのシティで投資家向けに発表したのは「わが国個人の金融資産は2000兆円といわれているが、その半分以上が預金・現金で保有されている」(日経)のでこれを投資に、ということです。つまりこれはアセットの経済です。アセットが増えて喜ぶのは投資余力がある富裕者層とリタイア層。フローが増えて喜ぶのは貯金が少ない勤労者層。いったい、どっちに向いているのでしょうか?

ジョンソン英首相と岸田首相 首相官邸HPより

では日本(企業)に投資を、と言ってもめぼしい会社がないのです。80年代にバブルになった頃は単に株価がふわついていただけではなく、様々な企業からでっかい夢物語が聞こえてきていたのです。今、メディアを通じた企業情報はIR的な決算絡みの発表は多くありますが、面白い会社、伸びる会社、夢のある会社の話などなかなかありません。日経新聞のトップを「企業のすごい話」で飾ったのは最後、いつだったか思い出せません。

だとすれば富裕層、個人投資家層に「投資を」と言えば海外にマネーが流出するのが関の山になってしまうのです。日本企業はひたすらため込み、配当もケチです。日本人は本質的にコンサバティブなので「いざというときのために必要な資金を手元に」という発想ですが、北米は「儲かったから株主には特別配当しますね」が多いのです。その点ではまだ「Buy My Abenomics」の方がまだ説得力があったと思います。

韓国大統領就任式を巡る外国からの来賓

10日に予定されている韓国の尹錫悦新大統領の就任式に対し、日本からは林外務大臣が出席する予定になっています。アメリカは「セカンド ジェントルマン」と称されるハリス副大統領のご主人のエムホフ氏が出席します。弁護士のエムホフ氏は昨年茂木さんとも会議で一緒になっていて「主夫」ではありません。それでもなんだか変な感じがしますが、これはバイデン大統領が5月20日に韓国入りし、尹新大統領と話をするのでプロトコル的に整えたような形となっています。一方、中国は当初、李克強首相の名前が取りざたされていましたが、最終的に王岐山国家副主席が出席することになりました。それでもかなりハイランクの人材を送ったのは尹氏が比較的中国に距離感を置こうと考えているのに対してまずは礼節をもって当たってみるということかと思います。

4月末の韓国からの外交団に対して岸田首相が面談したことには賛否両論があったと内部事情に詳しい方から伺っています。うるさ型は自民党外交部会でその部会長はロシアから入国禁止となった佐藤正久氏。氏の背景は元自衛官、外務副大臣であだ名は「ヒゲの隊長」。私は岸田首相は会うだろうな、と読んでいたのですが、内通される方は知り過ぎていて疑心暗鬼だったようです。岸田さんはひょっとしたら韓国に行く気もあるのでは、とも思ったのですが、さすがそこまでは反対を押し切れなかったということかと思います。向かい風がなければ首相は行ったと思います。

日本として気に留めることはなぜ、バイデン氏が就任早々の尹大統領にわざわざ会いに行くのか、です。もちろん、日本でのクワッドがあることにひっかけていくわけですが、就任して一番先に会うのがアメリカ大統領というのは極めて重い意味があります。それともう一点、韓国国内の世論調査で支持政党が保守系の「国民の力」が50%に対し、文政権の「ともに民主党」は36%まで急落しています。つまり、韓国内のオセロゲームがとっくに始まっていることは温度変化として感じ取る必要はありそうです。それにしても就任式になぜ、あの鳩山さんまで行くのか、これだけはさっぱりわかりません。

後記
CBC、カナダ放送協会の記事に時給20㌦以下の人は2018年には38%だったのが現在は26%にまで減少しているとあります。カナダドルと円は為替が100円なので時給2000円以下の人は1/4に留まっているという意味です。一方、カナダのガソリン価格は史上最高値をつけ、北米一高いバンクーバーではレギュラーが217円程度です。日本が170円程度。原油産出国のカナダが日本より47円も高く、日本はそれでも政府がガソリン価格を押さえようとしているのは物価という考え方からは何か不思議な気もします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月7日の記事より転載させていただきました。