おじさんたちはバブル後の社畜組

日本の労働市場の硬直性を指摘する報道は大変多く、働き方改革は雇う方、雇われる方双方が変化の着地点を求めて模索する状況にあるようです。

産経に「独り負けニッポン 打開の鍵は労働市場の流動化」という記事があります。指摘しているのは労働生産性の低さと寄稿者の都立大宮本教授が述べています。その生産性の低さはゾンビ企業と雇用の硬直性が原因としています。この辺りはこのブログでも過去に何度も取り上げている話題です。

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読んでいてふと思ったのが「なぜ、非正規雇用は嫌がられるのか?」です。非正規は社会悪だぐらいのトーンがありますが、少しひねると非正規は雇用者、被雇用者にとってメリットがある形になるのではないかと思うのです。Youはなぜ非正規に、と言えば社員としての働き口が見つからないから、だと思います。ではYouはなぜ、社員になりたいのか、と聞けば安定しているから、と答えるでしょう。

海外では社員として拘束されることを嫌い、3つぐらいの仕事をかけ持つ人も散見されます。働き方の応用編なのだと思います。これは社畜にされたくないという意識が強いからですが、日本の社員願望は社畜願望にも聞こえます。

一方、苦労して入社した一流企業を5年前後で辞める人は後を絶ちません。「ストレスが酷い」「自分のやりたいことではなかった」…といった理由が並び、「非社畜願望」のように聞こえます。つまり矛盾があるのです。

非正規、正規の共通する要望は「コミットメントは少なく、給与は高く」だろうと察します。この辺りがこの産経の記事で言う労働生産性の低さを物語る一因になっているのでしょう。

先日、ある役人と話をしていて入省10年目ぐらいの人がどんどん辞めるとのこと。勤続10年といえば一番使える年齢になりかけるわけですが、その人たちが役所辞めてどこに行くのでしょう、と聞けばコンサルタントかなぁ、と。えっ、30歳そこそこでコンサル、それはないでしょう?だけどコンサルを志願する理由を敢えて考えれば組織のしがらみから解放されたい、ではないかと思います。

ある物流会社。一番働くのは部長さん。朝は誰よりも早く出社し、夜は終電近くまで頑張ります。なぜ、と聞けば「若い人は、あれでしょ、労働時間の問題とか、ストレスとかあるじゃないですか?我々おじさんになるとデートもないし、仕事が生活の一部なので」と。

たぶん、多くの会社で起きていることは若い社員には残業時間を抑えさせ、人事部から管理上よくできたと褒められる上司の面目を保つことではないかと思います。その一方で山積する業務を夜遅くまで管理職がコツコツこなすシーンではないでしょうか?これでは労働生産性が上がるわけがありません。

これだけやっても効果が上がらないのは労働生産性だけではありません。日経には「『働きがい改革』道半ば 『仕事に熱意』6割弱どまり 海外と差埋まらず」とあります。これも昔から言われている日本人の仕事に対する熱意が他国に対して格段に低い点で、本ブログでも過去何度か取り上げています。

私が大学生の頃、「アメリカ人はなぜ働かないのか?」というテーマの議論をした記憶があります。今、数字の上ではアメリカ人は日本人より働きます。OECDの統計では年間労働時間はアメリカが1790時間、日本が1745時間です。ただ、私は大学生の時の議論のテーマは間違っていたのだと思っています。年間労働時間が2100時間台だった当時の日本に於いて「日本人はなぜ、そんなに働くのか?」が正しいテーマであり、40年たった今、「日本人はなぜ、そんなに働かなくても済むようになったのか?」ではないでしょうか?アメリカの労働時間はさほど変わっていないのです。

日本の労働市場は「おじさん牽引型」になっています。このおじさんたちは50歳代になれば給与は下がり、役職は剥奪されていきます。それでも一番一生懸命働くのは「ほかに誰もやらないから」。考えてみれば小説のタイトル風に言えば「おじさんたちはバブル後の社畜組」ではないでしょうか?

何か、歯車全体がずれている、そんな労働社会のギアチェンジはできるのでしょうか?他人事ながら心配でなりません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月9日の記事より転載させていただきました。