検事には護衛がついていなかった!
殺害されたパラグアイの検事マルセロ・ペッチ氏(45)は4月30日に挙式を挙げてコロンビアのリゾート地で新婚旅行中だった。妻でジャーナリストのクラウディア・アギレラ氏はペッチ氏が撃たれる2時間前に妊娠していることをインスタグラムで明らかにしたばかりであった。
今回の事件の問題は、パラグアイで犯罪組織と闘っていた検事に護衛がついていなかったというのは大きなミスであった。というのも、コロンビアの警察総督ホルヘ・ルイス・バルガス将軍によると、ペッチ氏が滞在しているということは知らされていなかったというのである。
また、アギレラ夫人によると、ペッチ検事はこれまで脅迫されたことがなかったということで護衛の必要性を要請していなかったようだ。
南米パラグアイがコカインの密輸出荷国になりつつある
南米のパラグアイという国はこれまであまり話題に上らない国。ところが、パラグアイは大麻の生産国で、しかも最近はコロンビア、ボリビア、ペルーで生産されているコカインをパラグアイからヨーロッパなどに向けて密輸するルートが顕著になっている。
パラグアイは海に面していない国ではあるが、パラナ水路を利用してアルゼンチンのブエノスアイレス港やウルグアイのモンテビデオ港から密輸するのである。
しかも、パラグアイの犯罪組織は70年あまり政権を担っているコロラド党と癒着しているということで、裁判官や検察官の多くが腐敗している。そのような中で、ペッチ検事は正直な人物として評価されていた。
殺害されるまでの検事の足取り
彼ら夫妻はコロンビアのカルタヘナ・デ・インディアからボートで45分のリゾート地バルーに5月4日から新婚旅行で滞在していた。
ペッチ検事が殺害されたのは5月10日午前10時半頃で、ジェットスキーに乗った2人が彼ら夫妻がいたビーチに近づき、そのひとりが下船して彼らに近づいて発砲したもの。夫人と宿泊していたデカメロンホテルの警備員は軽傷しただけであったが、ペッチ検事は顔と背中に2発の銃弾を受け即死。
パラグアイの警察庁は早速現地に5人のハイレベルの捜査官を派遣した。
また犯人の逮捕につながる情報を提供した人にはおよそ12万ドルに相当する懸賞金が与えられることになっている。(5月11日付「エル・パイス」から引用)。
コカインの密売と資金洗浄の摘発に取り組んでいた
5月10日付の現地紙「エル・エスペクタドール」が指摘しているように、同検事が殺害された要因は特に「ア・ウルトゥランサ・ピー(A Ultranza Py)」と呼ばれている麻薬組織の取り締まり作戦が関係していると見られている。(5月11日付け「EL ESPECTADOR」から引用)
ペッチ検事と彼のチームがこの麻薬組織の調査に乗り出したのは27カ月前のこと。コカインの密輸と資金洗浄の調査解明であった。ア・ウルトゥランサ・ピー作戦はこれまでパラグアイで最大規模の捜査に発展していた。100か所に警察が介入して1億ドルがこれまでに押収された。また、ベルギーのアントワープとオランダのロッテルダムでこの麻薬組織が密輸したとされているコカイン21トンが見つかっている。(5月10日付「インフォバエ」から引用)。
これまでの捜査で差し押さえたコロンビア産のコカインはこの2年間で2億5000万ドル相当するもので、それをパラグアイからヨーロッパに密輸しようとしたもの。(5月10日付「ラ・ナシオン」から引用)。
パラグアイでもコカインの密売一家が存在している
ア・ウルトゥランサ・ピー作戦の捜査で明らかになったのは、麻薬の密売組織を仕切っていたのはインスフラン一家で、そのリーダーはミゲアンヘル・インスフラン氏。通称ティオ・リコ。弟はホセ・インフラン氏で牧師を務め教会にも頻繁に通っている人物だった。彼が建てた教会が絢爛豪華で話題になっていた。勿論、その建設費は麻薬の密売で儲けた資金から出たというのは明らかであった。
またこの弟を訪ねていた人達は同じく牧師と称してはいたが自らのジェット機で訪問していたということで宗教に関係した人物たちではないというのは一目瞭然であった。(同上「ラ・ナシオン」)。
この兄弟が逮捕された時にティオ・リコの料理を担当しているファティマ・レハラ氏が殺害された。理由は彼女が警察にこの兄弟二人の所在を通報したということらしい。レハラ氏が殺害された12日後には彼女を殺害したとされている暗殺者(暗殺者はシカリオと呼ばれている)のウイルソン・アダン・ペレイラ氏がペッチ検事の指令で逮捕されるという経緯もあった。(同上ラ・ナシオン)
ペッチ検事には敵が多すぎた
ペッチ検事は麻薬と資金洗浄の取り締まりに取り組んでいたこと以外にアマンバイ州知事の娘が殺害されたことの取り調べや音楽フェスティバルで襲撃事件の捜査も担当していた。また政治家の中には彼の捜査で汚職が判明し逮捕された者もいる。ということでペッチ検事の捜査を邪魔しようとする敵が多くいたということである。
にも拘わらず、これまで脅迫されたことがないということで隣国での新婚旅行で護衛の必要性を感じなかったようである。