電子証明の更新手続きで来庁を要求
「マイナンバーカードに書き込まれた電子証明書の有効期限(5年)が切れたので、役場の窓口に来て、更新の手続きをして下さい」という書類が郵送されてきました。読めば読むほど腹が立ってきて、デジタル時代だというのに、役所の窓口業務に色濃く残るアナログ対応に怒りを覚えました。
「マイナンバーカードを普及させる」、「デジタル庁を設置する」と政府の掛け声は大きくても、市役所などの窓口業務の刷新は時代のテンポにあっていません。デジタル庁と対峙する”アナログ庁”を刷新すべきです。
ロシアの侵略に耐えているウクライナの戦いぶりをみると、デジタル技術を駆使した戦闘、情報戦に長けていることが分かります。ウクライナの電子戦略は31歳の副首相兼デジタル相が率いるチームの担当です。戦争もそうでもしないと勝てない。そんな時代になったのだとの思いを深くします。
日本もデジタル庁を新設し、初代のデジタル監に石倉洋子・一橋大名誉教授(73)が昨年、就任しました。デジタルに通じているのか心配していましたら、8か月で退任し、デジタルのプロである45歳の浅沼尚氏(東芝)に交代しました。政府の問題意識の甘さが浮き彫りになりました。
そんな折に、総務省・地方公共団体情報システム機構からの連絡です。「この書類とマイナカードを持参し、役所の担当窓口で署名用電子証明書、利用者証明用電子証明書、住民基本台帳用の暗証番号3種類を書き込んでほしい」と。「なぜわざわざ役所に出向く必要があるのか」と釈然としない。
役所までバスに乗っても2、30分はかかります。確定申告の際に既にこの暗証番号を使っています。パソコンかスマホで再確認すれば、片付く話です。デジタル処理のために、足で役所に行かないと情報処理ができない。そんな馬鹿な、です。
駅中のビルに役所の出張所があるのを思い出し、そこへ行き、「ここで手続きしたい」と申し出ると、「ここではできない。そのための端末を置いていないし、担当者もいません」。「端末なんか簡単に設置できるはず。専門の担当者もいらないはずだ」と、押し問答をしました。
あきれて、上記のシステム機構の「お問い合わせ先」(コールセンター)に電話をして事情を聞きました。「セキュリティー上の必要があるためです。サイバー攻撃も巧妙になってきましたから」と。本人かどうかの確認を兼ねて、暗証番号の再設定をさせるというのでしょうか。
銀行のキャッシュカードなどは、支店などの窓口で一度、本人確認を兼ねた手続きをすると、それで終わる。暗証番号の変更も端末上で簡単にデジタル処理ができる。クレジットカードなどは、パソコン上だけでシステム処理が完結する。
なんで役所のシステムなると、アナログ手続きが入り込んでくるのか。悪用されても、事後的なチェックを可能にしておき、トラブルがあれば後で修正すればいいはずです。民間でどこでもやっていることです。
本体のマイナカードの有効期限は10年で、この時も新しい顔写真(実物)を添えて、窓口に出向き、手続きをする規定になっています。公金の振り込み、健康保険証や運転免許証との兼用(将来)もありますから、本人確認が直接、必要だと考えているのでしょう。
先ほどのコールセンターの担当者に「顔写真などは運転免許証と共有できるようにしておけばいいのではないか」と、ただしました。「いや、写真のサイズが違うのです」と。これにはあきれました。
パソコンでもスマホでも、映像のサイズは自在に拡大、縮小できる。印画紙に焼き付けた写真のことしか念頭にない。マイナカードはデジタル処理しますから、顔写真の現物なんかいらない。デジタル化を叫びながら、頭の片方はアナログ式になっている。
ネットで検索をしましたら、経済学者でデジタルに強い野口悠紀雄氏が1年半ほど前に、マイナカード関連は「オンライン化できないか。窓口に行かないための手段を獲得するために、窓口まで来庁してくれとは。写真もスマホで撮影したものを使えばいい」と、指摘していました。
マイナカード普及率は42%(22年3月)まで上がってきました。その一方で、「更新時期に来たら役所の窓口に来て、暗証番号を再設定せよ、新しい顔写真を撮って持参せよ」では、更新手続きのたびにカードの保有者、使用者が目減りしていくような気がしてなりません。
万が一、ウクライナ戦争後に極東有事があり、敵がデジタル戦略を仕掛けてきた時、日本の公的部門にアナログ対応が色濃く残っているようでは、どうなるのだろうかと心配になりました。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年5月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。