2022年5月28日の記事の再掲です。
2022年3月22日に東日本が大停電の一歩手前になった原因について、内閣府の再エネタスクフォース(大林ミカ、川本明、高橋洋、八田達夫 )は「冬の最大需要は53.8GWだったので、今回の(最大需要)48.4GWを満たす供給力は存在していたから、原発再稼動や火力の増設は必要ない」という。足りていたのなら、なぜ電力は逼迫したのか。
冬の最大需要は最大供給を上回った
再エネTFは地震の影響や寒波など「計画外の事象」が起こったからだというが、そういうリスクを見込んだ上で停電しないように予備率を3%に設定している。今年の冬に需要が最大だった1月6日~7日にかけては、図のように最大需要が供給の想定を上回った(5374万kW=53.7GW)。
それでも大停電が起こらなかったのは、東電の戸田直樹氏が指摘するように、政府が節電要請を出し、揚水発電をフル稼働し、デマンドレスポンス(DR)を動員して、連系線の利用や供給電圧の低め調整という危険な対策まで動員したためだ。
3月22日は真冬のピークが終わった後だったので、火力が定期的な補修に入り、供給力が足りなかったところに地震と寒波が襲った。それが予備率の3%を割り込んだため、電力逼迫警報が出たのだ。だが再エネTFは、年間最大の供給力を分母にして「発電設備は足りている」という。真冬のピークと同じフル稼働を1年中続けたら、いつ補修するのか。
いまだに止まっている柏崎刈羽原発6・7号機の出力は、合計2.7GW。予備率にして5%ぐらいあるので、地震と寒波という二つの特異現象が重なっても余裕があった。
ところが再エネTFは「原発は頼りにならないので再稼動の必要はない」という。「柏崎刈羽原発は10年以上動いておらず、安全規制の下で急に動かしたくても動かせない」というが、そういう状況を作り出したのは、再エネTFのような反原発派の反対運動である。
彼らはDRなどの「需要側の対応」だけで危機は乗り切れるから、火力も増設する必要はないというが、上の図でもわかるように、DRはたかだか0.5GWで、電力の逼迫を解決できない。八田達夫氏のような大御所まで、こんな暴論を繰り返すのはなぜか。
送電線に「ただ乗り」するために原発再稼動を阻止する
それは原発が動くと、新電力の「ただ乗り」している送電線が使えなくなるからだ。送電線の所有権は電力会社にあるが、今は長期にわたって休止している原発の送電線の一部を新電力が使っている。だが原発が再稼動すると、新電力が自前の送電線を設置しないといけない。それを阻止するために、再稼動を妨害しているのだ。
原発が動いていれば電力危機が避けられたことは自明だが、電力自由化が危機の原因になったことは余り知られていない。次の図は資源エネルギー庁のエネルギー基本計画の予想だが、現在は年間の最大需要54GWをはるかに上回る出力がある火力を脱炭素化のために削減し、2050年には全国で合計46GWにする予定である。これは東電管内の夏の最大電力需要57GWにも足りない。
電力自由化は、電力会社の設備投資を効率化して電気料金を下げるために発電と送電を分離し、競争させる改革である。八田氏が20年ぐらい前にそれを提唱したときは意味があったが、3・11のあと原発がすべて停止され、再エネに世界最高価格のFIT買い取り価格が設定された状況で、無知な民主党政権を利用して火事場泥棒的に自由化が強行された。
これは経産省にとっては、頭の上がらなかった東電を子会社にして電力業界を支配する絶好のチャンスであり、反原発・再エネ派にとっても大勝利だった。発送電分離のもとでは、発電会社は供給責任を負わない。
燃料費のかからない再エネ業者は安い限界費用で卸電力市場(JEPX)に卸し、固定費を負担しない新電力はそれを仕入れて高い小売値で売って大もうけした。火力は再エネの動かない夜間などにはもうかるはずだったが、エネ庁は電力会社にも限界費用でJEPXに卸すように指導したので、火力は大赤字になった。
火力は再エネの買取で稼働率が落ち、安値入札で赤字になった。おまけにエネ庁は脱炭素化のために石炭火力を2030年までに100基廃止しろという行政指導をしたため、石炭火力が廃止された。電力自由化と原発なき脱炭素化が、今回の電力危機の原因である。
脱炭素化より電力の安定供給が最優先だ
ところがそこにヨーロッパ発の電力危機が起こり、ウクライナ戦争で天然ガスの価格が激増した。電気代は資源インフレの主役である。東電の電気代は、昨年に比べて25%増だ。卸電力価格も上がり、新電力がたくさんつぶれたのは自業自得だ。それが電力自由化である。
発電所の設備は余っているが、競争で価格が下がったため、固定費が回収できなくなって廃止される。その結果、安定供給の固定費を負担する業者がなくなり、最大のバッファだった原発を止めているため停電が起こる。それを避けるために古い原発を温存する容量市場にや再エネ業者にバックアップのコストを負担させる発電側課金も、再エネ議連が反対して実現できない。
このようなエネルギー安定供給にとって、再エネは何の役にも立たない。メガソーラーがいくらあっても、予備率は上がらないのだ。いま最優先の目的は、100年後の地球の気温を心配することではなく、今年の夏に停電を起こさないことだ。そのためにやるべきことは次の二つである:
- 脱炭素化を一時停止し、石炭火力を延命する:そのコストは容量市場や発電側課金で、再エネ業者に負担させる。
- 原発を安全審査と切り離して再稼動する:島根2号機と美浜3号機は秋までに運転できる見通しだが、柏崎刈羽6・7号機と高浜1・2号機も再稼動すべきだ。
エネルギー供給を無視して、再エネ議連に迎合する無責任なエネルギー政策と、テロ対策(特重)を理由に原発の運転を止めている原子力規制委員会が、電力危機を作り出している。まず脱炭素化モラトリアムで休止している火力発電所を動かし、原発を動かして本来の供給力を回復させれば、電力危機は乗り越えられる。今はエネルギー政策の優先順位を変更するときである。