ハンガリーに新しい風が吹くか

ハンガリーで初の女性大統領、それも44歳と若いカタリン・ノヴァク新大統領(Katalin Novak)の就任式が今月14日、ブタペストの議会広場前で行われた。16日にはフランスで30年ぶりに歴代2人目の女性首相にエリザベット・ボルヌ氏が任命されたというニュースが流れた。

北大西洋条約機構(NATO)加盟問題を主導したフィンランドのサンナ・マリン首相やスウェーデンのマグダレナ・アンデション首相を含め、欧州政界はいよいよ本格的な女性指導者時代を迎えてきた、という感じだ。

大統領就任演説をするカタリン・ノヴァク新大統領(ハンガリー大統領府公式サイトから、2022年5月14日)

最年少で初の女性大統領の誕生

マクロン大統領の1期目に環境相や労働相を歴任したボルヌ氏の首相ポストは政権運営の舵取りの立場だが、ハンガリーの大統領は国防軍の最高司令官であり、大臣や大使の任命権を持つが、実質的な権限は限られている。ただ、最年少で初の女性大統領の誕生は、2010年から政権に君臨するオルバン政権では稀となった“新鮮さ”を提供し、国内外で大きな話題を呼んでいる。

ハンガリーでは大統領は議会で選出される。ハンガリー議会は3月10日、10年間の任期を満了したヤーノシュ・アーデル大統領の後任に与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」のノヴァク議員を新大統領に選出した。

大統領選出には議会の3分の2の支持が必要だが、与党フィデスは3分の2の議席を有しているから、当選は確実視されていた。ノヴァク氏は選出直後の演説で、「女性であることに感謝し、良きハンガリー大統領になりたい」と抱負を語っている。任期は5年、再選は1度だけ可能だ。

ノヴァク大統領は法律と経済の学位を有し、3人の子供の母親だ。オルバン政権下では家族政策担当相を務めてきた。女性の役割、家庭の重要性を主張する一方、女性の職場と家庭の両立を目指す。彼女は敬虔なカルヴァン主義者として知られている。ヴィクトル・オルバン首相の最も近い顧問の1人だ。

対外政策では親ロ、親中路線を走るオルバン首相

オルバン首相が率いる与党フィデスは4月3日の総選挙で3分の2の議席を維持し、同政権は4期目に入ったばかりだ。オルバン首相は国内のメディアを完全に掌握し、対外政策では親ロ、親中路線を走る一方、欧州連合(EU)とは対立を繰り返し、EUの異端児と呼ばれている。

ちなみに、中国の習近平国家主席は5月10日、新大統領に異例の長い祝電を送り、「私は中国・ハンガリー関係の発展を非常に重視しており、ノヴァク大統領と共に努力して、両国間の政治的相互信頼と伝統的友好を深め、二国間及び『一帯一路』(the Beltand Road)共同建設、中国・中東欧諸国協力などの枠組で協力を強化し、両国の包括的な戦略的パートナーシップを新たな段階へ押し上げ、両国及び両国民に幸福をもたらすことを望んでいる」と述べている(新華社)。

EUはオルバン政権の「司法の独立」、「言論の自由」などEUの法の支配メカニズム違反を批判し、欧州司法裁判所(CJEU)は2月16日、「加盟国に対するEU予算の執行の一時停止を可能とする条約設定規則を適法」と判断、EUがハンガリーへの補助金支給停止などの制裁の道が開いたばかりだ。

それだけではない。オルバン首相の親ロシア路線はよく知られ、2月1日にはモスクワでプーチン大統領と会談している。ウクライナ危機が始まって以来、EU加盟国首脳がモスクワを訪問し、プーチン氏と対面会談したのはオルバン首相が当時初めてだった。EUがロシア制裁第6弾としてロシア産原油禁輸を提示した時、オルバン首相は即、「絶対に受け入れない」と拒否権の行使を示唆するなど、EUとハンガリーの関係は益々険悪化している。

新大統領に期待されること

そのような時期、ブダペストの国会議事堂前のコシュート広場で今月14日、新大統領の就任式が行われたが、それに先立ち、さまざまな教会の高位聖職者が参加したエキュメニカル礼拝が行われた。同礼拝には、アーデル前大統領、オルバン首相、クヴェール・ラースロー議会議長らも出席した。新大統領は「キリスト教に基づく価値体系」の重要さを強調し、「相互連帯し、弱者を助けあう社会を築きたい」と述べる一方、プーチン大統領のウクライナ戦争に対しては「如何なる点でも正当化できない」と厳しく批判している。

いずれにしても、新大統領はフランス語、英語、ドイツ語も流暢にこなす国際派だ。ノヴァク新大統領にはハンガリー・ファーストの“オルバン主義”から脱し、新しいハンガリーのメッセージを発信してほしい。ハンガリーに新しい風が吹くことを期待する。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年5月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。