政治家の基礎力(情熱・見識・責任感)⑤:少子化と社会保障

金子 勇

Andrey Zhuravlev/iStock

ミクロな行為がマクロな結果を生み出す

個々の人間は男女のミクロな行為から生み出されるが、その集積としての総人口は全体社会システムを左右する。ミクロな行為とマクロな結果の連関は、古今東西の全ての社会を考える際には常に考慮しておきたい。

日本でも個々の若い世代が日本の将来に期待して、個人生活の行く末を見通せるならば、1960年代の高度成長期に象徴されるように、婚姻率は高まり、出生率も上がり、出生数も増加する。「北風と太陽の比喩」でいえば、若者に将来設計ができる社会の側の「暖かさ」こそ、少子化克服の唯一の「資源」になる注1)

(前回:政治家の基礎力(情熱・見識・責任感)④:人口史観

少子化の危機的実態

表1は総務省が2022年4月1日現在で推計した数値であり、年少人口の比率が11.7%まで下がり、48年連続の減少を記録した。また年少人口の実数でも前年よりも 25万人も少ない1465万人まで落ち込み、こちらも41年連続の減少だったことになる。その反面の高齢化率は28.9%で、実数は3600万人を超えた。

表1 年少人口の総数と比率
出典:2022年5月4日 総務省報道資料、総務省統計局ホームページ(5月15日閲覧)

かつて少子化の代表的な指標は合計特殊出生率であったが、最近ではこれに加えて年少人口数と比率が指標として活用され、3指標を同時に点検しないと少子化傾向を正確には把握できなくなった。3指標のうち合計特殊出生率はこの数年1.30~1.40に止まっているが、年少人口数と比率では毎年史上空前の危機的記録が続いてきた。

幼くなるほど出生数が減少

最も大きな危機は、表1のように幼くなるほど出生数が減少してきた点にある。12~14歳が323万人、9~11歳が313万人、6~8歳が301万人、3~5歳が278万人、0~2歳が250万人というデータが示すように、日本社会の世代継続性が途切れる方向に作用している傾向を見て、政治家やマスコミそれに国民全体は何を感じるか。

しかも、連載第4回(5月15日)で紹介した世界総人口数11位の日本の年少人口率11.7%は、比較対象とされる人口4000万人以上の世界の35カ国のうち最下位なのである。調査年度が若干異なるが、韓国(11.9% 21年7月調査)、イタリア(12.9% 21年1月)、ドイツ(13.8% 20年12月)よりも低い実態にあり、日独伊の3国の人口動態は近似している注2)

こども家庭庁への期待

その意味で、2023年4月に誕生する「こども家庭庁」には未曽有の年少人口数と比率への率先した対応を期待する。岸田首相の発言、「常に子どもの最善の利益を第一に考え、子どもに関する政策が我が国・社会の真ん中に据えられる社会を実現させる」組織作りをお願いしたい。社会学を通して30年間少子化研究を行ってきた経験から、「こども家庭庁」への要望は以下の5点になる。

(1)少子化対策ではなく、「次世代育成」を基本にする注3)
(2)子どものいる家庭はもとより、いない家庭も「次世代育成」に関与してもらう。
(3)家庭こそが子どもを社会化して、社会的存在に育てるための知識、規範、価値を教える機能をもつから、次世代の「社会化」政策を中心にする。
(4)主政策「ワーク・ライフ・バランス」に地域社会を加えて、「ワーク・ライフ・コミュニティ・バランス」として再度体系化する。
(5)経済的支援では、該当者を絞りながら大学生と大学院生を念頭にした高等教育費支援を重点化する。

「次世代」や「次次世代」が夢を持って暮せるように、「こども家庭庁」の新規業務は(1)を可能なかぎり具体化することに尽きる。そのためには、子育て家庭だけの「次世代育成」「次次世代育成」に加えて、子育てしていない家庭もどのようにしてどこまで関与できるかの議論が不可欠になる。なぜなら、「次世代育成」は社会全員が関連する未来社会の設計そのものだからである。その手段として(4)(5)を位置づけたい。

家族は社会の人的素材を生産し社会化する制度

「こども家庭庁」の立脚点は、「家族は基本的に、社会の人的素材を生産し社会化する制度であり集団」(鈴木監修、2001:ⅱ)という認識に求めたい。これはウェルベック『服従』にふれたシュトレークが抜き出した「社会化を伴わない個人主義が広まることで解体していく個人と集団のさまざまな在り方」(シュトレーク、2016=2017:27)への対処の基本にもなる。

「社会化を伴わない個人主義の広まり」こそが、社会全体での協力文化すなわち共助や互助の文化(altruism)を弱め、「自己中心主義」(egoism)を浸透させた大きな原因である。

通常、家族が持つ機能は「性と生殖」、「こどもの社会化と教育」、「生産・消費の共同」、「老幼病弱の保護」、「宗教の単位」、「娯楽休養」、「社会的権利と義務の主体」に分けられる(金子、1995:65)。このうち個人主義化によって、「老幼病弱の保護」、「宗教の単位」、「娯楽休養」の機能はほぼ外注化され、小家族化とともに家族機能自体が衰えてきた。

しかし、「性と生殖」、「こどもの社会化と教育」、「生産・消費の共同」、「社会的権利と義務の主体」はまだ残っているから、「こども家庭庁」としてはこれらの機能維持に目配りしてほしい注4)

そのためには、政府が過去30年にわたり継続してきた結婚支援、妊娠出産支援、保育サービスの充実、地域の子育て支援、経済的支援、両立支援策の充実、意識改革、若者の就労支援、家庭支援(増田、2022:7)などは、未来社会設計の観点から「次世代育成」との接点を明らかにしながら積極的に実施したい。

国家先導資本主義

さて、かつて私は日本における「少子化する高齢社会」の外枠としての現代資本主義を「国家先導資本主義」(金子、2013:55-60)としたが、その特徴は2つの二項対立軸で表現できる。

一つはイノベーションを内包する「構築性」(construction)とその反対の「破壊性」(destruction)である。日本でいえば明治中期以降130年間にわたり、この双方を日本資本主義が弁証法的に使いこなして、生産力水準をあげてきた。具体的には資本主義の社会システムではモノやサービスを単に「製造販売」するだけではなく、倒産に象徴されるような「破壊」もまた内在させてきた。

もう一つは、大企業同士あるいはその下請けや孫請けに典型な企業間の「共生」(symbiosis)がある。これは複数の主体間での相互依存を前提として特定の目標を達成し、それぞれに利益が得られることである。その対極には、共生というよりも、一方的な支援、資金援助、人的支援を受ける「従順」(obedience)がある。

これらを組み合わせると、図1になる。すなわち、「構築と共生」の組み合わせもあれば、対偶の「破壊と従順」の組み合わせもある。新規事業を始める際に、関連企業との協同性を確保して、効率的な事業遂行をすることは「A」に該当する。ただし、事業がうまくいかず「共倒れ」としての「B」もありえる。

図1 国家先導資本主義の機能

その一方では、官庁の規制を掻い潜って、うまく各種補助金を受けて「従順」な企業活動としての「D」も珍しくない。日本のバブル時期では、金融業界と一部企業と行政との関係で「破壊と従順」があり、時には「破壊と寄生」すら見られた。

「少子化が進む高齢社会」でも資本主義の宿命として、この2種類の軸の組み合わせは連綿と続くであろう。

「秩序と進歩」や「構築と共生」をめざして

少子化が原因で人口減少社会が到来し、その結果として急速な高齢社会が到来するという予測の中で、資本主義の「構築と共生」へ向かう政策案づくりをどう行うか。

その第一歩とした世代共生論こそ、かねてから提唱してきた「子育て基金」制度の根幹にある注5)。そして「こども家庭庁」が率先して、「世代共生による次世代育成」の実効策に取り組んでほしい注6)

その未来設計で留意したい軸は8つ想定されるから、どのような社会的課題を優先して、解決に向けて配慮するかに衆知を集めたい(図2)。

図2 「世代共生による次世代育成」課題関連図
出典:金子(2013:192)より

次世代育成に何が寄与するか

連載第4回で紹介した人口史観はいわば全体社会像を教えてくれる。少子化とは出生数が減り、年少人口の実数と比率がともに連続して減少する社会現象であるから、その影響は産業、経済、政治、文化、教育、スポーツなどすべての領域で活動を縮減させる方向に作用する。そのため、政府機関が担当領域を決めながら、「社会の存続」を筆頭に個別のデータを揃えて、それぞれのテーマに取り組むことになる。

図2でいえば、論者によっての最重要事項は「個人の自由」であったり、「豊かな生活」の維持であったり、「経済活動」でもありえる。この8点のそれぞれを個別に追究することも可能であれば、「豊かな生活」と「社会的不公平性」との間にあるトレードオフを調べるというテーマも成り立つ。

しかし最終的な判断基準は、それらが「次世代育成」にどのように寄与するかにある。

団塊世代の人口動態

なぜなら、人口動態こそが国政ないしは国勢を左右する筆頭要因だと考えるからである。団塊世代が誕生した1947年から1949年までの3年間での出生数合計は805.7万人であり、その人口圧力が高度成長期には経済エンジンを回転させる促進要因になった。

それから60年経過した2009年10月の生存者総数は664.4万人、67年後の2016年では639.4万人に減少した。還暦までに140万人が亡くなったのであり、2020年の国勢調査ではもっと減少して、団塊世代として608万人が生存していた。すなわち、70歳の誕生日を200万人もの団塊世代は迎えられなかったことになる。

しかし歴史的には、団塊世代の人口圧力は社会発展の促進要因だけではなく、逆に年金財政や医療費増加や介護負担の問題の大きな原因にもなってきた。図3は3分類(後半は4分類)された社会保障費の過去60年間の推移(%)である。

図3 社会保障給付費の推移
出典:国立社会保障・人口問題研究所編『令和元年年度 社会保障費用統計』(2021年8月)より金子がグラフ化した。「介護」は本来「福祉その他」に含まれるが、別途に再掲した。

日本の医療保険

医療保険制度は、日本では4通りに分かれていて、大企業従業員とその家族が「健康保険組合」、中小・零細企業従業員とその家族が「協会けんぽ」、公務員・教職員とその家族が「共済組合」、自営業・無職その他の家族が「国民健康保険」に分かれている。そして退職後はすべてが「国民健康保険」に加入する。その後75歳を超えると、「後期高齢者医療制度」に移ることになる。

日本の医療保険は、周知の国民皆保険や現物給付とフリーアクセスの特徴をもつ。このうちフリーアクセスとは場所を問わず、保険証1枚で患者が全国の医療機関を自由に選べることをいう。北海道民が沖縄旅行をした時に、ケガしたり体調が悪くなっても那覇市の医院で診療してもらえる。これをフリーアクセスとよぶ。

制度開始後の20年ほどは年金への支払いが少なかったから、社会保障費に占める医療費の割合が高かったが、高齢化率が上昇して1985年以降になると、年金支給が占める比率が医療保険支出を完全に上回って、2020年に至っている。

国民皆年金

その拠出制の国民皆年金制度は1961年から開始された。昭和開催の東京オリンピックの3年前である。

現代日本の国民年金制度は、国民が保険料を納めて将来年金を受け取る仕組である「拠出制年金制度」を採用している。日本国内に住む満20歳以上60歳未満の者は全て国民年金に加入し、保険料を納めなければならない。保険料を一定期間以上納めないと、年金を受給することができない。

図3で分かるように、社会保障費全体ではしばらく医療費の比率が高かったが、高齢化率の上昇により年金、医療費、福祉その他という序列が固定した。そして、2000年4月からの介護保険制度導入以降は、介護が第4の柱として定着した。

この連載では社会保障の領域を高齢化と少子化関連の2点に絞り、日本における年金、医療費、福祉その他の実態、現状、課題などを軸としてまとめる。

この三本柱の中で少子化を念頭にした「次世代育成」を考えて、最終的な福祉社会の問題、背景、現状分析、処方箋を描いてみたい。いずれからも、「世代内共生」と「世代間共生」の必然性が読み取れるであろう。

機能別社会保障給付費

年金、医療費、介護保険、子育て家族支援、生活保護など日常的に私たちの生活を支えている各種の制度の費用総額の推移が図3で示した社会保障給付費の推移である。そして社会保障の内訳が表2であり、社会保障費の46%余りの年金総額全てと介護その他が「高齢」に割り当てられ、合計で55兆円に達している。

2019年度の主だった項目では、「高齢」が57兆8347億円、「保健医療」が39兆815億円、「家族」が9兆1908億円、「生活保護その他」が3兆4703億円になる。

医療費は総人口の29%に近い高齢者が常に半分程度を使うが、医療費の対象はゼロ歳から100歳までなのであり、年間合計で39兆円になっている。年金と医療費で約8割を占めており、残りは少子化に係る子ども手当などの家族に8.5兆円前後、生活保護費に3.5兆円程度が使われてきた。

表2 機能別社会保障費給付費・内訳(%)
出典:国立社会保障・人口問題研究所編『令和元年度 社会保障費用統計』(2021年8月:12)

年金は社会保障費の半分程度を占める

これは2021年8月に社会保障・人口問題研究所から発表された社会保障費のデータであり、日本の社会保障費の動態がよく分かる。概略的には毎年の年金費用が全体の半分を占める。2015年は46.3%、2019年は44.7%だから、年金の占める割合は約半分の45%と記憶しておきたい。

その次は国民医療費であり、2019年が32.9%であり、現状は33%ぐらいだが高齢化に伴いまだ増加傾向を示している。残りは福祉その他で22%である。いずれの動向も右上がりなのは、一貫した高齢化の動向と並行しているからである。

2019年の年金総額は55兆円を超えた。金額は各自で違っていても、全国にいる高齢者3600万人がともかくもらえるという年金額の合計である。

医療費は社会保障費のうち3割を超える

年金と違って医療費はどの年代にも関係する。誰もが病気やけがをするから、医療費や薬剤費の支出につながる。ただし、多くの場合若い人は元気であり、病気も少ないから医療機関に診てもらわない。風邪をひいたときに医師に診察を受けなければ、医療保険は使われないが、代わりにドラッグストアで薬を買うと、薬剤費として医療費の内訳に取り込まれるという内訳になっている。

2019年度での薬剤費は全体の医療費の中で約10兆円であった。もちろん薬剤費だけではなく、心電図やレントゲンやさまざまな機器による検査費用なども全部医療費に入るので、医療費もまた伸びてきて、社会保障費全体の33%を占めるまでになった。

第三の「福祉その他」は1990年代までは金額的にも少なく、比率も低かったが、2000年から急に総額が増えてきた。これは2000年4月から介護保険制度が立ち上がったからである。「福祉その他」は当初4兆円ぐらいだったが、今では28兆円にまで伸びてきた。その内の10兆円程度が介護保険費であり、残りの約18兆円のうち4兆円が生活保護費である。

介護保険

介護保険は2000年度の4兆円で始まり、20年経過したら10兆円に届いた。要介護比率もまた少しずつ上がり、最初の10年間は要支援1と2、要介護1から5の合計7段階の比率は15%程度が続いてきた。それで「85・15」の法則と私はまとめていた。しかし、2018年の第1号被保険者(65歳以上)のみの要支援率・要介護率は18.3%であり、まもなく介護を受けない人が80%、受ける人が20%になるので、これを短縮した「80・20」の法則が予想される注7)

認定率の内訳は表3の通りであり、要支援1と2で28%だから、要介護全体では70%を少し超え、その中では要介護1、2、3の合計が半分を占めている。

表3 第1号被保険者(65歳以上)の要介護度別認定者の比較
出典:内閣府『平成29年版 高齢社会白書』日経印刷、2017
内閣府『令和3年度 高齢社会白書』日経印刷、2021

要介護に至った原因では、『高齢社会白書』によれば「その他・不明・不詳」を除くと、男性の場合の1位が脳血管疾患、2位が認知症、3位が高齢による衰弱となるが、女性では1位が認知症、2位が高齢化による衰弱、3位が骨折・転倒になる。

同じく生活保護費も徐々に増えており、介護費用と生活保護費の合計が約14兆円になっていて、今後の超高齢化を考慮すると、この両者は増えこそすれ減ることはないであろう。

国家予算と社会保障費

2021年度予算は106.6兆円であったが、データが揃った2019年度国家予算を細かく見ると、一般会計が100兆円であり、特別会計の200兆円が加わり、項目別社会保障財源は132兆円ほどになる。この内訳は、社会保険料が73兆円、公費負担が50兆円、その他収入が9兆円である(国立社会保障・人口問題研究所、2021:14)。

そして日本で稼ぎ出される国内総生産(GDP)=国民総所得(GNI)が約500兆円である。政府の目標は550兆円なのだが、それは諸般の事情でうまくいっていない。この差額の50兆円は大きな金額であり、たとえば消費税1%で2.5兆円くらいだから、2%増税でも5兆円の増収にしかならない。

ただし、GDPの算出の逆説として、災害の復旧工事でも土木業者や建設会社の増収になるために、災害が多いほどGDPも増える。これは一種のトレードオフであり、常識とは整合しない。

なぜなら、地震や火山爆発や台風などの大災害や環境破壊が多くなったり、感染症が蔓延するのは国民にとっては困ったことだが、それでも関連企業の業績は伸び、従業員への給与も増えてGDPが増加するからである。

要するに、社会システム領域間のさまざまなトレードオフ関連を認識したうえで、社会保障の議論もまた「次世代育成」という理念の中で「少子化する高齢社会」に関連させて行うしかない。加えて、ここには少子化の応用問題としての児童虐待解決があり、一貫した人口減少を伴う過疎社会の中での地方創生も大きな課題になる。「まち、ひと、しごと」もまた、「次世代育成」の観点から再構築したい。

その意味で、「こども家庭庁」はタイムリーな発足ではあるが、次世代の「こども」を「まんなか」で支えるのが現世代と前世代なので、多くの分野で世代内協力と世代間共生をめざした試練が待っている。

(次回:「政治家の基礎力(情熱・見識・責任感)⑥」に続く)

注1)1989年の合計特殊出生率1.57にショックを受けて、94年の「エンゼルプラン」から始められ、99年の「少子化対策基本方針」、2003年の「少子化社会対策基本法」、2004年の「少子社会対策大綱」、2010年の「子ども・子育てビジョン」までの20年間の歴代内閣でも、子どもの減少には強い危機感を持ち、様々な法整備をして「少子化対策」を行っていた。しかしその後10年が過ぎ、合わせて30年が経過した今日では、「少子化対策」を直接担当した内閣府参事官でさえ、「1990年代から30年間にわたって講じられてきた少子化対策の成果が現れなかった」(増田、2022:4)と言わざるを得なくなった。これは、この30年間の主な政策が、「子育て支援」に限定した「子ども手当」と「ワーク・ライフ・バランス」に特化しすぎたからである。これがその時代に沿って研究してきた私の結論である(金子、1998;2003;2006;2009;2014;2016)。すなわち政策理念に誤りがあり、少子化対策のための年間4兆円投入の事業焦点がずれていたことになる。2023年4月予定の「こども家庭庁」ではこの反省に立ち、日本社会の未来を見つめた理念の精緻化と事業焦点を鮮明にしてほしい。

注2)国連分担金率でも3位の日本(8.03%)、4位のドイツ(6.11%)、7位のイタリア(3.19%)の類似性については金子(2022)で触れた。なお、調査年度に若干の違いはあるもののアメリカは18.6%、中国も18.6%、イギリスは17.9%、フランス17.7%、ロシア17.0%そしてインドは28.1%であった。75年前の枢軸3カ国の年少人口率は今でも低く、連合国側の5カ国とは全く異なる出生率と人口構造が続いている。そこには人口増加を国策に盛り込むと「軍国主義」という批判が沸き上がる敗戦国、人口増加政策を堂々と公約して実行できる戦勝国の違いが75年後にも続いているという歴史文化論的な解釈もできる。なぜなら、結婚も出産もその国の文化様式の一部だからであり、したがって75年前の戦争体験の歴史が出産という行動に今でも影響を与えていても不思議ではない。

注3)なぜなら、「少子化対策」の語感では児童虐待が含まれないからである。しかし、「次世代育成」ならば、児童虐待は「育成」とは真逆の意味として包摂される。

注4)このうち「次世代としての子ども」への暴力行為やネグレクトによる「児童虐待」そして「児童虐待死」は、家族機能論としての解釈では、子どもの親が「性と生殖」に特化する反面、「子どもの社会化」と「幼弱の保護」を完全に怠った事例と位置づけられる(金子、2020)。

注5)「子育て基金」は世代内共生と世代間共生を狙う制度として位置づけられる。

注6)これには廣田のいう「共存主義」も該当する。廣田は「ポスト資本主義」を表現する用語として「共存主義」(共に助けあって生存する)を使用した(廣田、2021:290)。しかし「共存主義は、人間性を尊重し、科学的な合理性だけではなく非合理的な要素も取り込んで、スケールの大きな基礎を構築する」(同上:300)ならば、このような使用法も可能であろう。

注7)これはパレートの「80・20」法則とはもちろん異なる内容である。

【参照文献】

  • 廣田尚久,2021,『共存主義論』信山社.
  • 金子勇,1998,『高齢社会とあなた』日本放送出版協会.
  • 金子勇,2003,『都市の少子社会』東京大学出版会.
  • 金子勇,2006,『少子化する高齢社会』日本放送出版協会.
  • 金子勇,2009,『社会分析』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,2013,『「時代診断」の社会学』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,2014,『日本のアクティブエイジング』北海道大学出版会.
  • 金子勇,2016,『子育て共同参画社会』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,2020,『「抜け殻家族」が生む児童虐待』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,2022,「『脱炭素と気候変動』の理論と限界 最終回」『アゴラ言論プラットフォーム』(2022年3月17日).
  • 国立社会保障・人口問題研究所,2021,『令和元年度 社会保障費用統計 2019』同研究所.
  • 増田雅暢,2022,「『こども家庭庁』の課題と『家族政策』の可能性」『月間 圓一フォーラム 5月号』No.378 圓一出版:4-9.
  • Streeck,W.,2016,How Will Capitalism End?Essays on a Falling System,Verso.(=2017 村澤真保呂・信友建志訳『資本主義はどう終わるのか』河出書房新社)
  • 鈴木広監修,2001,『家族・福祉社会学の現在』ミネルヴァ書房.

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