最近の日経と日経ビジネスを読んでいると時々頭がくらくらします。理由は日本の経済とビジネスに関してあまりにもネガティブトーンが出過ぎているからです。
今週号の日経ビジネスの企業ニュースを扱う「時事深層」欄。読んでいてムカムカしてきました。
- 最高益トヨタは一転減益に 自動車、資材インフレが直撃
- 伊藤忠から「3冠」を奪還 三菱商事、空前の利益でも危機感
- ソニー、初の営業利益1兆円超も 鈍るゲームの成長力
- 大型連休で活況取り戻したが……旅行業界、露呈したボトルネック
これらの報道のトーンは全部同じで「一見よさそうだけど実はその先は真っ暗闇」という流れです。日経ビジネスだけではなく、日経新聞もこの基調の記事が相当増えており、読み手を常に構えさせるようになっています。「手放しじゃ喜べないよ」と。
日本人が心配性だという話は以前しました。「幸せホルモン」セロトニンの分泌量により不安感が変わるのですが、日本人はSS型という幸せホルモンが遺伝的に少ない人が全体の2/3、それに対してアメリカ人はSS型は全体の1/5程度です。日本人が常に「大丈夫か?」と思うのはある意味宿命であり、変えようがないのかもしれません。しかし、日本人の特徴のもう一つに調子が良くなると「火事場の馬鹿力」のようなあり得ない成果を出すのも特徴で、集団行動の心理的高揚感と使命感が作り出すプラス作用もあるわけで、そこは上手く使い分けたいものです。
このところの日経新聞のトーンもひどく、記者の懐事情が悪くて恨みでもあるのではないか、と勘繰ってしまいたくなるのですが、その中で2つ、気になった記事があります。「『値上げは失敗だった』 価格転嫁、試されるブランド力」と「楽天・三木谷氏 携帯0円廃止『さらなる値上げしない』」です。
まず、前者の「値上げは失敗だった…」については今年の春、スーパーの食材が一斉値上げした際に売り上げを大きく落とした企業や製品を取り上げ、「値上げは失敗だった」というものです。記事には食用油がその例として挙がっているのですが、食用油は差別化しにくい商品であるにもかかわらず、何処も売り上げを落としています。これは何を意味しているんでしょうか?
私はそもそも日本人は消費が大好きな国民性でモノの種類も世界一豊富に取り揃えられている国だと思っています。新製品が無数に出て、その99.9%はあっという間に市場から消えていきます。消費者の目も舌も肥えており、高い満足度と安い価格の両方を提示しないと企業は生き残れません。
しかし、これは逆に言えば不況になれば消費を極端に抑えるバッファーがあるともいえるのです。極端な話、食費など生活必需消費額は我慢さえすれば今の半分でもやってやれないことはないかもしれません。こういうと必ず「うちはもう1円も削れないほどギリギリ」という声が出るのですが、当然、世の中、余裕のある人からない人まで一定の幅がありますのであくまでも中位で見る必要があります。
私が気になっているのは会社員を満期勤めた年金暮らしの方々の懐です。企業年金があれば月に3-40万円もらえるわけで持ち家ローン残高ナシならば余裕の生活なのです。これらの方々が率先して「高いわ、食費を減らさなきゃ」になるのです。別に懐は全然痛まないけれどバラエティ番組など聞きかじりの情報と周りの雰囲気に流されてしまうのです。
つまり、私の仮説は日本人の消費性向は高いため、価格上昇したモノやサービスに対して一気に消費を萎ませることができる、というものです。
次に楽天の携帯ゼロ円の話ですが、これに関連する報道を含め概観すると三木谷社長が「いつまでもゼロ円という訳にはいかない」といった瞬間にパッと客が散り、その衝撃があまりにも大きく、三木谷氏が「さらなる値上げしない」ではなく「さらなる値上げできない」という悲鳴が真相だとみています。
マーケティングの世界で「ゼロ円」とか7-8割引きといった極端な割引を施した場合、そのキャンペーンが終わった時、リピーターが値引きの深さに比例するように離反することがある程度統計的に出ています。顧客というのはその会社、製品、サービスに愛着を持つからこそ、定着するものでゼロ円キャンペーンはサービスへの粘着性ゼロで「風が吹けば客が飛んでいく」ようなものなのです。
これを三木谷さんの戦略ミスというのもありですが、私が着目しているのは「顧客はドライ」ということです。つまりお得であればどんなことしてもゲットするけれどそれを得た後は満足度がマックスに達するのでリピートできなくなるのです。経済学で「効用の法則」というのがあるのですが、日本の一部の価格戦略は最大効用をはじめに提示してしまうのでより深い値引きやサービスをしない限り顧客をつなぎ留められなくなるのです。だけどゼロ円より深い値引きはないのです。
もう一つは三木谷さんが挑んだ「顧客の囲い込み戦略」は失敗するだろう、という点です。彼が巨額の費用とリスクを冒してまで携帯事業に参入したのは顧客の囲い込みとデータが欲しかったのだと思いますが、少なくとも今は顧客は囲い込むのが難しい時代になったと思います。よくポイント制度で顧客のハートをがっちり掴むと言いますが、世の中、ポイントだらけで正直ウザいのです。ポイントに縛られるよりその時々のベストディールを見る方がはるかに安く買える時代にあって三木谷さんの戦略はもういけてないと思います。
メディアが率先して発信し、まん延するネガティブトーンは日本をつまらなくさせてしまっているように感じるのです。いまこそ「ネガトーンのまん延防止策」が必要ではないかと思ってしまうのが外国に住む者からの目線であります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月25日の記事より転載させていただきました。