QUAD首脳会議、豪印首脳は中ロを直接批判する表現を回避

QUAD首脳会議が24日、開催されました。対面形式は2021年9月の第1回に続き、2回目。21年と22年は3月にそれぞれオンライン会議を開催しており、これらを含めれば4回目となります。

〇冒頭の各首脳発言など

岸田首相とバイデン大統領は中ロを念頭に入れた表現を盛り込んできました。逆に豪印首脳の発言内容は、中国やロシアを刺激するような発言を避け、QUADの意義や協力できる分野での言及に終始したと言えます。

・岸田首相
QUAD首脳会議の冒頭で「ロシアによるウクライナ侵略は国連憲章でもうたわれている諸原則への真っ向からの挑戦だ。インド太平洋地域で同じようなことを起こしてはならない。こうした厳しい情勢の中だからこそ、一堂に会して“自由で開かれたインド太平洋”という共通のビジョンへの強固なコミットメント(関与)を国際社会に示す意義は極めて大きい」と発言。

・バイデン大統領
「民主主義国家VS独裁国家を見据え、我々たちが提供できることを確認しなければならない」と発言。バイデン氏は、米国が同盟国と協力して世界的な対応を主導すると約束し「世界のどこで侵害されたとしても」主権や侵害から守り、インド太平洋地域における「強力かつ永続的なパートナー」であり続けるというコミットメントを改めて表明した。

・モディ印首相
「コロナ禍での困難な状況に関わらず、ワクチンの供給、気候変動対策、サプライチェーンの回復力、災害対応、経済協力など、いくつかの分野で相互の連携を強めてきた」と言及。また「これは、善の力としてのQUADのイメージを強化し続けるもの」と表現した。ロシアによるウクライナ侵攻で、西側と一線を画し制裁に与せず、国連でも対ロ非難決議など棄権し続け、ロシアからの原油などエネルギー購入を維持するなか、必要最低限のメッセージにととどめた感がある。

・アルバニージー豪首相
総選挙での柱だった気候変動対策へのコミットメントを強調。クアッド首脳会議でも「我々は気候変動こそ、太平洋諸国にとって主要な経済・安全保障面での挑戦と捉える」、「労働党政権下、豪は2030年までの温室効果ガスを43%削減し、2050年までのゼロを目指す」とアピールした。
また、アルバニージー氏は2023年に第3回のQUAD首脳会議をオーストラリアで開催する予定に言及した。

画像:クアッド首脳会議、記念撮影は和やかに

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(出所:首相官邸

日米豪印首脳会合共同声明(ホワイトハウス公表版はこちら

・声明では冒頭で「包括的で強靭な、自由で開かれたインド太平洋への揺るがないコミットメントを新たにする」と明記された。
・声明では、①平和と安定、②新型コロナウイルス感染症と世界健康安全保障、③インフラ、④気候、⑤サイバーセキュリティ、⑥重要新興技術、⑦日米豪印フェローシップ、⑧宇宙、⑨海洋状況把握及び人道支援・災害救援――などのイニシアチブが盛り込まれた。主なポイントは以下の通り。

①平和と安定―「国際秩序の中心は国連憲章を含む国際法及び全ての国家の主権と領土一体性の尊重であることを明確に強調。自由で開かれたインド太平洋のビジョンを共有する地域のパートナーとの協力にコミット。全ての国が、国際法に従って紛争の平和的解決を追求しなければならないことを強調」
中ロなど力による現状維持を変えようとする権威主義的国家に対するけん制。なお、「ウクライナ」の文言は2回登場も、「ロシア」や「中国」、「台湾」などは名指しせず

②新型コロナウイルス感染症と世界健康安全保障―「日米豪印は、より良い健康安全保障の構築と保健システムの強化を視野に、新型コロナウイルス感染症への対応のための国際的な取組を主導してきており、今後も主導していく」
→コロナ対策など健康安全保障の協力と推進にコミット。

③インフラー「資金ギャップを橋渡しする公的及び民間投資を動員するため、パートナー及び地域と共に緊密に取り組むことにコミットする。これを達成するため、日米豪印は、次の5年間に、インド太平洋地域において500億米ドル以上のインフラ支援及び投資を行うことを目指す。複数の二国間及び多数国間の能力構築支援から成る「クアッド債務管理リソースポータル」を通じたものを含め、関係する国々の財務当局と緊密に連携して債務の持続可能性及び透明性を促進することにより、債務問題に対処する必要がある国々の能力強化に取り組んでいく。
中国による一帯一路、及び債務の罠に対する痛烈なけん制。なお、ホワイトハウスのファクトシートでは500億ドルのインフラ支援及び投資にちて明記されていなかった。

④気候―「我々は、パリ協定を着実に実施し、COP26の成果を実現していく。本日、我々は、緩和と適応の2つをテーマとする、「日米豪印気候変動適応・緩和パッケージ(Q-CHAMP))」を立ち上げる」
→Q-CHAMPとは、グリーンな海運・港湾、クリーン水素及び天然ガス部門におけるメタン排出に関するクリーンエネルギー協力、クリーンエネルギー・サプライチェーンの強化、太平洋島嶼国との連携戦略策定に向けた気候・情報サービス、災害に強靭なインフラのためのコアリション(CDRI)を通じた取組など災害と気候変動に強靭なインフラを含む防災。

⑤サイバーセキュリティ―「自由で開かれたインド太平洋という日米豪印のリーダーのビジョンを実現するために、我々は、脅威情報の共有を通じて各国の重要インフラ防護を強化すること、デジタル対応の製品・サービスのサプライチェーンにおける潜在的リスクを特定・評価すること、及びソフトウェア開発エコシステム全体を強化して全てのユーザーが便益を感じられるよう我々の共同の購買力を活かして政府調達における基本的なソフトウェアセキュリティ基準を整合させることにコミットする」
→日米豪印サイバーセキュリティ・パートナーシップを立ち上げ、インド太平洋地域及びそれ以外の地域のネットユーザーをサイバー脅威から守るべく、日米サイバーセキュリティ・デイを開始へ。

⑥重要な進行技術―「日米豪印は、地域の繁栄及び安全保障を強化するため、重要・新興技術を活用することに引き続き注力する。我々は、グローバルな半導体サプライチェーンにおける日米豪印の能力及び脆弱性をマッピングし、多様で競争力のある半導体市場を実現するため、我々の補完的な強みを一層活用することを決定した」
→5Gやそれ以降の分野の電気通信サプライヤーの多様化を推進、5Gサプライヤー多様化やオープンRANに関する新たな協力覚書により、相互運用性及び安全性を推進へ。産業界との関与も深める。また、半導体をめぐり、需要技術サプライチェーンに関する原則の共通声明を公表。新たな国際標準協力ネットワーク(ISCN)を通じ協力を強化すると共に、地域における技術開発が民主的な価値を確保するよう推進へ。明記されていないが、中国を念頭としたネットワークと位置付けられよう。

⑦日米豪印フェローシップ―「日米豪印フェローシップは、毎年、日米豪印各国の学生100名が米国におけるSTEM分野の大学院の学位取得を目指すためのもので、シュミット財団によって運営される」
→日米豪印フェロー第一期生は、23年第3四半期から入学する予定。

⑧宇宙―「地球観測に基づいたモニタリング及び持続可能な発展枠組みを作るために協働する。我々は、我々の各国の衛星データ資源へのリンクを集めた「日米豪印衛星データポータル」を提供するとともに、宇宙からの民間地球観測データの共有に努める」
→4カ国は米国の海洋・大気モニタリング、洪水マッピング、陸上画像などの宇宙地球観測データを共有していく。なお、日米首脳会談では、米国の”アルテミス計画“の日本参加で合意し、日本人宇宙飛行士が月面着率する機会が実現する可能性が浮上した。

⑨海洋状況把握及び人道支援・災害救援―「我々は、地域のパートナーと協働し、人道及び自然災害に対応し、違法漁業と戦うために設計された、新しい海洋状況把握イニシアティブである「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(The Indo-Pacific Partnership for Maritime Domain Awareness、IPMDA)」を歓迎する」
→IPMDAでは、 4カ国とその地域パートナーで、国の防衛を始め安全、経済、環境に影響を与える可能性のある海洋に関する事象を効果的に把握する取り組みで協力していく。さらに「インド太平洋地域における日米豪印HADR(人道支援・災害救援)パートナーシップ」も立ち上げ、災害への協力体制を強化する。

その他、米中首脳会談、米豪首脳会談、日印首脳会談、日豪首脳会談などが開催されました。注目は米印首脳会談で、ロシアに対し中立的な立場を貫くモディ印首相にバイデン氏がどのようにアプローチするのか、共同会見でも高い関心が垣間見れたものです。といいますのも、バイデン氏は記者団から「モディ首相に対ロ強硬姿勢を推し進めるのか」、「モディ首相にロシア産原油への依存を断ち切るよう要請したか」などと質問されたんですよね。両者は沈黙に陥るかにみえましたが、バイデン氏は皮肉たっぷりに眉を上げ「米国流ジャーナリズムへようこそ」とアメリカン・ジョークで応酬。ベテラン政治家ぶりを発揮したのは、さすがでした。

画像:モディ氏、バイデン氏との会談で貿易、投資、防衛、人とのつながりなど広範囲にわたる協議を行ったとツイート

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(出所:Narendra Modi

豪印首脳は冒頭発言などで中ロを直接批判するトーンを控えたように、両首脳との会談に合わせ公表されたホワイトハウスの声明で中国の言及はありませんでした。一方で、ロシアについてはそれぞれ1回ずつ登場。米印首脳会談に合わせ公表された声明では「バイデン大統領は、ロシアによる不当なウクライナ戦争を糾弾した」と明記した一方、米豪首脳会談での声明「バイデン氏は、ロシアによる侵攻を受けるウクライナへの豪の力強い支援を称賛した」と、当然ながら内容が分かれました。米印首脳会談でロシアを猛烈に非難するバイデン氏をモディ氏が静観するなど温度差がある通り、声明ではこの程度の表現に抑える必要があったのでしょう。

さてさて、QUAD首脳会議に合わせ24日午前から午後にかけ、中国のH6爆撃機と、ロシアのTU95爆撃機、それぞれ2機が日本海で合流し、東シナ海まで編隊飛行に踏み切りました。防衛省は戦闘機をスクランブル発進させたものの、領空侵犯には至らず。共同声明で中ロを名指ししなかったとはいえ、けん制に動いた格好です。なお、中ロの爆撃機が日本周辺で編隊飛行を行うのは21年11月以来、ロシアが今年2月24日にウクライナに侵攻して以降は初めてとなります。北朝鮮はICBMの発射実験を見送ったものの、レッドチームの二大巨頭は示威行為に出る機会を逃さなかったようです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年5月24日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。