いつか明らかになると考えてきたが、今回の情報は中国共産党政権にとって致命的なダメージを与えることが予想される。中国側は国際社会の非難に対して「内政干渉」としてしらを切ってきたが、それは「大嘘」だったことが判明したからだ。
独週刊誌シュピーゲル(電子版)は24日、中国新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル人が強制収容所に送られ、虐待され、逃げようとした人間は射殺されるなどの激しい人権蹂躙が行われていることを記述した内部資料や収容者リストとその写真などを報じた。
強制収容所建設は習近平国家主席の直接の命令
「新疆ウイグル区警察ファイル」(Xinjiang Police Files)と呼ばれる資料はドイツの中国問題専門家アドリアン・ゼンツ氏が入手したもので、その経路は明らかにされていない。ウイグル人を対象とした強制収容所は習近平国家主席の直接の命令によって建設されたことが内部資料で裏付けられている。
アンナレーナ・ベアボック独外相は、「(報道内容について)中国政府は説明責任がある」と指摘した。独外務省によると、ベアボック外相は中国の王毅国務委員兼外相とビデオ会議をし、今回明らかになったウイグル人への人権弾圧の実態報道に対して中国側の姿勢を質した。
また、クリスティアン・リンドラー独財務相(自由民主党党首)は中国政府の人権弾圧を示す写真を見て、「ショックを受けた」と独日刊紙「ハンデルスブラト」とのインタビューに答え、「ドイツ経済の中国依存体質を改革する必要がある。私たちの経済的利益のために、中国の人権蹂躙に目をつぶってはならない」と付け加えた。
(16年間の長期政権だったメルケル政権の対中政策は、経済・政治と人権問題を区別して対応していく路線だった。その理由は明瞭だ。ドイツは輸出大国であり、中国はドイツにとって最大の貿易相手国だからだ。
例えば、ドイツの主要産業、自動車製造業ではドイツ車の3分の1が中国で販売されている。2019年、フォルクスワーゲン(VW)は中国で車両の40%近くを販売し、メルセデスベンツは約70万台の乗用車を販売している。そのような国が中国の人権問題を激しく追及できるだろうか。
ウイグル人弾圧問題を報じる欧米メディア
オーストリア国営放送は24日夜のニュース番組の中でウイグル自治区の強制収容所に拘束され、警備員に殴打されているシーンの写真を報じるなど、欧米メディアは一斉に中国共産党政権のウイグル人弾圧問題を報じ、大きな反響を呼び起こしている。
同報道は23日から中国を訪問中の国連人権委員会のミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官の日程にも少なくない影響を与えるかもしれない。同高等弁務官は新疆ウイグル自治区を現地視察することになっているからだ。
中国国家テレビCCTVは25日、習近平国家主席がバチェレ人権高等弁務官とオンラインで会談したことを報じた。CCTVによると、習近平主席は、「人権という名目で内政を干渉することは許されない。人権問題を政治化すべきではない」と強く主張、「人権では教師は要らない。国の発展状況に応じてその内容は異なるからだ」と説明したという。
それに先立ち、中国外務省によると、王毅国務委員兼外相は23日、広東省広州市でバチェレ国連人権高等弁務官と会談し、「わが国を批判する一部の国は偽情報を流して人権問題を政治化している」と不快を表明する一方、新疆ウイグル自治区の現地を視察予定のバチェレ高等弁務官に、「デマや嘘に惑わされないでほしい」と強く要請している。
一方、国連側はツィッターで、「今回の訪中で懸案の人権問題が解決へ前進することを期待している」と報じている。国連側の情報によると、バチェレ人権高等弁務官は28日までの日程でウイグル自治区のウルムチやカシュガルなどを視察する予定だ。
なお、国連側はウイグル自治区内の視察が制限されずに実施されるために中国共産党政権と長い年月をかけて交渉を重ねてきたことを明かにしている。
国際人権グループは、「中国新疆ウイグル自治区では少なくとも100万人のウイグル人と他のイスラム教徒が再教育キャンプに収容され、固有の宗教、文化、言語を放棄させられ、強制的な同化政策を受けている」と批判してきた。
中国共産党政権は、「強制収容所ではなく、職業訓練所、再教育施設だ」と説明するが、現状はウイグル民族の抹殺が進められている。ポンペオ前米国務長官は中国の少数民族への同化政策を「ジェノサイド」と呼んでいる。
偽情報だという王毅外相
王毅外相は2月19日、ミュンヘン安全保障会議に北京からオンラインで出席し、基調演説をしたが、中国のウイグル人政策について、「新疆ウイグル自治区には体系的な強制労働や再教育キャンプは存在しない。それらは偽情報だ」と語った。
新疆ウイグル自治区では、支配する漢民族と少数民族の間に緊張関係が続いている。ウイグル人が抑圧について不平をいえば、北京は彼らを「分離主義者」、「テロリスト」と非難してきた。
ちなみに、同外相は「人権」について新しい定義(解釈)を明らかにしている。王毅外相は昨年2月に開催された国連人権理事会(UNHRC)第46回会議で新疆ウイグル自治区の人権弾圧批判に対し、「人権とは経済発展と安保の観点から考えるべきで、民主主義と自由に焦点を合わせるのは最後だ」と説明したという。
換言すれば、「国が安定し、国民が3食を充分に得るまでは個々の国民の人権(自由)は後回し」ということだ。
海外中国メディア「大紀元」はウイグル自治区で民族抹殺計画が進行中であると警告を発してきた。それによると、「中国共産党政権はウイグル自治区で人口抑制政策を実行中で、80%の出産可能年齢の女性に、子宮内避妊具の挿入、不妊手術などの避妊措置を強要している」という。このまま続けば、今後20年間でウイグル人の人口が3分の1に縮小するという。
ウイグル自治区の人口は2040年には本来、1310万人と予測されていたが、中国当局の「人口抑制政策」の結果、860万から1050万人に減少する可能性がある。
ゼンツ氏の報告書によると、「中国当局が意図的に漢民族を新疆へ移住させ、新疆のウイグル族を強制的に転出させている。新疆南部の漢民族の人口割合は現在の8.4%から約25%に増加する可能性がある」というのだ(「習近平主席『中国は愛されていない』」2021年6月13日参考)
核実験場だった新疆ウイグル自治区にあるロブノール
ウイグル人は中国56民族の中の一民族だが、ウィグル人問題を考える時、忘れてならない点は、ウイグル人が住む新疆ウイグル自治区にあるロブノールは旧ソ連カザフスタンのセミパラチンスク核実験場と共に核実験場だったことだ。ウィーンに本部を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)によると、中国は過去、45回の核実験を行った。
核実験で放出される放射能の影響で同自治区では多くの奇形児、障害児が生まれてきている。(「中国核実験地ウイグル自治区の人々」2021年1月2日参考)。また、「移植用の臓器は今、すべて新疆ウイグル自治区からきている」といわれている。共産党政権の同化政策に反対するウイグル人は強制的に臓器移植の対象となっているという。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年5月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。