バイデン大統領訪日:私の総括

外交の花が咲いた、そんな3日間だったのでしょうか? クワッド、IPEFの趣意説明、韓国新大統領との会談を受けた日韓関係の取り持ち、日本の防衛費増額の約束、そして結果として一番話題になったのは台湾防衛にイエスと言い放った時だったでしょうか?

首相官邸HPより

今回の訪日、一連の会談についてマスコミ、専門家、評論家がこぞって様々なことを述べています。私の第一印象は「政治家による政治レベルのお話」でアドバルーンを上げようとするバイデン氏に対して今一つ、実感が湧かなかったかなという気がしています。

まず、バイデン大統領にとって自らの低い支持率の挽回策の一つが今回の日韓訪問だったはずです。ところが5月24日のロイター/イプソスの支持率世論調査では前週から6%ポイントも下げ、就任以来最低の36%となりました。国内を空けていたから支持率が下がったのか、東アジアでの成果への疑問だったのかは分析に時間を要すると思います。おまけに帰国するバイデン氏の後ろから北朝鮮が打ち上げ花火3発です。

少なくともIPEFの創設は「やらされ感」満載で実務部隊からはその実効性や効果について疑問の声があるようです。その理由の一つは関税免除がIPEFの中に含まれていないからとされます。今、世界中で各国間が連携をとるバンドル化(bundle=束)政策を進めるのが一種の流行になっているのですが、多分、これはそのうち、機能しなくなるとみています。国家はSNSのように薄く広くつながるのが良いとは思わないのです。最強はやはり二国間のがっちりした取り組みだと思います。

次にクワッドですが、正直、こちらもなんだかわからなかった、というのが実感です。それは日米が盛り上がるもののオーストラリアとインドが今一つだった気がするのです。

まず、オーストラリアの首相、労働党のアルバニージ氏は週末の選挙で保守党のモリソン氏を破ったばかりです。それこそ、選挙勝利後まだ選挙の後片付けすらしない状態で日本に飛び込んできた状態です。メディアは保守勢力から労働党への政権交代に伴いクワッドや対中国への姿勢をどう語るのか注目しましたが、アルバニージ氏は非常に賢く、めぼしい発言をしませんでした。

同首相としてはそもそもクワッドへの参加というよりバイデン大統領とこんなにすぐに会えるという意味が大きかったはずです。同首相によればクワッドを含めた外交方針は前政権踏襲ということになっていますが、そのバランスのとり方については今は色を出す時期ではないと考えた節があります。

オーストラリアに対しては今後、中国外交が猛攻勢を仕掛けるはずで今回のクワッドでオーストラリアにくさびを打ち込めたのか、ここは未知の世界であります。

同様にインドのモディ首相も淡々としており、民主主義と自国の権益を守るためにクワッドを支持するという立場で自らがどんどんこれに関与していくという感じには見受けられませんでした。むしろ、クワッドに入っていればインドの権益を守ってくれるというメリットを感じているように見えます。

話題になったバイデン大統領の台湾防衛発言です。これについて「失言ではないか」という声も出るほどこの発言を巡る解釈が揺れています。私もこの部分について英語版のノーカットビデオを見直したのですが、記者の質問である「ウクライナに関してはアメリカは直接的関与をしなかったけれど台湾についてはどうするのか?」という質問に「YES」と答え、そのあと説明をしており、確信的な発言だと思います。

この報道で気をつけるべき点はYESだけが独り歩きしている点でこれでは十分な理解にはなりません。その前段の部分でバイデン大統領は「One Chinaにアメリカがコミットメントをする意味は(台湾との関係を含む)現状維持が前提だからだ」と言っているのでそれを反故にするなら約束違反だから関与するという意味なのです。

つまりこの米中間の約束はロシアとウクライナのような第三国間同士の問題ではなく、アメリカと中国の2国間の「握り」なのだから何かあればアメリカが直接動く、という訳です。

但し、日本のマスコミも極論が見受けられ、それがすわ、軍事的関与に直ちにつながるといったトーンも散見できますか、そんな単純なことではありません。状況を見極めるが、「これはアメリカの威信にかかわる話ぞよ」というメッセージを北京にぐさりと差し込んだのだとみています。

総括的にはワンワールドが崩れた、そして各陣営が自陣を強化するための様々な努力をしている一幕だったと思います。まるで関ヶ原の合戦を前に自陣に誰がつくのか、という話と同じで有力大名である日本には「期待しているぞ」とバイデン総大将から檄を飛ばされたという感じでしょうか?それでも岸田大将は「我々が先陣を」とは絶対に言えないところがミソではありますが。

個人的には日本国内で憲法改正論議と9条の解釈でまた盛り上がってくるような気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月26日の記事より転載させていただきました。