日本がリードできるソサイエティ5.0

内閣府の総合科学技術 イノベーション会議というのが1995年に発足して5年ごとに内容を更新しているのですが、2016年-2020年の期のプランとして出てきたのがソサイエティ5.0という発想です。純粋に日本発の発想でこのネーミングも2016年に紹介されています。

内閣府の示すソサイエティ5.0のイメージ
内閣府HPより

ソサイエティ1.0が狩猟、2.0が農耕、3.0が工業、4.0が情報社会で5.0がサイバーの社会です。内閣府の説明は「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」とあります。わかるようでわからない微妙な定義です。

しかし、その提言から6年たった今、メタバースという発想がアメリカを中心に展開しそうな勢いです。フェイスブックが社名を「メタ」にしたのも昨年のことでしたが、今一つ、現実のイメージが湧いてこないのかと思います。

考え方はいろいろあるのだと思いますが、私なりに簡素化した発想は現実社会と別に仮想社会のレイヤーが同時に存在する世界ではないかと思うのです。レイヤー、つまり、我々が日々生活するのと同じ時間軸の中に誰もがアクセスできるもう一つの別次元の社会がそこにあり、我々はいつでも仮想と現実の社会を行き来します。どこからでもアクセスでき、そこで仮想生活もできるし、買い物やサービス、仕事すらできる社会です。多分時間を戻すことも可能になるはずです。

自分が参加するためにはアバターという自分の分身がそこに加わることで社会への参加が可能になります。仮想通貨を使い、ショッピングモールを歩くこともできます。ではその店で買い物をするとどうなるか、と言えば現実社会でそれを受け取ることができます。理由は仮想店舗に出店している会社はそもそも現実社会でそれを販売しているからです。それを仮想社会でより上手にプレゼンをし、詳細が分かり、顧客は店員の説明を聞くことができます。この初期段階の実験は既に行われています。

このところ、「売らない店」があちらこちらに生まれています。百貨店から一般小売店まで実験店が増えています。ただ、この方式は私が描く社会と真逆を行っています。つまり、現実社会において「売らない店」に出向き商品をチェックし、ウェブで注文するという仕組みです。もっとわかりやすく言うと例えばニトリに行ってベッドや食卓テーブル、ソファを買うとします。実際には展示されている場所に行って触って座って相談して決めます。実物はまさか、お持ち帰りできないので後で配達されてきます。これをもっと一般的な商品にまで広げるのです。

しかし、私はこれでは意味がないと思っています。いま求められていることは人が遠くまで行くこと、時間を割くこと、リアルの店員とやり取りをすることを避けたいのです。ですが、このビジネスモデルはそれをさせるのです。事実、このスタイルの老舗だったb8taはアメリカでは今年春、店をたたんでいます。理由はパンデミックで人が来なかったわけです。つまり、人を来させるビジネスモデルはソサイエティ5.0では作ってはいけないのです。(日本のb8taは独力で頑張っていることは知っています。)

百貨店が嫌がられる理由の一つに店員が寄ってくることがあります。一方、カナダのハイブランド店は店員が寄ってこない問題があります。これは店員が客を選び、金を使ってくれそうな客に集中接客するのです。理由は店員のコミッションにあります。感覚としては売り子の給与が年間500万円程度に対してコミッション額は7-800万円、稼ぐ人なら数千万円レベルにもなります。つまり、客は必要な時に接客を受けられず、いらない時に周りをうろつかれるのです。この話、どこかで聞いたような、そうそう晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる銀行と同じなのです。

これを解消するには仮想社会で自分のアバターがアバターの店員とデジタルなやり取りをすることで解消されやすくなるでしょう。例えば今、多くの役所や企業などで問い合わせを電話ではなく、ウェブ上でお問い合わせ係が画面の隅に出てきて、そこでテキストでやり取りすることが増えています。これ、私も時々使うのですが、電話を20分も待たされることもなく、さっさと用件が済むのでとても便利ですね。これを仮想社会のレイヤーで行えばよいわけです。

また、ひどいクレーマー対応もアバター上でAIがこれらの対応をアシストすれば職員のフラストレーションも緩和されるかもしれません。

会社の会議でも発言する人としない人がいます。仮想会議場ならもっとフラットになるでしょう。なぜなら威圧感がないからです。社長も部長も自分と同じようなアバターなのです。これなら発言しやすい気がします。

病院診察でもコンサルでも高齢者の介護でもこれで代行できる部分はあります。そしてこの仮想社会のレイヤーを通じた経済効果は想像を絶するほど巨額になるポテンシャルがあります。唯一の弊害は各関連省庁の保守的で踏み込めない姿勢がこの展開を遅くするでしょう。

今、旅行会社や航空会社が仮想旅行を提供し始めています。仮想空間で旅行に行った気分になるのです。そうするとリアルでも行ってみたいと思うようになります。(もちろん、「やっぱ、やめておこう」もありですが。)しかし、お試しで例えばリアル旅行が50万円かかるのに仮想旅行なら1万円で楽しめれば少なくとも経験値としては上がるでしょう。自分のアバターがレストランに入って注文してうまそうなものが出てきたらリアルのあなたは「たべたーい」と思うでしょう。これを体験しに行くなり、デリバリーを頼めばよいのです。これが仮想とリアルの融合でしょう。

これは人々が行ったことがない社会や世界、店や劇場に躊躇なく入れるわけで「気の小さい人のバリア」を取り去ります。また、何にでも興味を持つ人が更に広範囲にどこにでも行けるようになるのです。これが世界規模で育てば、例えば今日はパリのあの店でフランス料理を試すことも可能です。ベテランの店員が恭しくあなたを迎え入れ、フランス語で注文を取りに来るでしょう。ソムリエがワインを伺いに来ます。その時、同時通訳で日本語をしゃべればサーバーもソムリエも「Oui」と言ってくれます。

このソサイエティ5.0は360度全方向での同時展開が可能です。その場合、日本人の特性である皆で一気に走る場合には強力に開発を進めることができると考えます。IT企業から一般小売飲食店、サービス業や病院まで展開できます。

これが私の期待する日本の新しいビジネスシーンです。なぜ、アメリカやカナダでこれが展開しにくいか、といえば人材がいないこと、その人件費が高すぎること、人種が多すぎて異論が噴出しやすいため開発の水平展開がしにくいのです。このソサイエティ5.0は日本こそが国家規模で進められる大きなポテンシャルがあるビジネスだと思います。

そして私が描くのはリアル社会の激変です。この変化で日本そのものを大きく動かすことが可能になります。夢物語のようですが、我々は確実にその世界に踏み込もうとしています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月27日の記事より転載させていただきました。