唯一無二の魅力:幻のシャンパーニュ「サロン」

加納 雪乃

ル・メニル・シュル・オジェが本拠地の「サロン」。裏には自社の葡萄畑がある。
© Leif Carlsson

人生の特別な瞬間を華やかに演出してくれるシャンパーニュ。フランス北東部シャンパーニュ地方を生産地とするスパークリングワインで、その魅力は世界中で高く評価され、フランス食文化の大切な一要因になっている。

世界中のシャンパーニュ愛好家の心を捉える「サロン」
© Luc Monnet

シャンパーニュ愛好家にとって、「ドン・ペリニヨン」、「クリュグ」といった世界的にその名声が知られる高級シャンパーニュは憧れの的、その名を聞くだけで思わず頬が緩むだろう。

でも、そんな憧れの的を超える、幻のシャンパーニュとも呼ばれるものがある。「サロン」だ。

シャルドネ種葡萄の名産地であるコート・デ・ブランはル・メニル・シュル・オジェ村で、20世紀初頭にシャンパーニュ作りを始めたのは、この地方出身のウジェーヌ=エメ・サロン。

今でこそ、シャンパーニュは長期熟成を施こすのが常識だが、当時は若飲みが主流だった。そんな中でサロンは、熟成の可能性、さらに単一テロワール(気候風土)の可能性を追求した。

もともと毛皮商で財を成していたサロンにとって、シャンパーニュ作りはあくまで趣味。最初は、家族や友人知人たちで個人的に楽しんでいたが、そのおいしさがは徐々に知られるようになり、レストランからの購入要請も増加。パリの社交界の中心地だった名門レストラン「マキシム」のハウスシャンパーニュにもなっていたそう。

社長のディディエ・ドゥポン氏は大の日本好き
© Leif Carlsson

長期熟成が信条の「サロン」。シャンパーニュの規定では、瓶内熟成期間は最低15ヶ月、ミレジメ(ヴィンテージ)は最低3年。ただし、品質にこだわる多くのメゾンはもっと長く熟成させるし、ミレジメや特級ものは6〜8年の熟成をさせることが多い。

そんな中、「サロン」は最低10年の熟成を行う。しかも、葡萄の生育が「サロン」にふさわしい水準にないと判断する年には、葡萄は姉妹シャンパーニュメゾン「ドゥラモット」に回され、「サロン」は作られない。

20世紀初頭の誕生から今に至るまで、「サロン」が生まれたのはわずか43回。最新作は、4年ぶり昨年末にリリースされた、2012年だ。平均生産量は5〜6万本。ワイン好事家の間では、その誕生が心待ちにされ、リリース後はあっという間に完売。高級レストランからの入荷希望が非常に多いため、街のワインショップではなかなか目にすることができない、まさに幻のシャンパーニュだ。

運よく「サロン」を入手できたら、ぜひ手元で10年ほど寝かせてほしい。リリース直後は、すでに10年以上の熟成を経ているとはいえ、完全に花開いているとは言い難い。

「サロン」の魅力は、超長期熟成を経てようやく現れる、繊細な泡と共に広がるバターやナッツの芳醇な香りと、長い年月を経てなお凛とした存在感を放つフレッシュさ。

カーヴにて。熟成中のボトルと、古いヴィンテージの「サロン」
© Leif Carlsson

「サロン」だからこそ実現可能な、唯一無二の魅力がここにある。

葡萄畑に立つ石の看板
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