コロナワクチン接種後の死亡事例はなぜ因果関係が立証されないのか②

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厚生科学審議会へ資料として提出される新型コロナワクチン接種後の死亡報告事例は、2022年の5月13日の時点で総計1690件に達する。このうち、検討部会でワクチン接種と因果関係がありとされた事例は1例も見られず、99%を占める1680件は、情報不足により因果関係が評価できないと判定されている。

ワクチン接種後の死亡事例には、自己免疫性血小板減少症(ITP)やくも膜下出血のように、コロナワクチン以外の原因も考えられるが、発症機序からワクチンの関与を否定できない疾患グループが存在する。本稿では2つの疾患を例として、このグループに属する疾患による死亡が、ワクチン接種との因果関係があるか立証できるかを検討する。

自己免疫性血小板減少症とは

自己免疫性血小板減少症 (ITP)は、血小板の破壊と産生障害により血小板の単独減少を生じる自己免疫疾患である。小児ではウイルス感染やワクチン接種後にITPを発症することが多く、ウイルス感染やワクチン接種などが自己抗体産生の契機となると推定されている。

ワクチン接種後のITPは、 DPT(ジフテリア、破傷風、百日咳)、生ポリオ、風疹、水痘、インフルエンザ、MM (麻疹,ムンプス)、MMR(麻疹、ムンプス、風疹)、B型肝炎、ムンプス、MR(麻疹、風疹)およびBCGワクチンなどの接種後に報告されている。ワクチン接種後のITPの診断は、ワクチン接種から発症までの期間が6週間以内で他に明確な原因がない場合に可能性ありとされているが,因果関係の証明は困難である。

厚生科学審議会が公開したコロナワクチン副反応報告には、これまでに67人のITPが報告されているが、血小板減少症と報告されている例が53人あり、報告書の記載のみでは両者の区別は困難である。

そこで、ITPと血小板減少症を合わせた120人についてワクチン接種から症状が発現するまでの日数の検討を行った。120人のうち、99人(83%)はワクチン接種後4週間以内に症状が出現しており、他に明確な原因がなければ、通常の診療ではワクチン接種後ITPと診断されていると思われる(図1)。

図1 自己免疫性血小板減少症・血小板減少症のワクチン接種から発症までの日数

わが国では14人のITP・血小板減少症によるワクチン接種後の死亡例が報告されているが、そのうち11人はワクチン接種から4週間以内に死亡している。ワクチン接種と死亡とは全例が因果関係不明であるが、専門員のコメントがあった8人中6人は、時間的経過からはワクチン接種と血小板減少の因果関係は否定できないとされている。

これまでワクチン接種後に生じた死亡例として報告された1690人のうち、唯一、因果関係ありとして、α判定となった血小板減少の80歳女性を紹介する。この症例も1ヶ月後にはα判定が取り消されγ判定になっている。

専門員の評価

<第63回厚生科学審議会、2021年7月7日開催: α判定>
血小板減少が影響した可能性が考えられる出血所見は、発症時のくも膜下出血と黒色吐物のみであり、その後の致死的な出血は報告されていない。しかしながら、血小板減少によって腎不全に対する治療が実施困難となり、 尿毒症で死亡した可能性を考えると、血小板減少が本症例の経過および死亡に影響していると言える。 ワクチンと血小板減少の因果関係は不明である。 血小板減少はα判定。ワクチン接種後の血小板減少の原因としては,ワクチン自身の関与よりも、接種時の身体状態に問題があったのではないかと推測されるが、ワクチンが誘因になった可能性は否定できない。また,血小板減少と死亡との直接的な関連は不明である。

<第66回厚生科学審議会、2021年8月4日開催: γ判定>
コミナティ2回目投与後、95時間後に、くも膜下出血と血小板減少を認め、入院。コミナティ2回目投与7日後に死亡。コミナティと血小板減少との因果関係は否定できないが、くも膜下出血との関係は因果関係を判断できない。

筆者の見解:ワクチン接種と死亡との因果関係は不明とのことであるが、ワクチン接種後の血小板減少がくも膜下出血の誘因となり、その結果死亡したと解釈するのに矛盾点はない。7月7日には、血小板減少はワクチンの関与よりも接種時の身体に問題があったと推測しているが、8月4日にはワクチンと血小板減少との因果関係は否定できないとコメントしており、判定がα判定からγ判定に変更された理由が釈然としない。

今年の3月にファイザー社は、米国の裁判所からの開示命令に従い、ワクチン承認後の3ヶ月間に集められた1291種類の副作用の分析結果を報告している。40種類以上の自己免疫疾患に関連する自己抗体の出現が記載されているが、そのなかには、ITPの原因となる抗血小板抗体も含まれている。

くも膜下出血とは

くも膜下出血は、くも膜と呼ばれる脳の表面にある膜と脳との空間への出血で、脳動脈瘤の破裂が原因であることがほとんどである。血圧が乱高下を繰り返した後に、くも膜下出血を起こすことがあることから、急激な血圧の上昇が、くも膜下出血の誘因となることが想像される。

わが国では、コロナワクチン接種後に、79人のくも膜下出血による死亡例が報告されている。ワクチン接種当日に12人、翌日に26人、2日後に9人、3日後に12人とワクチン接種直後にその発生は集積している(図2)。

図2 コロナワクチン接種からくも膜下出血が発症するまでの日数

また、ワクチン接種直後に高血圧が見られることはよく経験されている。自衛隊接種センターで経験した急性期副反応発生例の報告では、血圧測定された203例のうち、34例(17%)に最高血圧が180または最低血圧が110を超える高血圧がみられた。

アンギオテンシン変換酵素(ACE2)は、ヒトの細胞の細胞膜に存在する膜タンパクである。アンギオテンシンⅠはアンギオテンシンⅡに変換され、さらに、アンギオテンシンⅡはACE2の働きでアンギオテンシン(1−7)に変換される。アンギオテンシンⅡは血圧を上げる働きがありアンギオテンシン(1−7)は血圧を下げる働きがある。

新型コロナウイルスは、ウイルスの表面にあるスパイクタンパクが、ヒト細胞の表面にあるACE2に結合してヒトの細胞内に進入する。スパイクタンパクが結合するとACE2の酵素機能は低下するが、コロナワクチンを接種するとスパイクタンパクが体内で産生され、ウイルスが感染した時と同様に、ACE2に結合して酵素機能は低下する。その結果、血中のアンギオテンシンⅡは増加、アンギオテンシン(1−7)は減少するので、血圧は上昇する。

以上を考慮すると、コロナワクチン接種直後に急激な血圧上昇が起こり、脳動脈瘤が破裂して、くも膜下出血を起こす可能性は十分ある。

コロナワクチンの接種後に死亡した事例の原因は多岐にわたるが、3つのグループに大別できる。第2グループは、今回紹介したくも膜下出血やITPのように、コロナワクチン以外にも原因はあるが、発症機序から考えてワクチンの関与を否定できない疾患である。

通常の診療では、第2グループに属する疾患ではワクチン接種と疾患発症とに時間的関連性があれば、疾患の原因とみなされる。しかし、厳密に因果関係を求められると、ワクチン接種後に発症する症例のみに見られる特異的なマーカーがないことから、その証明は医学的には不可能である。しかし、因果関係がないとも言い切れないことから、検討部会では99%の症例は因果関係を評価不能にしている。

ワクチン接種後に死亡した患者を持つ家族は、副反応検討部会の判定を最後の拠り所として期待しているが、厳密な医学的判定は不可能であることを理解している人はどれだけいるだろうか。

医学的に因果関係を判定することが不可能なことを考慮すると、ワクチンによる健康被害の救済には何らかの政治的判断が必要であろう。韓国では、一定期間内の新型コロナワクチン接種後の死亡者全員に対して、5000万ウオン(約480万円)の慰労金を支給している。一つの方法である。

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