凡人たる生き方

北尾 吉孝

上阪徹著『1分で心が震えるプロの言葉100』の中に、経営共創基盤(IGPI)グループ会長・冨山和彦さんの次の言葉が載っています――予定調和的な秩序は信用しなくなりました。確実なのは、“確実なものなどない”ということ。そしてプロは生き残れるということです。

プロは言うまでもなくプロフェッショナルの略で、元々の意味はプロフェッション(profession:賃金が支払われる職業)から来ています。そうした職業に従事する人々の中で特別なトレーニングを要したり、何らかの資格を要するような専門的な仕事をする人を称する言葉がプロフェッショナルということだと小生は認識しています。

さて、こうした定義に当て嵌まる人々をプロだとすると、医師や歯科医、弁護士、会計士、芸術家、音楽家といった人達は全てプロでしょう。では、その人達は生き残れるのでしょうか。

例えば、音楽家や芸術家で後世に名が残るような人は数限られているでしょう。学者もそうでしょうし、殆ど名を残せるようなプロはいないと思います。凡そ大多数のプロと自認されている人達は生き残らないと思います。金融の世界でも同じです。

だから我々凡人は自分が興味や関心があり、得意だと思い、多少とも世の為人の為になることを世俗的な名声など得ようと思わず、一生懸命やれば良いだけです。誠実に世の為人の為に生きて行けば、必ず周りに良い感化を齎して行くものです。それで十分なのではないでしょうか。

もちろん天賦の才に恵まれた上、人並み外れた努力を積み、新しい境地を開き達人の域に到達し、「死して名を残す」ことが出来れば、これはこれで素晴らしいことでしょう。

我々のような凡人は西郷隆盛に評された山岡鉄舟のように「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人」にはなれないですが、せめて世の為人の為という志を持ち、後世に何かを成し遂げたいものですね。


編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2022年6月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。