暗号資産の将来は暗いのか、というお題に対し、私の今のポジションは必ず市民権を得ると考えています。
暗号資産と仮想通貨、呼び名の違いは日銀が通貨の定義を市場で流通する価値交換手段と考えたからで「資産」ならその役割を持たせる必要は当面はないわけで上手く考えたものなのです。
最近、「これから投資して儲かるものは何でしょうか?」という質問に対して「絵画」という声が出ているようです。私はそちらには全く疎いのですが、80年代後半のバブル最盛期の投資先は絵画、ゴルフ会員権が有名でした。特に絵画取引ではイトマンという商社の倒産の引き金の一つになったほどです。最近では健康食品とか、水、更にトレーディングカードといったものも投資対象になっているようで、世の中、極端な話すべてのモノが投資対象になりえるのです。
私は最近「砂戦争」(石弘之著)を読んだのですが、砂は現代社会に絶対不可欠な資源であり、その争奪戦でマフィアまで存在するそうです。とすれば砂だって投資対象になるわけです。我々は株式や為替や住宅といった対象こそが投資だと思っていますが、そのすそ野は限りなく無限にあるともいえるのです。
問題はその投資対象の①取引ボリューム②取引の基準と公明性③社会的意義④認知度⑤安定性といった点が尺度となり、結局、上場株式、そしてできればプライム市場に上場している大手企業ならば①から⑤はほぼ満たされ安心だと考えます。
では絵画はどうか、と言えば市場の流動性が限定され、ごく一部の世界での取引になります。例えば前澤友作氏がバスキアの絵を6年前に62億円で購入し、最近110億円で売却したことが大きく報道されました。単純差額は48億円で、人々はこの圧倒する絶対額に驚愕し「絵画って儲かるんだ」と思うわけです。しかし上昇率は6年で77%、単純に年換算すれば複利で10%にもなりません。これならバンクーバーの住宅の方がずっと儲かるわけです。
数多い投資対象の中で暗号資産もその一つであり、投資対象として上記の①から⑤を満たそうと少しずつ進化しているのが今日の姿です。そもそも存在しなかった投資対象だけにビットコインが話題になった後、無数の暗号通貨が生まれたのです。その99.99%は淘汰されます。淘汰の過程で最近、韓国発の「テラ」という暗号資産も崩壊しました。そしてそれがステーブルコインと銘打っていたことで「全然安定も安全もないじゃないか」という大失望となり、ビットコインほか、暗号資産の相場が崩れたわけです。
ですが、以前にもちらっと申し上げたと思いますが、この「テラ」の仕組みは崩壊しても全然おかしくない体質でした。今回のきっかけはある大量の売りにより売りが売りを呼び、安定機能が壊れたというのが理由です。「テラ」の安定機能は別の暗号資産「ルナ」との裁定取引という仕組みでしたが、当初から批判や問題点の指摘は多かったとされます。
私から見ればこれは株式市場で時々起きる上場会社の倒産と大きな違いはないのです。暗号資産反対派はこれを大げさに取り上げ、「暗号資産はやっぱり機能しないじゃないか」と言いますが、そもそも資産であって通貨ではない上に世の中、100%エラーのない経済や投資の仕組みなどそもそもあり得ないのです。
私は時々為替の話を振ります。地球上に数多くの通貨が存在し、24時間、その価値は動き続け、あるきっかけで新興国の通貨は奈落の底に落ちてしまいます。これと「テラ」の話の違いは?といえば納得できる説明は難しいでしょう。
仮想通貨と称するのであれば安定的に流通し、人々が容認できる変動幅に収まることが必要です。その点、ビットコインは仮想通貨にはなりえません。理由はそもそもの設計が無担保型であり、価値の激変が前提条件となるからです。但し、ビットコインが作り出した暗号資産普及への貢献は誰も否定できないでしょう。
今やETFもあり、個人のみならず、機関投資家やファンドが資金を投入し、価格の安定性が少しずつ形成されています。そのうちに世界共通の仮想通貨が出来、それがゲーム課金や仮想現実の決済手段として使えるとすればこれはそれらの参加者に圧倒的な利便性を与え、世の支持を得られることは間違いありません。
私は暗号資産の中から世界共通に取引できる本当の意味での仮想通貨が生まれると思っています。それはやはりステーブルコインだと思うのですが、主要通貨の加重平均と金や一部のコモディティを含むバスケット型にすれば論理的には安定性は相当増すはずです。為替は2国間のシーソーであって、片方が強ければ片方が弱くなるだけですから両方を取り込めば理論上、ゼロになります。つまりリスクは回避でき、為替上の不安定感は解消できるのです。
ただ、中央銀行はこれが面白くないのです。自分たちの支配下にある政府通貨を超えるものが生まれるならば自分たちは何ために金利を上げ下げしているのか、その本質が問われてしまいます。それゆえに必死で普及を阻止しているのが現状でしょう。
ですが、民間企業は必ず中央銀行を凌駕する仕組みを作り上げられます。それはたぶん、真っ向からの対立ではなく、じわっと市民権を得るというスタイルになるでしょう。時間はかかると思いますが、私は世界共通の仮想通貨はいつかできるのだろうと思っています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月7日の記事より転載させていただきました。