独立財政機関を否定する日本の非常識が歳出膨張の一因

主要国は独立財政機関を設立し政治を監視

政府は経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)と、「新しい資本主義」の実行計画を閣議決定しました。「骨太」とはよくいったもので、その中身に対しては「野放図な財政支出」(読売新聞社説)、「歳出拡大の圧力が増大」(日経社説」の悪評が聞こえてきます。

日本銀行 同行HPより

中央銀行が独立性を失い、財政と一体化してしまいました。主だった国ならどこでも設けている独立財政機関が日本にだけありません。設けようという動きもありません。日本の常識は世界の非常識なのです。

「骨太の方針」のタイトルには「改革」の一文字がついています。財政状態を「改革」するのかというとそうではない。低迷する経済、景気情勢を「改革」するとのが先というのが本意で、そのためには財政に犠牲を強いる。財政状態は二の次という位置づけです。

財源には無頓着です。私は5日、ブログ「効果が分からない出費が急増する高コスト社会」を書きました。「必要なカネは惜しまずに出す」が政治に浸透した原則になってしまい、主要国最悪の財政状態はおかまいなしです。

円安は1ドル=135円を目指す展開です。円安と資源高が物価を押し上げているのに、日銀総裁は「家計の値上げ許容度も高まっている」と発言し、猛反発を受けて陳謝、撤回する光景にはあきれ果てます。「財政を支えるのが先なので、金利を引き上げられない」とでも正直にいったらよかった。

「骨太の方針」には、カネのかかる話がこれでもかこれでもかと、書き連ねてあります。「必要なカネ」が多いことは確かです。その「必要なカネ」は、財源の手当てのめどをつけることが前提であるはずなのに、経済成長を実現すれば財政は改善するという甘い見通しに依拠している。

「2050年の脱炭素化実現に向け、今後10年間で150兆円の官民の投資を先導するため、十分な規模の政府資金をGX経済移行債で調達する」とあります。いわゆる「グリーンボンド」(国債)です。本来なら高率の炭素税が必要なのに、エネルギー価格が高騰しているため、先送りということです。

また、「国家安全保障戦略の検討を加速し、防衛力を5年以内に抜本的に強化する」とあります。現在5兆円の防衛予算を10兆円にする意向です。消費税2%程度の引き上げが必要な規模です。これから2%のインフレが来るという時に、消費税のことは政治的に触れられないということです。

多くがこのような具合です。「野放図な財政」の一因は、日本には独立財政機関がないことにあります。他国では独立機関が政治や行政に対して中立的な立場から、分析や提言をしています。

先進主要国(G7)で、独立機関がないのは日本だけです。主要国グループのOECDは独立機関の設立を提唱してきており、2000年には8か国だったのが現在は約40か国に達しております。

韓国(03年)、カナダ(08年)、英国(10年)、豪州(11年)、独仏(13年)、伊(14年)などです。欧州債務危機の教訓から13年、ユーロ圏では独立機関の設立を義務化しています。

日本でも21年6月、「独立財政機関の設立を考える超党派の議員の会」が設立され、林芳正議員(現外相)も代表発起人の一人です。声は上がったけれども、具体化の動きは全くありません。

せめて「骨太の方針」に書き込むべきところです。岸田首相らが財政規律を意識はしていても、安倍元首相が積極的な財政出動を重視し、高市党政調会長らが手足となって動いていますから、無理な話なのでしょう。

独立財政機関を設置さえすれば、財政問題が解決するというものではありません。しっかりした専門家を集め、その提言、勧告を政治が尊重しなければならない格付けが必要です。

通常ならば、中央銀行が経済財政に対して中立的な立場をとり、金融政策を通じて、財政にも影響を与える。つまり金利が上がれば、国債金利も上がり、利払い費が増えることによって、野放図な歳出膨張・国債発行に歯止めがかかるはずです。

その中央銀行が安倍首相、黒田総裁の手によって、政府と一体化してしまい、財政政策に影響を行使すべき機関がなくなってしまいました。ですからますます独立財政機関の設立が求められるのです。

「骨太の方針」では「財政健全化の旗は降ろさず、これまでの財政健全化目標の取り組む」と言いつつ、他方で「状況に応じたマクロ経済政策の選択肢がゆがめられてはならない」と書き、骨抜きにしてしまいました。

朝日新聞の社説は「防衛費をはじめとする歳出の拡大に歯止めがかからない。歳出の拡大だけをいうのは、財政運営の名に値しない」です。主要紙はほぼ同様の主張です。そこまで言いながら、財政に対する強力なチェック機関の設置を提言しないのか不思議です。

G7やOECDが構成国、加盟国に対し、独立財政機関の設立を義務づけたらよいと思います。そうでもしないと、日本は動きそうにありません。

あるいは、金融財政が破綻状態に陥り、国際的な信認を回復する証の一つとして、独立財政機関を遅ればせながら設置する。そのどちらかになるのでしょうか。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年6月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。