どう向き合う、高齢者が住む高齢の住宅:お金をかけない選択肢は難しい

木造一軒家の法定上の減価償却は22年ですが、実用年数はその2倍にも3倍にもなっています。つまり、多くの方が前線で活躍していた30-40代頃に苦労して手に入れた一戸建て住宅に40年ぐらいお住まいになっているのはごく普通ということになります。

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私の実家は私が15歳の時に建て直したので築46年になります。当時はやりの軽量鉄骨造、1階が店舗で2-3階が住宅というやつですが、当然ガタはあちらこちらに発生します。それを一つひとつ問題を潰すように手入れしているので無理に無理がかかっていますが、まだ10年や15年は手を入れれば問題なく住めます。

ですが、建物がどれだけ丈夫でメンテされているとしても階段や段差、使い勝手という意味ではほぼ、限界に達しています。これらを直すのはほぼ無理。高齢者には蛍光灯が切れても交換できず、数多く設置されている収納棚でもちょっと高いところの段にはもう手が届きません。

私が知っているある高齢のご婦人も戸建て住宅にお住まいながら2階の寝室に上がれなくなってもう何年にもなり、「結局生活の全ては1階の居間よ。そこで寝て、食べての繰り返し」だそうです。

高齢の方が自立した日々の生活がいよいよ厳しくなると「私も老人ホームに入ろうかしら」という井戸端会議的な話題は多いようです。ただ、私は勧めません。個人的信条もあるのかもしれませんが、老人ホームに入ると「『気』を持っていかれる」のです。ホームにいる方は残念ながら元気がない方が多いわけでそうなると自分もそれに合わせるというか、元気の部分を吸い取られるような感じになるのです。なので急に老けたりするのです。「健康は気から」というのは本当なんです。高齢になったら若いエキスをもっと吸うべきです。

では、高齢者はどうすればよいのでしょうか?私はなるべく自宅で居住するのがベスト。2階に行けなくても1階で生活できるならそれは一手です。段差がある、階段があるという問題が克服できないならアパートやマンションを借りて段差のない生活をする方法はあります。但し、賃貸住宅の入居は収入がある人にしか貸さないのが最近の主流です。

ならば、不動産屋的発想なのですが、高齢者がお住まいの不動産を担保に賃貸住宅に入居するというのは出来なくはないかもしれません。大家からすれば賃料の振り込みがなくなっても担保があるのでいざとなればそれでカバーできます。それでも現実問題としては厳しいでしょうね。なぜなら大家さんは居住する高齢者の安全問題と孤独死は見たくないから。

ではもうすこし発展させて高齢者向け専用アパートというのもありです。高住専があるじゃないか、といわれると思いますが、東京なら概ね月20万円前後の物件には入れないという人も多いでしょう。ならば普通のアパートでよいのです。軽微なサービス兼安全確認をオプションでつけます。買い物支援、家事補助、その他よろず相談です。これはサービス部分のクオリティ勝負になりますが、10部屋ぐらいの規模でスタッフを1.5人程度で廻す小規模物件なら潜在需要はあると思います。

次に自宅派のケースです。古くなった住宅の改装は資金がかかります。特にチラシに入ってくるトイレや台所、ふろなど特定の水回りだけを直すと数百万円単位になることもあると思います。あれはぼり過ぎなのです。一般向けと業者向けでは施工費用はびっくりするほど違うのですが、その多くは一般向けの場合、材料と人件費に対してずいぶん利益を乗せているのです。大体トイレ、ふろなどの価格は公称価格に対して業者は半額程度で納入してもらうのが多いと思います。とすれば実はある程度信用のおけるリノベ、リフォーム屋にお願いして小アイテム改修ではなく、ここからここまで全部で300万円でやってくれ、といったほうが結果としては上手くいくことが多いと思います。

私は東京でいくつか古家の全面改装方式を採用したのですが、業者価格というのはこれほど安いのか、とびっくりするほどでできるものなのです。

あとは既存の家のメンテサービスでしょうか?近所のよろず屋さんがお手頃価格で面倒みてくれる仕組みは大事でしょう。電話一本で電球の交換や届かない棚のものを動かしたり風呂の掃除などをする生活支援サービスも需要は大きいと思います。

そこまでするならマンションがいい、とおっしゃる方。築40年のマンションの価値は厳しいです。おまけに修繕費が余計かかるようになり金食い虫になりかねないのが古いマンションだと思います。最近の管理費は上昇の一途。こう考えればお金をなるべくかけない老後人生、なかなか選択肢は難しくなっているのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月10日の記事より転載させていただきました。