ノスタルジアか新たな切り口か?CDを抜いたアナログレコードの売り上げ

先日、当地のショッピングモールを歩いていたところレコード店が入居していることに気がつき、ふと入ってみました。店内には20人以上の客がレコードや古いCD、DVDをあさっています。私が特に気になったのはレコードでLPジャケットが並ぶコーナーには70年代80年代のあの人、このグループの名前を数多く見ることが出来ました。

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音楽はレコードやCDという所有する文化からオンラインやストリーミングといった聞き流す時代になりましたが、圧倒的なファンに所有欲があるのは今も昔も変わりません。そんな忘れかけていた欲望がふつふつと湧き上がってきたのでしょうか、日経の記事には「2020年、米国でついにアナログレコードの売り上げがCDを抜いた。日本でもアナログレコード生産が復活の傾向だ。その理由は中高年のノスタルジーではなく、むしろ若い世代の関心だという。確かに星野源や宇多田ヒカルなど、あえてアルバムをアナログレコードで販売する現役アーティストも目立つ」とあります。

時代の変化と共に古き良き時代の文化を切り捨てることが当たり前のようになったこの数十年ですが、当然、新しい時代の新しいモノやサービスが前時代より絶対完璧に優れていると断言はできません。たとえば私がこの10年以上、アセットライトの時代だと申し上げてきて世の中の風潮も確かにそちらに流れていますが、人々の所有欲がそれで廃れたわけでもありません。

「私、ミニマリスト」という人は案外多いのですが、全てにおいてミニマリストではない人が案外多い点はあまりフォーカスされていません。つまり、自分の所有物の8割はミニマリストだけどある特定の自分が大事にしているものについては「物欲の塊」と化している人もいるのです。つまり一種のこだわりです。

10年後、自動車は所有よりサブスクだよね、という時代になっているかもしれません。が、必ず一定割合の人は「所有」を続けます。例えば自動車はリースという手法が30年ぐらい前に普及期を迎え、多くの自動車販売会社は個人客向けに36か月リースを提示、最盛期には24か月リースの文字が広告に踊っていました。なぜ24か月かといえば「いつも最新型の車に乗れる喜び」をメーカーが提示したわけです。ところがこのリース手法は案外横展開しなかったのです。何故かでしょう?顧客のコスト見合いが悪かったことは一つあるでしょう。

リースはその期間、それなりに高い金利がかかっているうえにリース満期時の車両下取り価格の設定が案外低いものが多いのです。すると借り手は金利は払うわ、リース料は高いわ、なのですが、当初は気がつかないわけです。自動車会社も車両がどういう状態で返却されるかによるリスクはあります。理由は借り手が「自分の車じゃない」ということで大事に乗らないことはあるかもしれません。

私は日本に古いレコードが結構あります。買った時のビニールに入れて大事に保存しているので状態も悪くないはずです。レコードの何が良いかといえばジャケットを広げた時の買った人にしかわからない没入の世界かもしれません。あるいは歌詞カードが入っていたりちょっとした解説があったりしてレコードというよりレコードから聞こえる音を所有していた感覚でしょうか?

私は書籍の所有量はそれなりにあると思います。今でも2度読み、3度読みする書籍があるのですが、自分なりに本棚に並べたその蔵書コレクションを眺めながら「あぁ、この本、どんな内容だったっけ?」とふと手にしたくなるからでしょう。私は本は解説まできっちり読みます。それは読破したというよりその書籍の内容を自分の所有物にしたいので側面評価も知りたいと思うからでしょう。

現代のマーケティングは確かにモノを所有せずに借りることに偏重しています。それは8割のモノでそれが可能ですが、必ずコアなファンはおり、その人たちが驚くべき消費量をもたらすということも忘れてはならないでしょう。

私の経営するマリーナには一艘数億円するクルーザーが並んでいます。しかし、所有者が船を動かすのは年に数回でしょう。中には一度も動かさない人もいます。持っているだけでうれしいのでしょう。現代風の考え方ならばこの現象を説明できません。サブスク?リース?ミニマリスト?どれでもありません。やっぱり欲しい人は欲しいのです。

とすればすべてのビジネスには大きなニッチがあったということになります。ある書店がAIを駆使して返本を減らすことを開発したと報じられています。私はそれは間違いである、と思います。書店がコンビニ化してほしくないのです。つまり、売れ線しかない本屋はアマゾンで十分。本屋はそれぞれの個性と発見の楽しみがあるという本好きのワクワク感の合致こそが全てなのであるということを忘れてはならないのです。

現代のビジネスは極端な方向に走りやすいですが、本当に腰を据えて見るといろいろなチャンスがあること、私たちはずいぶん見落としている気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月13日の記事より転載させていただきました。