欧州の「鉄のカーテン」小史:新たな壁が作られようとしている欧州

北大西洋条約機構(NATO)に加盟を決定した北欧フィンランドは、対ロシア国境沿いの警備強化のためフェンスなどの壁を設置するという。同国はロシアと約1300キロの長い国境線で向かい合っている。全国境線に壁を作るのではではなく、警備上必要不可欠な地域に壁(障壁効果を持つ頑丈なフェンス)を構築する。同国政府はそのための法改正を行うという。

オーストリアとハンガリー間の“鉄のカーテン”を切断するホルン・ハンガリー外相(当時、左)とモック・オーストリア外相(当時、右)=1989年6月27日、両国国境で撮影

冷戦時代を思い出すフィンランドの警備強化

この外電を読んだとき、ソ連・東欧共産圏と西側民主国が対立していた冷戦時代を思い出した。同時代は東西両欧州が“鉄のカーテン”と呼ばれる壁で分断されていた。その代表的な壁は東西両ドイツを分断していた“ベルリンの壁”だ。

東西間の“鉄のカーテン”を最初に切断した国はハンガリーだ。ハンガリー共産党政権(社会主義労働者党)は1989年6月27日、オーストリア政府との合意に基づいて両国間の“鉄のカーテン”を切断した。当方は壁切断の日、ウィ―ンから現地に取材に行った。オーストリアのモック外相とハンガリーのホルン外相がカッターで鉄条網を切断した。両外相とも歴史的な瞬間を迎え、緊張していた。

“鉄のカーテン”の切断が旧東独国民に伝わると、多くの旧東独国民がハンガリー・オーストリアを経由して旧西独に亡命した。その結果、旧東独政府は国民の自由な移動をもはや阻止できないと判断、最終的にはベルリンの壁が崩壊していった。その意味で、“鉄のカーテン”の切断を決定したハンガリーのネーメト政権は歴史的な功績を残したことになる。

ちなみに、当方はその後(1989年10月)、ブタペストの首相官邸でミクローシュ・ネーメト首相と単独会見をしたが、同首相は当時、旧ソ連共産圏では最年少の首相だった。同首相は会見の中で「わが国は共産主義から決別する」と明言し、共産圏の民主化運動の突破口を開いた。

自由に移動できる時代の到来

共産主義陣営と民主主義陣営を分断していた“鉄のカーテン”は消滅し、欧州ではシェンゲン協定で国境管理も撤廃され、自由に移動できる時代が到来した。

「欧州の大統合」という夢が現実味を帯びてきた矢先、中東・北アフリカから難民が殺到した2015年、ハンガリーのオルバン政権はいち早く、国境線の警備強化に乗り出し、「欧州のイスラム化」を阻止すると豪語し、欧州連合(EU)のブリュッセルが提示した難民受け入れ枠を拒否した。隣国オーストリアもバルカン・ルートからの難民殺到を阻止するために鉄条網を急設した。

“鉄のカーテン”を最初にカットしたハンガリーとオーストリア両国がその26年後、皮肉にも、新しい鉄のカーテン(鉄条網)を他の欧州諸国に先駆けて構築したわけだ。

ところで、“第1の鉄のカーテン”は外からの侵入防止というより、内からの亡命阻止が主要目的だった。旧西独を目指した多くの旧東独国民がベルリンの壁を越えようとし、警備兵によって射殺された。一方、“第2の鉄のカーテン”は明らかに外からの侵入防止を主要目的としている。

経済難民の殺到を防ぐ狙いだ。より良い未来を夢見てボートで欧州を目指したが、地中海の海で溺れ死んだ多くの難民がいる。第1、第2の両カーテンには設置目的が異なる。「壁」は部外者の侵入を防ぐ一方、外の世界に出て行こうとする人々を妨げる。

“自由を得る”ためと“自由を守る”ための違い

オルバン首相は2016年10月17日、ドイツ南部バイエルン州の州議会でハンガリー動乱60周年の記念講演をし、「1989年は共産政権時代から民主化へ向かう転換期だった。ハンガリーは旧東独国民のためにその国境線を開放しなければならなかった。そして昨年と今年、ハンガリーは国境を閉鎖せざるを得なくなった。なぜなら、自由を守らなければならなかったからだ。両者はコインの両面だ」と語った。簡単にいえば、前者は“自由を得る”ため、後者は“自由を守る”ためだったというわけだ。

北欧フィンランドで今、新たな壁が作られようとしている。フィンランドの場合、明らかに外(ロシア)からの侵入防止が目的だ。同時に、ベラルーシのルカシェンコ政権のように、ロシアが多くの難民をフィンランド国境に送り込むことを防ぐために検問所が設置されるという。

フランシスコ教皇は、「如何なる壁も非キリスト的だ」と述べたことがあったが、「壁」はどの時代にも人が存在するところでは常に作られてきた。人の心の中に「壁」があるからだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。