日本共産党は「共産主義」放棄 の大改革が不可欠

『日本共産党「革命」を夢見た100年』の衝撃

最近刊行された一橋大学大学院教授中北浩爾氏の著書『日本共産党「革命」を夢見た100年』(以下「本書」という)は、日本共産党の100年の歴史を国際共産主義運動との関連において詳細に分析し総括しており、理論的水準が高い。

日本共産党に関しては、古くは評論家立花隆著「日本共産党の研究」(昭和53年 講談社)や、筆坂秀世著「日本共産党」(2006年 新潮新書)、最近では佐藤優・池上彰共著「日本左翼史」(2021年 講談社現代新書 )などがある。しかし、理論的水準の高さにおいて本書は出色と言えよう。

常に変転する共産党の戦略・戦術

本書から、日本共産党が、常にその戦略・戦術を目まぐるしく変転させてきた歴史が見て取れる。党綱領五に規定されている「社会主義・共産主義の実現(二段階革命論)」は、ほぼ一貫しているが、実現のための戦略・戦術は一貫せずに極めて変転してきた。

典型的な事例は、1950年代前半の徳田球一・野坂参三・志田重男指導部による「平和革命路線」から「暴力革命路線」への転換と、数年後における「平和革命路線」への回帰である注1)

「武装闘争方針は中・ソ両国共産党の強要であり、日本共産党の追従であった」(本書238頁)とされ、国際共産主義運動の「権威」に追従する脆弱な党の姿を示している。日本共産党には、社会主義革命を成し遂げた中・ソ両国共産党に対するコンプレックスが見て取れる。今後も激しい変転が予想される。

他の野党との「連立」を追求せざるを得ない共産党の最大の弱点

本書では、日本共産党は、単独では政権を取れず、政権に近づくためには必ず他の野党との「連合政権」ないし「連立政権」への参加が不可欠であることを示唆している。

私見によれば、ここに日本共産党の最大の弱点がある。共産党は、政権に近づくためには他の野党との「連立」を追求せざるを得ないのである。しかし、共産党は、これまで、他の野党に対し、1970年の「民主連合政府」提唱、2015年の「国民連合政府」提唱、2020年の「野党連合政権」提唱などを続けてきたが、ことごとく実現せずに失敗している。

共産党の「共産主義イデオロギー」と「非武装中立」への固執

失敗の最大の原因は、他の野党及び国民からも旧ソ連共産党・中国共産党と同様とみられる党規約2条の「共産主義イデオロギー(マルクス・レーニン主義)」に対する固執と、安保条約廃棄、自衛隊違憲解消という、外交一辺倒で「抑止力(反撃能力)」を完全に否定した安全保障政策に存在する。中北氏によれば共産党の安全保障政策は、旧日本社会党と同じ「非武装中立」である(本書304頁)。

まず、安全保障政策について、共産党は、軍事対軍事の対応はエスカレートし、戦争を誘発する危険性があると主張し、防衛力の強化に強く反対する。しかし、相手国との軍事バランスが大きく崩れ、「抑止力(反撃能力)」が低下することこそ「力の空白」が生じ侵略を誘発し極めて危険であることは自明である注2)

今回のロシアによるウクライナ侵略がこれを証明している。世界に米国を軍事侵略する国が皆無なのは、米国が核を含む強大な「抑止力(反撃能力)」を保有しているからに他ならない。

次に、日本共産党が党規約2条に定める「マルクス・レーニン主義(科学的社会主義)」の核心は、レーニンによれば、「暴力革命とプロレタリアート独裁であり、暴力のあるところに、自由も民主主義も存在しない」注3)。プロレタリアート独裁とは、レーニンによれば、資本家に対する労働者階級の権力であり、どんな法律にも拘束されない権力である注4)。その実態は共産党一党独裁である。これは「法の支配」と明らかに矛盾する。

さらに、「暴力革命」に関連して、日本共産党は現在も「敵の出方論」注5)を明確には放棄していない。これは、敵の出方次第では暴力革命を行うということであり、「議会制民主主義」と明らかに矛盾する。

日本共産党は「共産主義」放棄の大改革が不可欠

2021年の総選挙の結果、立憲・共産両党の「閣外協力合意」は失敗し、両党とも得票数も議席数も減らし敗北した。その原因は、両党に比べて「改革志向」が強い「日本維新の会」に若年層や無党派層などの大量の票を奪われたことと、それよりも重要なことは、日本国民の共産主義に対する恐怖心である「反共産アレルギー(共産党拒絶反応)」の影響によるものと筆者は分析している。

このため、立憲民主党執行部は、「閣外協力」を白紙に戻し、現在共産党との「選挙共闘」に消極的であり事実上拒否している状態である。

日本共産党が立憲民主党など他の野党との「連立政権」参加により政権に近づくためには、他の野党及び国民の「反共産アレルギー(共産党拒絶反応)」を解消する必要がある。そのためには、イタリア共産党のように、「共産主義イデオロギー」であるマルクス・レーニン主義(科学的社会主義)を放棄し、社会民主主義政党に大改革することが不可欠である。

すなわち、マルクス・レーニン主義の核心である「暴力革命(敵の出方論)」と「プロレタリアート独裁(社会主義をめざす権力=党綱領五の16)」の概念を新綱領において明確に放棄し、「法の支配」と「議会制民主主義」に基づき改革改良を目指す社会民主主義政党に大改革する必要がある。

さらに、党最高幹部の独裁をもたらす党規約3条で定める「民主集中制」を放棄し党内民主主義を確立する必要がある。「民主集中制」は共産党が政権を獲得した場合に国政において共産党最高幹部の独裁をもたらす危険性があるからである。旧ソ連のスターリン独裁がその実例である。

そして、共産党は、日米安保と自衛隊を認め、日本の「抑止力(反撃能力)」強化を容認する必要がある。なぜなら、ロシアによる国際法違反のウクライナ侵略や、核を含む軍事力を増強する中国・北朝鮮の脅威を考えれば、日本の安全保障上「抑止力(反撃能力)」の強化は必要不可欠だからである。

上記の大改革をしなければ、日本共産党は半永久的に政権に近づけないであろう。

なぜなら、立憲民主党をはじめとする他の野党や多くの国民が、暴力革命とプロレタリアート独裁を核心とする「マルクス・レーニン主義(科学的社会主義)」に立脚する日本共産党への恐怖心による拒絶反応を示すのみならず、安保条約廃棄と自衛隊違憲解消を主張し、安全保障上必要な「抑止力(反撃能力)」を完全否定する「非武装中立」の日本共産党に対しても、「連立政権」への参加を現在及び将来にわたって拒絶し続けるであろうからである。

注1)日本共産党中央委員会著「日本共産党の70年」上巻240頁。1994年新日本出版社
注2)小泉信三著「私の平和論について」小泉信三全集第10巻463頁。昭和42年文藝春秋社
注3)レーニン著「国家と革命」レーニン全集第25巻432頁。499頁。1957年大月書店
注4)レーニン著「プロレタリア革命と背教者カウツキー」レーニン全集第28巻249頁。1958年大月書店
注5)「革命が平和的か暴力的かは敵の出方による」=宮本顕治著「日本革命の展望」315頁。1966年日本共産党出版部。不破哲三著「人民的議会主義」244頁。1970年新日本出版社